第4話 ナイクネス帝国
【スタング洞窟出入り口 屋外】
エーイは信じてくれた、俺を。
なら、必ず成し遂げる。
帝国兵士
「てめぇー・・・てめぇーてめぇーてめぇー!!てm・・・っ!!!??」
カズキ
「術技 ボリュームキル、思った通りこれも対象選択が出来るか」
声を失った兵士はじたばたとしていた。
どうにかして音を出そうとしているのだろう、非常に滑稽だ。
カズキ
「後ろの傍観者はやる、お前はこいつを」
エーイ
「・・・はい!」
いい顔での返事だ。
これが見れたらなら大丈夫だ。
そう決意しアクセルムーヴをし傍観者共の目の前に移動し、ついでにボリュームキルをオフにしてやった。
帝国兵士
「ッ!ッ!!!ッー!!!! ろしてやるぞおおお!!!」
エーイ
「はっ・・・肝心な部分が聞き取れなかったぞ? もう一度言ってくれや」
帝国兵士
「てててててててて・・・てめぇええー!!!!」
エーイは大丈夫だろう、あんな余裕な顔をしてるんだ。
逆に相手が不安ではあるな、最悪死ぬかもな
目の前にいる傍観者共に気にも留めずあちらが心配になる。
傍観兵士A
「きき、貴様! 無礼であるぞ!」
カズキ
「やめろウジ虫、意思疎通を図るな」
傍観兵士B
「なな、ききき、貴様!」
カズキ
「・・・・・・」
今俺どんな顔してるんだろう。
すげー見たい、今までしたことのないような顔してるんだろうな。
傍観兵士C
「これ以上近づくな、私はブレイトワイr」
バキッ!!!
カズキ
「・・・不愉快」
一人の兵士の武器を破壊した。
アクセルムーヴで近付きウェポンキルで一撃だ。
傍観兵士D
「よくも!!」
一人がこちらに近付き剣を振り被った。
動きは・・・遅い。
カズキ
「ウェポンキル」
ガンッ!!!とミツバとの衝突で轟音が響いた。
同時に衝突した兵士の武器を粉々に破壊した。
傍観兵士D
「なっ・・・!!?」
破壊の衝撃からか、後ろに飛んで行った。
傍観兵士E
「同時にいくぞ!」
傍観兵士B
「おうっ!!」
今度は二人掛かりか。
それでも動きは遅い・・・対応できる。
カズキ
「アクセルムーヴ ウェポンキル」
一人の振りかぶり前に武器を破壊。
そして次に来るやつも一緒に。
ガキンッ!!!!
剣を弾いた、だけ。
なるほど、破壊は一回までってことか。
剣を弾かれた兵士は衝突の衝撃に耐えれなかったのか武器が手からほっぽり出され自身はその場で尻もちをついていた。
剣は完全にあさっての方向へと飛んで行ったみたいだ、あれは大丈夫だろう。
傍観兵士A
「ストライクブレイエエイド!!!」
カズキ
「ウェポンキル」
ガキンッ!!!
5回目の金属の衝突音が鳴り響く。
だが、今までとは違っていた。
傍観兵士A
「フハハハ!! ご自慢の武器破壊術技は失敗のようだな!!!」
ウジ虫の言う通りだ。
だがこれは想定内、ただの確認だ。
傍観兵士A
「我が剣は、先祖代々に受け継がれし名刀! 貴様のような奴に壊されるような代物ではない!!!」
カズキ
「なるほど、ウジ虫にも先祖がいるのか、勉強になったよ」
傍観兵士A
「貴様ぁあああ!!!」
間違いなくまた術技を使ってくる。
いや、使ってもらわなきゃ困る。
こっちは加減がわからないんだからな。
傍観兵士A
「ストライク!!!!」
カズキ
「ウェポンキル ライド」
傍観兵士A
「ブレイドォオオオオオーー!!!!!」
カズキ
「スラッシュセイバー・・・!」
光り輝くミツバが剣にぶつかる。
と思っていたが、衝突の轟音はなかった。
バギィッ!!
轟音とは違う音、兵士の剣が破壊される音だ。
だがそれだけではなかった。
バギィッ!バギィッ!!バギィッ!バギィッ!!!!バギィッ!!
音が鳴り続けた。
鳴り続けると同時に兵士の甲冑が壊れいく。
傍観兵士A
「な・・・ぜ・・・先祖・・・代々・・・の」
ドサッと兵士が倒れた音と同時に甲冑が壊れる音も止まった。
カズキ
「まさか・・・ふぅ、よかった」
死んではいない、気絶してるだけだ。
何とか一安心というところか。
~ ライド ~
一つの術技の上に別の術技の効果を乗せて放つ、連携。
単純な力は術技の2つ分、つまりは2倍だ。
だが、メリットもある。
術技は基本的に1回使うと次に使うまでの間に数秒時間を空けなくてはならない。
本来は術技を1つ1つ使い途切れさせないようにするのがセオリー。
その為、ライドで同時に2つの術技は使用すると、両方の術技が数秒使用することができなくなってしまうというものだ。
カズキ
「って・・・昔やってたゲームの入れ知恵なんだけどな、まさか有効に使えるとはな」
ミツバを持ち上げ微笑みかける。
この仕草もそのゲームでよくやっていたものだったけかな。
なんてゲームだっけ・・・。
カズキ
「あっ それよりも先に・・・」
生き残った傍観兵共に目線を送る。
本当だったら、皆殺しにしたかった所だが今回だけは許してやる。
鼠人族に感謝するんだな。
傍観兵達
「ひぃい・・・!」
カズキ
「さて・・・賭けの時間だ」
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エーイは打ち込んでいた。
力強く、そして正確に。
帝国兵士の攻撃をかわし、時には弾きながら。
帝国兵士
「っろす・・・っろすっろすっろすっろすっろす!!!」
もはや帝国兵士の意識は、無いように見受けられるが。
あまりにもめちゃくちゃな剣捌きで逆に集中しなくてはならなくなった。
エーイ
「うらぁあ!!!」
また一発入れた。
もちろん甲冑の薄い部分を力強く打ち込んでいる。
ダメージは入ってるはず、ただ帝国兵士の動きが一向に変わらない。
このままでは埒が明かない。
一度、距離を離すエーイ。
エーイ
「おい、聞こえるかえーっと・・・吐き溜め!!」
帝国兵士
「っ!!!」
思った通りだ。
カズキさんの言葉が届いた。
そりゃああんなにボコボコにされた人の言葉だ。
頭のネジが外れても届かないわけない。
エーイ
「お前、クラッシュインパクトが自慢なんだっけか? よかったら俺のクラッシュインパクトと勝負しようぜ」
帝国兵士
「ナニィッ・・・!?」
しめた、まだ声は届いている。
エーイ
「あんたの、吐き溜めの金で手に入れたクラッシュインパクト見せてくれよって言ってんだよ吐き溜め」
帝国兵士
「グガガガグガウグガガガガ・・・」
エーイ
「それとも何かい? 吐き溜めのクラッシュインパクトはやっぱり所詮吐き溜めってことか?」
更に挑発する。
これで・・・。
さぁ来い!
カズキさんは、俺にこいつの相手をさせてくれた、そしてそれには意味があった。
長い間積み重ねたきた自分自身の大事な物をただの金で否定した。
そんな術技を食らっただけで落ち込んでしまった俺にチャンスをくれたんだ。
エーイ
「俺の術技と吐き溜めの術技・・・どっち本物なのか!」
カズキ
「・・・ふっ、ってなんだよミツバ、俺はただ同じ術技がぶつかったらどうなるのか、俺の仮説を確かめたいだけだ」
帝国兵士
「吐き溜め・・・吐き溜め吐き溜め・・・吐き溜め吐き溜め吐き溜め吐き溜め吐き溜め吐き溜め!!!!!」
帝国兵士が拳を上げた。
来るっ!
帝国兵士
「吐き溜めぇええええええ!!!!!!!」
エーイ
「っ!!!」
集中しろ。
今までの経験の全てを、この一撃に注ぎ込む。
帝国兵士
「クラッシュェアァエエ!!!!!」
エーイ
「クラッシュ!!!」
エーイ 帝国兵士
「「インパクトォオオー!!!!」」
これまでになかった轟音が周囲を埋め尽くしている。
ほぼ同時に発し、ぶつかった術技。
しかも同じ技での術技の衝突。
クラッシュインパクト同士のぶつかりは、お互いの拳が直接ぶつかっているのではない。
拳と拳の間に隙間が出来ている。
二人の纏う術技がぶつかっている隙間だ。
カズキ
「・・・・・・」
想定通りだ。
俺仮説が正しければこの勝負・・・。
カズキ
「エーイの勝ちだ」
エーイ
「うおぉおおおおーー!!!!」
帝国兵士
「ぐぅぐぐぐううううううう!!!」
エーイ
「おおおお!! うああおおおおあおお!!!!!!」
その刹那だ維持されていた拳が動き出した。
そしてエーイのクラッシュインパクトが帝国兵士の術技を跳ね退ける。
エーイ
「鼠人を舐めんなあぁあああああああ!!!!」
最後はエーイが帝国兵士の顔面を吹き飛ばした。
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【スタング洞窟出入り口 屋外】
エーイが帝国兵士を吹き飛ばしてから数分。
俺は、残った兵士達に気絶している2名を運び撤退準備の指示をした。
これが賭けの内容だ。
単純な物、エーイが負ければ当初の目的通りに好きにしていい、俺は絶対に手を出さないという約束。
だがもし、エーイが勝った場合は俺の言うことを聞く。
もし約束が守れない場合は全員気絶させて身ぐるみ剥がしてロープで縛り付けて森に放置する。
ただそれだけのことだ。
もちろん良識ある行動を取るつもりである、うん間違いない。
カズキ
「賭けとは言ったが、本当は出来レースだったんだがな」
同じ術技がぶつかった場合の結果。
俺の仮説は簡単だ。
- Ver - の大きさだ。
スクロールで手にしたと豪語していたが、あれは疑似的な術技の会得。
確かに形はそのまんまの術技だ。
細かい数字はわからないが、帝国兵士のVerは1以下つまり小数点。
対して、自らを鍛え上げて手にしたエーイの術技はVer1は確実。
そんな術技同士がぶつかれば勝敗は目に見えていた。
もちろん、個人の力量や技量、適応力というイレギュラーはある。
だが、間違いなくイレギュラーは起きないと信じていた。
エーイ
「カズキさーーん!!」
カズキ
「おう・・・」
真人とか鼠人とかなんてのは関係ない。
俺に色々思い出させてくれたやつだ。
負けるわけがないんだ。
エーイ
「あの!俺!!」
走って駆け寄ってきて早々涙ぐましい奴だ。
初めて出会った時のツンツン具合はどうした。
カズキ
「お前はまずは体を休ませろ、お前がこの巣を守っていくんだろ?」
エーイの肩叩き激励した。
ボロボロでいつ倒れこむか心配になる奴だ。
カズキ
「後の事は任せろ」
それを最後に俺は撤退準備の出来た帝国兵士達の所へと足を運んだ。
丁度夕暮れ時か。
エーイからは凄く後光が射した光景になってるんだろうか。
なんてしょうもない事を考えながら足を運んだ。
-ジャンパー・ハイクVer1取得-
カズキ
「なんだよミツバ・・・浮足立つなこと?」
最高だよ、お前。
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【スタング街道 昼道中】
あれから俺はエーイ達鼠人族と別れて日を何とか越せたのだった。
一緒に歩いてるのは洞窟を襲った帝国兵士達だ、ウジ虫共だ。
だが洞窟を出て今に至るまでに変化があった、その原因は夜の野宿だ。
とにかく酷い有様だった。
その時に起きたのはモンスターの夜襲だ。
どうやら、狼型のモンスター。
ハイウルフ。
夜行性で夜に出歩いている村人などを集団で襲うというモンスターらしい。
そして俺達みたいな夜の野宿は格好の餌とのことだ。
想定はしてたし俺は絶対に寝ると決めていたので、野宿が決まった途端すぐに寝る体勢を取っていたのだが。
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帝国兵B
「敵襲!!!敵襲!!!」
帝国兵C
「敵視認!ハイウルフ!戦闘準備!!」
帝国兵D
「訓練の成果を見せるのだ!!」
帝国兵E
「うおぉおおおー!!!」
・・・・・・・・・・・・・・。
帝国兵達
「「「「「武器がなぁあああい!!!!!」」」」」
帝国兵B
「ここは撤退を進言!」
帝国兵C
「隊長達を置いていくことはできません!!!」
帝国兵D
「ならば囮作戦を進言!!我々が注意を反らし隊長達をお守りするのだ!!!」
帝国兵E
「うおぉおおおー!!!」
カズキ
「・・・・・・寝る」
---
洞窟を離れた当初は警戒されまくりの状態が続いていたが。
今は俺に気を許したのか、一切警戒心を感じない。
カズキ
「・・・・・・」
いや・・・。
ただの睡眠不足か。
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【ナイクネス帝国 第2都市ベルデラ 出入り門前】
あれから帝国兵士達と別れた。
元々の約束は、俺を街まで案内することという物だった。
兵士達の拠点はこの大都市ということもあり、自分を同行させるようにしたのだ。
カズキ
「おぉー・・・」
そして俺は、この異世界に来て初めての都市。
まさにファンタジー世界の街という言葉が似合う。
モンスターを阻む為の大きな壁に囲まれた大都市。
家のデザインも似たり寄ったりと俺が住んでいた日本とは大きくかけ離れている。
行き交う人々も古風ある格好で動いている。
よく見れば真人だけではない光景だ。
改めて実感する、俺は本当に異世界に来たのだと。
-基本身体能力上昇-
カズキ
「そっか、お前も・・・」
ミツバが異世界出身かはわからない。
けど、俺との冒険を喜んで、楽しんでくれてるんだな。
ならばと、俄然やる気が出てきた。
改めて誓うよ、俺がミツバを最高の武器にしてやる。
俺は最高お前を最高のやつにしてやりたい。
大きく深呼吸。
よし、と気持ちを切り替え胸を張る。
そしてこの街の門を抜けて俺達の物語の第2章の始まりだ。
門番
「手形をお持ちではない?」
カズキ
「・・・手形?」
通行手形。
つまりは町への入場手形みたいな物か。
そんな物・・・持ってる訳ない。
第一この異世界に飛ばされて以降、ミツバ以外の持ち物なんて持っていない。
スタング洞窟で目覚めて鼠人族と出会うまでに自分の手元確認はもうしてる。
そうつまり、何も持っていない、金さえも。
門番
「お前さん、冒険者かい? 物騒な剣ぶら下げてるもんな、ならギルドから発行されてる冒険者用の手形があるじゃろ?」
カズキ
「・・・っと~・・・」
冒険者 と ギルド。
想定はしていた、こういった世界の醍醐味。
アニメやマンガ、ゲームなどで大体の主人公達に関わりある物だ。
この異世界でも存在はするのはほとんど確信していたが、自分がそれになるかどうかは決めかねていた。
というよりも深く考えていなかった。
それもそうだ、何故ならこの世界での情報があまりに不足しているのだから。
鼠人族の奴らからいろいろ教えてはもらったが、それも一握り。
もっと言えば俺は、この異世界に来てまだ1日しか経っていないんだ。
俺の人生で一番の濃い一日だったのは間違いないが。
門番
「おい、どうなんだいあんた?」
カズキ
「んーーっとだな・・・」
正直なところ術技等を使って街の中に入ることは容易だ。
だがここで下手な騒ぎを起こすのだけは、絶対にしてはいけないのは確実。
そしてここで門番に時間を使うのはそれはそれでまずい。
事を起こさず、静寂に何も問題なく街に入れればいいのだが。
-ヘイト・ダウナーVer1取得-
ミツバもそう思うよな。
穏便に済ませて早く入れと催促されているようだ。
門番
「悪いが手形がなければ通せない、これ以上粘るようならこっちにも考えがあるよ?」
衛兵を呼ぶ。
この門番さんが一言言えば恐らく大勢の衛兵をここへ召喚するのは容易ではないだろう。
ならばやはりここは一度撤退するしかないか。
そう判断した時だ。
???
「あーいたーー!!冒険者さん!」
俺に向けらた声か?
冒険者でもなければ、この世界で真人の知り合いなんている訳がない。
ここは大きな反応を見せず、横眼で確認。
???
「やっと見つけたーー」
カズキ
(チラッ! チラッ! チラッ!)
完全に俺だこれは。
まさにザ村娘という言葉が相応しい少女。
服の色も地味で特別な装飾品を見に付けていない。
そんな少女がこちらに手を振りながら迫ってくる。
パタパタとした足取りで目の前に来た。
門番
「何だい、フェーチスちゃんの知り合いかい?」
フェーチス
「はい、先日モンスターの夜襲を受けた時に助けて頂いた冒険者様です、どうやらモンスターとの戦いで冒険者用の手形を紛失してしまったようなんです、それでよかったら一緒にベルデラへと護衛をお願いしたのですが先日はぐれてしまい・・・」
門番
「そうだったのかい、それはあんたさんも難儀だったんだねー」
このフェーチスという村娘。
慣れてやがる!
あれが天然タラシとかそうゆう・・・。
門番
「相変わらず、冒険者に優しいんだねー」
フェーチス
「いえ、私はただ村の教えを守っているだけですから!」
村娘と門番の会話が弾んでいる。
どうやらその村の教えとやらに助けてもらえそうだ。
チラっと彼女が乗ってきた荷馬車を見る。
どうやら村で出来た作物の売買が目的、というところか。
門番との様子を見るに何度も訪れているように見受けられる。
経験豊富、街は自分の庭のような物、男は手駒。
まるでそんな悪女のようなセリフが彼女から聞ける日があるのかどうか・・・。
フェーチス
「・・・・・・あのー?」
カズキ
「ん?」
どうやら門番との話も一段落し俺が考えにふけっていたのを待っていたようだな。
フェーチス
「そろそろ、行きます、けどーー・・・」
スローっとわざと言葉遅らせ俺の返答を待っているのか。
本当に慣れていやがる、恐怖を覚えるほどに。
カズキ
「・・・・・・世話になる」
軽くではあるが、頭を下げて礼をする。
何にせよ感謝だ。
門番
「今回は何日滞在するんだい?」
フェーチス
「えーと、4日ほどです!」
門番
「そうかい・・・気をつけるんだよー」
こうして村娘フェーチスの荷馬車と共にこの第2都市 ベルデラ にようやく入ることができたのだった。
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フェーチス
「記憶喪失・・・?」
街の門を潜ってからすぐに俺は彼女へ事情を説明した。
つい昨日無一文でミツバ一つの記憶喪失である俺を鼠人族が助けてくれて今に至る、と。
記憶喪失以外は嘘を言っていない、断じて言ってない。
フェーチス
「それではやはり、一度ギルドへと向かわれるのが一番良さそうですね、記憶喪失でも、もし冒険者であれば記録などもあると思いますしもしかしたら記憶回復の手掛かりになるのではないでしょうか?」
口に手を当て色々考えながら話してくれている。
人相も良くまさにみんなから慕われるザ村娘。
どうやらおしゃべりな子のようだ。
今回と同様に多くの冒険者を助け、助けられたりしているのだろうが。
記憶喪失の冒険者の対応は初めてなのか、何が俺の為になるのかと思考錯誤してくれているようだ。
カズキ
「それですまないが、君がよければ街の中にいる間同行させてくれないか? 荷物運びくらいしか役に立たないとは思うが」
フェーチス
「で、ですが・・・」
カズキ
「少し不安なんだ一人でいるのが、もちろん君がよければだが」
傍から見たら完全なナンパだろう。
だがここでそのギルドへと行ってもいい成果は期待出来ない可能性が出てきた。
確かに当初は、ギルドのような流れ者を受け入れてくれる組織を利用するつもりだったが。
まだ早そうだ。
ギルドに行って情報収集するよりも、フェーチスと同行したほうが情報収集の効率は良さそうだ。
フェーチス
「わかりました! 私も出来る限り協力させてください!」
グッと拳を作った。
騙している身で言うのもあれだが、彼女の旦那さんきっと苦労するだろうな。
-チェンジ・フェイクVer1取得-
ミツバお前・・・。
彼女に対して俺は詐欺師かペテン師とでも言いたいのか・・・。
それからフェーチスの作物売買の手伝いをしていた。
といっても、荷物運び位しかしていないが。
村で基本的に作っているのは乳製品のようだ。
最近では野菜や果物といった物も出荷する予定であると話す。
タルシナ村。
それが彼女の村の名前とのことだ。
牛や豚を飼育しそれを村の財力にしているようだ。
乳製品は基本的に高値で売れる。
しかもタルシナ産の商品はかなり有名のようだ。
金額もリーズナブルで品質もかなりの物と村の自慢だそうだ。
そして最近では真人のみならず、色々な種族の人種がタルシナ移住してきているようだ。
もちろんタルシナの生産技術を学びたいが為に訪れる者も多いそうだ。
来る者拒まず、出る者追わず。
商品の評判が落ちることがない所から見るに、悪事で利用しようとしても上手くいかないほど物なのだろう。
だがやはり恐怖を感じる。
人相。
ここまで二桁近くの店を回ってきた。
売買が慣れていて世間話もしながらもスムーズに務めてる。
俺が一番恐怖を感じたのは、タルシナの事を沢山教えてくれた。
まるで、冒険者に説明するのは朝飯前と言わんばかりに。
一体何人の冒険者達をその毒牙にかけたのか・・・。
店主
「いらっしゃい、おーフェーチスさんそろそろ来ると思っていたよ」
フェーチスの話では、ここが今日の最後のお店のようだ。
飲食店だ。
お店の建て住まいは立派と言われるほどの物ではないが、たくさんのお客さんで賑わってる。
フェーチス
「いつもありがとうございます」
店主
「お互い様じゃよ、じゃあこれよろしくね」
一枚の紙をフェーチスへと渡す。
売買における契約書だろう。
何件か回っていたからもう見慣れた物だが。
カズキ
「・・・・・・」
契約書。
あまり良い思い出はないな。
紙一枚。
だがその一枚があまりにも大きく、時には人一人の命よりも重いとされる物。
そんな紙一枚にどれだけの人間が・・・。
フェーチス
「カズキさん?」
カズキ
「あーすまん、ぼーっとした」
また持って行かれそうになった。
ここは異世界だ、心配するような物じゃない。
フェーチス
「何か思い出した・・・とか?」
カズキ
「いや・・・そうはないみたいだ」
フェーチス
「そうでしたか・・・すみません」
凄く落ち込まれてしまった。
今にも打ち明けたい気持ちは無くはないが、今はこのままでいいだろう。
そうして今日の売買は終えたということでフェーチスから夕食を共にしないかと誘われた。
誘われて初めて気が付いた。
食べてない。
異世界に来てからまだ2日目ではあるが、目覚めてからというもの一口も水も食糧も取っていない事に気が付いた。
フェーチス
「ここのお店がいいですよ! お値段も高くありませんし」
カズキ
「申し訳ない、いつか必ず返す」
フェーチス
「何言っているんですか、今日一日お手伝いのお礼ですよ!」
とびっきりの笑顔で返された。
早速とお店の中に入る。
店内は非常に賑わっている、街の人々はもちろんだが帝国兵の甲冑を来た者もいればそうでない甲冑を来た者達も多くいた。
彼らが所謂 冒険者 なのだろう。
格好だけ見てもわかる、戦士、シーフ、術者。
種族もバラバラで、見る限りでは冒険者ギルドは想定通り仕切りが広く設定された組織なのがよくわかる。
人間観察をしながらも席に付きフェーチスからメニューを渡された。
よかった、読める。
この街に来てから注意して見ていたから間違いなかった。
異世界だ、言葉は話せても文字が読めないということも考えられたが問題なく読める、これもおそらくはミツバのおかげか。
フェーチス
「すみませーん!注文お願いしまーす!」
大きく手を上げ店員を呼んだ。
フェーチスはもう決めていたのだろう、俺は特に何でもよかった為フェーチスと同じ物を頼むことにした。
異世界最初の食事はどんなものなのか。
基本的に食欲には2日3日食べなくても生きていける自信のある俺でも心躍る。
そしてご対面だ。
店員が料理と飲み物を運んできてくれた。
カズキ
「おぉーー・・・」
目の前に出された物はシチューと肉とパンとサラダと4種類の料理が運ばれた。
少し見たこと無いような食材が入った見た目をしているが、食欲が湧いてくる。
フェーチス
「いただきます!」
カズキ
「いただきます」
早速料理を口に運ぼうとしたその瞬間だった。
???
「フェーーチスウウウウ!!!!」
大声が俺の食事を邪魔したのだった。