第21話 無変遷ノ金色
【ダンス晩餐会 メイン会場】
ユミィーリア王女殿下のダンス晩餐会は王城とは離れた場所で行われていた。
川辺で風景の良い場所だった。
そこには名立たる貴族や令嬢と多くの著名人が挙って参加していた。
「おぉ・・・あなた様があのシュベンザー博士でございますか、何と美しい」
この類の会話を何度したことか。
何処の馬の骨か知らないが、この手の輩が無尽蔵に湧いてくる。
少し言葉を交わすと・・・。
「で、では・・・パーティーを楽しみましょう、それでは御機嫌よう」
一体彼らには無礼を知らないのか。
自分から話しかけておいてその対応とは男として如何なものかと説教してやりたいくらいだ。
どっかの絶賛遅刻中の馬鹿でももう少し気を使う・・・どうかしら、変にこじらせそう。
フェーチス
「あ、あのぉ・・・シュリー様、やっぱり帰っていいですか・・・」
背後から声が聞こえて振り向くとそこには緑の素敵なドレスを着たフェーチスの姿が。
化粧もしっかりとしていて田舎の村娘感は完全に消えていた。
シュリー
「あら? こんなに素敵なのに勿体無い」
フェーチス
「で、でも・・・さっきから目線が、田舎者だと思われてますよきっと・・・」
チラッとフェーチスを見る。
恐らく、大体、いやほぼ絶対的な目線、それは・・・。
シュリー
「・・・あなた着痩せタイプなのね」
フェーチス
「えぇ!? やっぱ太りました!? 最近気を付けてるんですけどー」
シュリー
「・・・・・・・・・」
なるほど村娘。
カズキに聞いていた通りの天然タラシということがよくわかったわ。
それにしてもよくも着たものね、着せた奴は一体どんな話術を駆使したのかしら。
ニーネ
「ヘクチッ!」
レイドラ
「風邪? 大丈夫?」
ニーネ
「いえいえ大丈夫ですよーレイドラさん! ささ、特製デザートが来ましたよー!」
レイドラ
「わぁああああい!!」
今もまだ落ち着きなくモジモジしているフェーチス。
きっと面白いからこのままにしておこう。
フェーチス
「シュリー様・・・!」
シュリー
「・・・・・・プイッ」
フェーチス
「えぇえええ!!?」
何処から声を出してるんだか。
世間の波に揉まれてくるといいわ村娘よ。
そんな意地悪をしていたらもう片方も到着していた。
「噂はお聞きしております! あのベルデラを英雄様と煌煌ノ騎士様救ったと!?」
「今はサンリー村の復興を皆様とされてるとか!?」
「よろしかったら一緒にお話し聞かせてください!」
ニヤァ・・・ッ!
あっちはあっちで楽しそうじゃない、これはこれで楽しいのが見れそうではある。
引き続き黙っていよう。
フェーチス
「シュリー様どうされ・・・、っ!?」
どうやら相方も気が付いたようだ。
乙女達の注目の的、何気に人気あるみたいね。
「今日はいつまでいらっしゃるのですか?」
ナザ
「あぁいや、特に決めてない。と思う」
「素敵なお召し物でございますわ~」
ナザ
「あぁ~王女殿下が用意してくれたもので」
「おぉおおおおぉおおお!!!!」
王女殿下絶賛の荒らしだ。
確かに彼女達の見立ては間違いじゃない。
私達が来ているこの服は王女殿下が指揮をして作られた物だという。
噂は聞いていたので興味もあった。
しっかりと着る者を調べて考えられているデザイン。
スタイルだけではなくその者の正確などを的確に表した・・・。
シュリー
「・・・・・・・・・」
ついついまたフェーチスのを見てしまった。
こうゆう時に不老不死って不便だともう長い間思っているというのについ考えてしまう。
と、考えていると動きがあった。
ドンッ!
ナザ
「あぁ!ごめんよぶつかって大丈夫?」
肩を取りぶつかってきた女の子を見る。
ナザ
(あぁ、すげぇ一番かわいい・・・しかもめっちゃm)
フェーチス
「ナザさん? よかったらあちらっ! で!お話しされませんか?」
勢いよくシュリーが座っている方を指差す。
フェーチスの顔は笑顔だ、だが何か、何かが体中から漏れてる。
ナザ
「ぇえあうん・・・はい・・・」
取り囲む令嬢達もフェーチスの気に言葉が出なかったのか一歩引いてナザが連れていかれるのを見ているしかできないでいた。
そしてナザの手を引かれるままシュリーの下へと到着してそうそうだった。
「皆様、本日はお足労頂き誠にありがとうございます」
音声拡張結晶で声を大きくしているようで、みな私語をやめ司会の女性へと目をやる。
そういえばあんなの作ったわね、何時だったかしら。
事あるごとに自分の発明が目の前で使われると変な気持ちになる。
改良された物だから実質自分が作ったのではないが、荒が目立つ。
シュリー
(はぁ・・・あの馬鹿、何してるのよ)
未だにここへ顔を出さないヴェアリアスの創設者。
まさかだけど、国王になんかやらかしたんじゃないでしょうね・・・。
あり得る、非常にあり得る話だ。
流石に自分で何かをやらかすなんてことは無いとは思うが、何かに巻き込まれたということはいくらでもある。
でも、年の為にお互いのインカムを手元にある。
何かあれば私とサナミに連絡がいくような手順を踏んでいる。
だからまだ・・・大丈夫だと信じたい。
「それではみなさま、大変おまたせ致しました」
そんな馬鹿の馬鹿なことを考えていたらオープニングセレモニーは終わりを迎えていたようだ。
「ナイクネス帝国第72代国王様の愛娘で有らされます、ユミィーリア・エールス・ナイクネス王女殿下、御入来」
盛大な音楽が室内を震わせた。
会場の来客人達も挙って拍手で迎えている。
会場の出入り口が大きく開き。
そこには近衛騎士が先導、そしてその後ろを歩く者。
ユミィーリア
「・・・・・・・・」
真っ直ぐと前を向く。
凛とした佇まい。
二つ名の由来の金色の髪が会場の照らされた明かりでさらに際立ち光り輝く。
ナザ
「わぁ・・・」
フェーチス
「綺麗・・・」
男性も女性も関係なく虜にする姿。
無変遷ノ金色。
それは変わることの美しさと美貌を現した異名。
誰もが触れてはならぬという光りの化身。
変わらない物の美しさ、美しいから変わってはならないという。
そんな人々から付けられたとされる異名だ。
クリル
「さぁ殿下、お手を」
エルフの騎士が王女の手を取り階段を昇っていく。
まるで白馬の王子とその御姫様。
シュリー
「・・・・・・不服そうな顔」
辺りを見渡しある人間を探した。
それは、本来だったらクリルの場所を自分がやるべきはずだった乙女。
今は部屋の隅での見渡し警護というところか。。
まさに遠くから眺めているという表現が似合っていた。
シュリー
「歯痒いわね」
サナミ
「シュリー・・・」
シャンパングラスを片手にサナミに話しかけた。
サナミ
「一応・・・お仕事中」
シュリー
「そんなの関係ないわよ、私は特別ゲストだもの」
ニヤリと笑って上げた。
それ対しサナミは溜息混じりの笑みで返した。
少しは肩の荷が下りたという感じか。
シュリー
「それより、カズキ来てないんだけど何か知ってる?」
サナミ
「えっ? まだ来てないの? 国王様との謁見は終わってるはずだよ?」
やはりサナミにも連絡はなし。
とすると、やはり何かあったのかも知れない、巻き込まれたのかもしれない。
あいつの事だから無事なのは間違いないけど、状況把握はしたい所ではあるが・・・。
シュリー
「困った奴ね」
サナミ
「フフフッ、そうだね」
サナミも同じ意見なのだろう。
どうせまた何かをぶら下げて来るのだろうと。
それにこちらが右往左往することになるなんて思っても居ない癖に。
待たされてるこっちの身にもなってほしいもの。
シュリー
「一応私の方で連絡入れておくわ、サナミは御勤め頑張りなさい」
サナミ
「うん、ありがとうシュリー、迷惑かけるね」
引きつった顔で見せる笑顔。
サナミの騎士団一時停止処分。
そして今はその服に袖を通している。
確かに王女殿下からこの晩餐会に参加するように命じられてもこれでは・・・。
いや、それが大事とでもいうのか。
見せしめだ。
軍紀を犯した者は如何なる理由があろうと罪に問われ罰を受ける。
それが煌煌ノ騎士と名高い騎士団の団長だろうと、関係はないのだと。
それを見せしめる為の物。
これをやらせた人間はとんだ屑だ、もしカズキが見たら飛んで行きそうなものだ。
王女殿下の挨拶を聞きながらそんなことばかり考えていた。
どうも私は、兵器獣、いやカズキと出会ってから無駄に考えさせられることが増えたようにも思える。
彼の影響なのか、それとも元々の自分性分だったのか。
本当ならこんなところに居ないであの日見たロスト・エンシェントの事を調べたい。
けど、どうしても目の前の事に・・・意識がいってしまう。
これが自分が求めていた物、時間なのか・・・。
今はまだわからない・・・でもいつかわかる気がする。
何故なら今の自分・・・嫌いじゃないわ。
ユミィーリア
「それでは・・・帝国の繁栄を!」
「「「「帝国の繁栄を!!!!」」」」
王女殿下の乾杯の音頭がなされ晩餐会は始まった。
同時に部屋へ料理が運ばれいく。
部屋には引き続き演奏隊の音楽が奏でられていく。
談笑も弾みまさにパーティーが始まったという感じだろう。
フェーチス
「あぁ!サナミさんお疲れ様です!」
ナザ
「ここにいたんですね!」
パーティーが始まって早々にサナミとシュリーの所へ駆け寄る二人。
サナミ
「二人とも素敵だね、似合ってるよ」
ナザ
「あ、ありがとうございますでへへ・・・」
フェーチス
「サナミさん聞いて下さいよ!ナザったらさっき!!」
サナミの前でまた言い合いが始まった。
だがよく見るといつもと逆のような気がしてふと笑みを浮かべる。
シュリー
「ほ~らあんた達、サナミの邪魔になるから、王女様との謁見行くんでしょ? 早く行くわよ」
ナザ
「あいててててて俺だけ何で何で!!?」
フェーチス
「サナミさんすみませんでした、また後で来ます!!」
そんな三人を笑顔で手を振り見送った。
サナミ
「ふふっやっぱいいなー、こうゆうの」
正直ここに来るまで憂鬱だった。
確かに自分もドレスを着て綺麗な身なりでこのパーティーに参加することはできただろう。
だが騎士団の身分やリオン・エイド家の事もある。
浅はかな事は出来ないと評議会へ掛け合った。
するとこのような形での参加を認められこうして今ここにいる。
でも、騎士団の子達の様子を見れただけでもよかった。
クリルもしっかりと私の務めを果たしてくれている。
アニレナも王女のお傍にいてくれている。
他の子達も立派に胸を張ってこのパーティーに臨んでいる。
謁見を望む行列にいる3人を見る。
ヴェアリアス。
彼は、ただの我ままだと言った。
それは身分や爵位なんてかなぐり捨てた発言だった。
まさに子供の発言。
けどそれが私にはただただ心地よかった。
ふといつも自分が何処に居て何処に立っていて、何処へ向ってるのかわからなくなることが多い。
サンリーの復興時も彼等は自分のやりたいことをやり続けていた。
まるでそれの何が問題があるのか、むしろ何故そうしないのか。
自分の向く方向をただ歩き続けていた。
そんな中で、横を向くと一人、また一人、今度は後ろに一人。
彼等の歩く先に人がいるのか、人がいるところへ彼等は歩いているのか。
わからなかった、正直なところ今でもわからない。
だけど、わかった事は、そんなことではなかったということだった。
単純でよかった。
そう、ただ彼等・・・彼は自分の好きな事をただひたすらにやっていた。
ただそれだけだったんだ。
それに私も憧れた、一歩踏み込んでみた。
単純で簡単な物、だけどその重くて苦しい一歩を歩ませてくれた・・・。
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【ダンス晩餐会会場 庭園】
ユミィーリア
「ふぅ・・・」
謁見も落ち着き休憩
に外へ出た。
クリルさんがお供すると言ったが断った。
もちろん彼女を信用していないということではない、私が一人で夜空を見るのが大好きなだけなのだ。
クリルさんはまだ勉強不足みたいなので、サーちゃんに報告が必要だと思いました。
ユミィーリア
「な~んてね・・・」
みんなパーティーを楽しんでくれてるみたいで嬉しい。
心残りがあるとすれば、やっぱりサーちゃんの件。
どうしてそんなことをしなくちゃいけないのか、私にはわからないでいた。
これじゃあまるで私がこうしたみたいで嫌だった。
それよりもあんなサーちゃんを見るのが一番嫌だった。
会場に入る時に何度か目が合い笑みを浮かべてくれた。
心配ない、大丈夫だ。
そう言っていたに違いない、苦い顔だった。
そんな中だった。
ふと、サーちゃんの方を見たら彼女物凄く楽しそうに笑っていた。
私はそれを見ただけで凄く心が落ち着いた。
こんなにも自分の事のように嬉しいと思ったのは初めてかも知れなかった。
そう、彼等のおかげなのだろう。
ヴェアリアス。
彼等は謁見時にそう名乗った。
シュリーさんは私よりも小さい体ながらも落ち着いた表情と言葉で挨拶をしてくれた。
ナザさんとフェーチスさんは緊張していたのかあまり話すことが出来なかった。
シュリーさん曰く、本来ならそのヴェアリアスのリーダーが来るはずだったと言う。
噂に聞くデッドアイ。
ベルデラの英雄、兵器獣の破壊者。
ユミィーリア
「会ってみたかったなぁ~・・・カズキ様に」
夜空を眺めた、まるで願うようにして・・・。
ユミィーリア
「っ・・・!」
強い風。
庭の花達が散り空へと飛んでいく姿を目で追った。
ユミィーリア
「え・・・」
見上げた空から・・・誰かが・・・。
シュタッ・・・。
飛び立つ花達にまるで歓迎されているかのような幻想的な姿に目が奪われて離れない。
男の人・・・?
こちらに振り向き歩み寄ってくださる。
そして・・・。
カズキ
「呼んでくれたは・・・君かい?」
それが、彼との初めての出会いだったのだ・・・。
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【ダンス晩餐会会場 庭園】
助かった。
めちゃくちゃ助かった。
今目の前にいる子が俺の名前を口に出してくれたから何とかここまでこれた。
しかも見る感じドレス着てるしここが目的地で間違いないのではと確信を持てた。
王の間からここまで災難だった。
まず第一にあれから誰も俺を迎えに来ない事態に陥っていた。
まさかだと思うが帝国の嫌がらせかと、それに気付くのにも時間を無駄に使った。
それからという物下手な騒ぎになるのだけは避ける為に城を慎重に出るのにも凄く時間が掛かった。
最終的に窓を開けて飛んだだけなんだが。
それからも地獄だった。
王都を呼ばれる程だ、とんでもなく広かった。
レイドラを呼ぶのも考えたが、邪魔したら悪いと思った。
よって自らの足でとにかく駆け回った見たが一向に見つからなかった。
ヴェアリアスの面々の声が聞こえないかと拡張術技を使い続けていたが見付からなかった。
だが、そんな時に俺を呼ぶ声が聞こえた。
それにすがる思いでここまで飛んできたのはいいが・・・。
カズキ
「・・・・・・」
ユミィーリア
「・・・・・・」
それはそうだ。
普通に考えて空から人が降ってきて驚かない人なんていないだろうよ。
この出してる手も一体なんなんだか。
一端引っ込めようとしたその瞬間に手を掴まれた。
ユミィーリア
「空・・・飛べるんですか?」
カズキ
「え・・・まぁはい」
正確には飛べないがレイドラがいれば飛べるだろう。
今のはただの降ってきたってだけだからな。
ユミィーリア
「夜空の景色は・・・変わりますか?」
景色?
俺はこの子の言っていることが一瞬わからなかった。
だが、俺を見る瞳が訴えていた好奇心を。
知りたい、見てみたい、と。
カズキ
「見て・・・見たいですか?」
少し意地悪く笑い、聞いた。
その瞬間に少女は満面の笑みを浮かべ喜んでいた。
ならば仕方ないと、術技を使う。
カズキ
「サモンゲート」
術技を唱えた瞬間に小さな空間が出来た。
それを上空へと投げた。
レイドラ
「っ!? マイロード!?」
スプーンの動きを止めた。
ニーネ
「ど、どしたの、レイドラさぁん」
積み上げられた大量のお皿。
へろへろのニーネ。
レイドラ
「ちょっと行ってきますね!!」
シュンッ!!
それだけを告げレイドラは消えた。
ニーネ
「えぇ・・・えぇー、どうしよう」
私は俺が投げた何かに目をやり、空を見た。
一体何をするのかわからない。
けれど、凄くワクワクしている自分がいた。
すると・・・目線で追っていた場所の空間が歪み。
光り輝く翼を広げた竜が現れたのです。
レイドラ
「マイロード! 遅いですよ!!」
カズキ
「さぁ、行きますよ」
ユミィーリア
「えぇふぇ!!」
持ち上げられてそのまま竜の上に乗った。
そうか、これから私は飛ぶのか。
カズキ
「とりあえず、レイドラ。安全運転で上」
レイドラ
「ん? よくわからないですがかしこまりました、マイロード」
それだけを伝え竜は羽ばたいた。
地面が離れていく。
ユミィーリア
「んっ!!」
つい掴んでいた彼の手を震え強く握ってしまった。
それに応えてくれたのか、彼は笑み一つ浮かべ握る手を優しく強く握ってくれた。
カズキ
「ほら、下・・・」
言われるがまま震える気持ちで細い目で見た。
上空からの王都ナイクネスを。
ユミィーリア
「・・・・・・・っ!」
息を呑んだ。
本当に今自分は間違いなく飛んでいる。
そして綺麗な光景。
父の統治している国がよく見えた。
見たことのない、考えたこともない光景にただただ言葉を失いかけていた。
カズキ
「・・・・・・ほら、今度はこっち」
声の通りに今度は指差す方へと顔上げる。
ユミィーリア
「これが・・・夜空・・・」
今まで何度も見てきた夜空。
星の場所だって大体分かっているくらいにはずっと見ていた。
嫌なことや疲れたり、逃げたい時。
沢山の時間を夜空を見て過ごした。
だから夜空の事に関して全てを知り尽くしている、そんなことをも考えたことがあった。
ユミィーリア
「そう・・・だよ・・・ね」
自分は浅はかで何も知らない王女。
無変遷ノ金色。
これは常に美しいなんて物じゃない。
変わり映えのしない存在。
永久保存されたお人形。
そう思う日々だった。
今ようやくわかった。
当然だ。
ユミィーリア
「自分の・・・好きな物さえ・・・知らないんだもの」
目が熱い。
いつもの涙だ、いつもいつも苦い思いをするたびに流す物だ。
総じて思うこと、それは自分の醜態だ。
どんなに着飾っても、どんなに取り繕っても、どんなに声をかけられようと。
自分の醜態は消すことなんて出来ない。
どれだけやっても・・・。
ポンッ・・・。
ユミィーリア
「・・・?」
頭に手を置かれた。
大きな手が泣き止むことをするようにと。
カズキ
「嫌いに・・・なったの?」
嫌いに?
私は、この無限にも広がる夜空を見て嫌いになった?
違う、絶対に違う。
そうか、そうだ。
これは誰かに決められた物じゃない。
私が、私自身が・・・好きになった物。
ユミィーリア
「いえ・・・んっ」
涙を拭い置いてくれた手の上に自分の手を乗せた。
ユミィーリア
「もっと! もっと好きになりました!!」
この人が見せてくれたこの光景は私の好きを大きくしてくれた。
たったそれだけ。
カズキ
「ん?」
ユミィーリア
「背もたれ、お願いします」
カズキ
「注文が多いな」
目の前に広がる夜空に比べたらたったそれだけなのだ。
そして私も比べてしまったらそれだけの存在だ。
それだけの存在の、たったそれだけ。
ユミィーリア
「ありがとうございます」
カズキ
「どういたしまして」
それだけで、いいんだ・・・。
レイドラ
「マ、マイロード?」
レイドラが急に何か申し訳なさそうにしゃべる。
どうしたと聞くとどうも歯切れが悪い。
インカムを取れということらしいので、手に取って見た。
丁度鳴っていたので取ってみた。
シュリー
「あんた!馬鹿!本当に何してるの!!」
カズキ
「ん?あぁー悪い悪い、あの後な色々あっt」
シュリー
「そんなことは良いから!早く戻ってきなさいってば!! 王女様いなくてこっちは大混乱よ!!!」
王女が行方不明!?
それってとんでもないことだろ。
カズキ
「状況は? 誘拐か? テロの仕業か?」
シュリー
「いいいからぁああ早く戻ってきなあぁあああああい!!!!」
そんなに事態は深刻なのか。
だとしたらこの子には悪いが戻るしかないか。
ユミィーリア
「何かありましたか?」
俺の懐で座る少女が上を見上げるようにして俺に聞く。
カズキ
「あぁ、どうも王女殿下が行方不明だとか誘拐されたとかなんか物騒な事になってるみたいだ」
ユミィーリア
「・・・・・・え」
流石に驚くよな。
自分達だけで遊んでる場合じゃないようだ。
カズキ
「申し訳ないが戻るけど・・・」
ユミィーリア
「え・・・うん、はい・・・えっとお、お願い・・・します!!」
言動がめちゃくちゃだな。
術技を使いすぐさま会場へと戻った。
【ダンス晩餐会会場 庭園】
元の場所へ戻った。
すぐに会場へと向かおうとしたが。
ユミィーリア
「えっと!! とりあえず!ここに! ここにいた方がいいと思います! わ、私が!み、見てきますので!!様子を!!」
少女が先に走って会場へと消えていった。
そうか、確かに礼服でもないこの格好は流石にマズイか。
そこまで気が回らなかったな。
貴族の令嬢さんってのは本当にしっかりしてるんだな。
んーだが、ここでこうしていてもしょうがないしここは隠密に様子を・・・。
パァアアンッ!!!!!
会場へ向かおうとした瞬間叩かれた。
カズキ
「いってぇええ!!!!」
シュリー
「んふふふふふふふふふふ」
なんでシュリーがここに・・・?
後ろにはナザとフェーチスとニーネさん?
そしてナザの頭にレイドラ?
レイドラ
「我悪くないもん・・・」
カズキ
「は? そんなことより状況は、王女殿下は見つかったのか?」
シュリー
「・・・・・・っ!!!!」
スッパァアアァアアアアアァアアンッ!!!!!
花達が風に揺られて踊る庭園にただ虚しく叩かれた音が響き渡った。
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【ダンス晩餐会会場 応接室】
あれから俺はシュリーに引っ叩かれながら会場の一室で正座をさせられていた。
ヴェアリアスの面々が全員いる中で王の間の出来起きた事もしっかりと説明すると。
スッパァアアァアアアアアァアアンッ!!!!!
またシュリーに叩かれた。
そりゃぁわかるけどさぁ、上手くいった気がするから許してほしいもんだよ。
あれから大事になってないわけだし。
それから王都を走り巡ってようやく会場に到着した話しをした。
そしてあの庭園での事を話した。
スッパァアアァアアアアアァアアンッ!!!!!
また叩かれた。
カズキ
「ちょっタイム! ちょっと待ってタイム!」
シュリーは笑顔でよくわからない紙束を丸めた棒で俺を叩くし。
ナザはただ叩かれて当然という顔をしてうんうん言いながら首を縦に振り続けてるし。
フェーチスは引きつった笑みを浮かべて哀れむ表情だし。
サナミさんは・・・。
サナミ
「っ? ぷっ・・・くふふ」
目が合った瞬間吹いて笑ったぞこの人。
うわっすげぇ馬鹿にされた笑い方。
スッパァアアァアアアアアァアアンッ!!!!!
カズキ
「いっっうう・・・」
首がそろそろ限界に近い・・・。
もちろんそんな訴えを聞いてくれる気がしないと思ったら応接室の扉が開いた。
ユミィーリア
「そこまでにして上げてください、みなさま」
一人の少女が部屋に入ってきた。
その瞬間に部屋にいた者全てが跪いた。
俺は正座したままで何が何だかわからないでいるとシュリーに強引に頭を下げられた。
ユミィーリア
「皆さん顔を上げてください、今回の件はわたくしがこの方にお願いをしてしまったことが発端ですから」
シュリー
「いえ、これは王女殿下への度重なる無礼を制裁している物でこざいますゆえ、お気に召す必要はございません」
カズキ
「は? 王女殿下?」
シュリーの奴今飛んでもないこと言わなかったか?
王女殿下ってあれだろ、昼に会ったあの国王様の・・・。
娘?
それが・・・?
頭を叩かれすぎたのか思考が追いつかない間に少女が俺の目の前に来て手を取った。
ユミィーリア
「改めて、初めまして、わたくしはユミィーリア・エールス・ナイクネスと申します」
少女が綺麗な笑みを浮かべて自己紹介をしてくれた。
それはただ目を見開き固まった。
あぁーなるほど、やっと理解した。
ユミィーリア
「あのぉそのぉ・・・あなたがカズキ様で、よかったです」
もじもじと赤面して答えた。
凄く誤解を招きそうな言い方だなそれ。
クリル
「王女殿下、そろそろお時間が・・・」
ユミィーリア
「あ・・・わかりました、それではみなさん引き続きの晩餐をお楽しみください」
有無など言う暇も無く王女殿下は退室していった。
俺はただそれを目で追い見送ることしかできないでいた
スッパァアアァアアアアアァアアンッ!!!!!
スッパァアアァアアアアアァアアンッ!!!!!
二発・・・。
でも痛覚が・・・。
シュリー
「ちょっと待って本当にあんた何したのよもう・・・!」
サナミ
「カズキさん! カズキさん答えて! ユミィに何したの!? ねぇ!カズキさん!!お願い答えて!ねぇ!」
隣で頭を抱えるシュリー。
俺をただただ揺さぶるサナミさん。
あぁーあれだこれ・・・地獄絵図だこれ・・・。
そんな状態から回復するのに少し時間を使ってしまったのだった・・・。
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【ダンス晩餐会 メイン会場】
晩餐会も終盤というところまで来ていた。
テーブルが移動されダンス会場へと変わっていた。
貴族の紳士淑女達がみな楽しそうに踊っている。
シュリーも暇そうにしていたので促したらなんか睨まれながら行った。
ナザとフェーチスはどうやら二人で練習していたのだろうか、ぎこちないながらも良くやれている。
そんな光景を俺は飲み物片手に見ていた。
あれから俺は礼服を着て会場へと行く予定だったが、どうやら王女殿下の指示で俺の礼服は布着れ一枚になっていたようだ。
うん、完全にやってしまった感。
それでもとりあえずそのままの格好で行くよりはいいだろうと着て今ここにいる。
だが当然その異様な格好から貴族はあまり近付いてこない。
逆にありがたい気もする。
変に絡まれるよりも気が楽で。
カズキ
「ん?」
ユミィーリア
「あっ・・・んっ」
目が合ったがすぐに逸らされた。
確実に嫌われたようだ、まあ致し方ない。
王女殿下を誘拐まがいな事をしてしまったのだから。
即刻死刑にされないだけましだと言うものだ。
カズキ
「はぁ・・・」
あれからサナミさんの機嫌も悪い。
そりゃ自分の大事な姫様にあんなことしたらそりゃ・・・。
溜息をずっと付き続けて、飲み物を口に含もうとした瞬間・・・。
「ぐぅぅううあぁああああぁあああああ!!!!」
一人の貴族が苦しみ出した・・・。
パリィィイィィン!!!
手に持っていたグラスが地面へと叩き割られた。
カズキ
「・・・っ!」
庭園へと何かが動いた。
すぐに後を追い掛けた。
カズキ
「シュリー! ナザ! 中を頼む!!」
シュリー
「カズキ!?」
シュリーの声に反応している暇はない。
庭園に出てすぐに辺りを見渡した。
逃げられると思うな。
カズキ
「ナイトアイッ」
動く物体・・・捉えた!
アクセルムーヴライド ジャンパーハイク!
すぐさま飛んだ。
この距離なら追いつく。
その間に色々と考えていた。
それは敵の詳細だ。
敵国の人間・・・いや。
『ならもし行くことがあるならお気をつけて・・・』
セイトーの言葉を思い出した。
王都を騒がしているとされている反政府勢力。
カズキ
「テロリスト・・・」
殺された人間がどういった貴族かは知らない。
だが目の前で無力な人間を殺されて、そうですかと目を逸らすほど甘くない!
カズキ
「っ・・・!」
目標を捉え上空から一気に降下し。
背後から取り押さえた。
「ぐあぁあああ!!」
走っている行き追いもあってか、実行犯は地面をすべり続けた。
だが止まった瞬間腕を拘束し動けないように足で体重を掛ける。
身なりは黒いフード付きのローブ。
フードをはぎ取り顔を確認する、知らない顔だ。
「は、離せ!!」
カズキ
「なら、答えろ。お前達は何者だ」
更に体重をかけ痛みを与える。
同時に悲鳴も上げてくれてしっかり痛みがわかってくれて助かった。
「わ、我々は人ではない・・・これは帝国の意思だ」
カズキ
「何?」
目から涙を流しながら訴える。
またこの類の話か。
うんざりだ。
カズキ
「今から面白い実験をしてやろう・・・ボリュームキル」
「っ!!? っ!!!」
カズキ
「そう、喋れない、実際には喋ってるけど聞こえない。さてこの状態で痛いと思ったらどうだろう?」
ボキッ・・・。
「!!!!!!!!!!?」
指を一本折った。
だがもちろん、声は出ていない。
カズキ
「どうだ? 本当なら今も泣き叫びたいよな、叫び散らすって大事みたいだな。全身の筋肉を使って叫ぶことで気を紛らわす、思いをぶつける」
ボキッ・・・。
また一本折った。
じたばたとしているがその音すらも聞こえないことに気づいたようだ。
カズキ
「そして何より・・・自分の思いや気持ちが耳を返して聞こえる感覚って大事だよな?」
耳元で囁いた。
ボキッ・・・。
ヒーリングケア。
「・・・・・・・・あぁあう!!」
カズキ
「どうだしゃべる気になったか? 痛みはとりあえずないとは思うが?」
指が3本在らぬ方向へと曲がっているが、恐らくその感覚はないだろう。
痛みがなく、今なら声は出せる。
「はぁはぁ・・・はぁ・・・」
息が荒いようだ。
まるで息を止めて全速力で走ってきたようだ。
「わ、私は・・・」
喋ってくれるようだ・・・。
だが、その前に。
ガキンッ!!!!
ミツバ取りだし防いだ。
小太刀か? 俺に目掛けて何かが飛んできたが。
黒ローブの人間が一人物影から姿を現した。
姿はシュリーより少し大きいくらいの小柄な体形に見える。
カズキ
「なんだ・・・こいつの仲間か」
???
「否定・・・当方の依頼対象は・・・死に目」
カズキ
「っ!!」
飛び込んできた。
跨っていた男から離れすぐさま距離を取る。
カズキ
(右手に小太刀・・・左手は見えない)
どんな攻撃をしてくるかわからない。
ここは慎重にいく。
アクセルムーヴ!
左右に振りながらの距離詰め、一先ずこれで・・・。
???
「高速移動対処・・・アサナイト・イリュージン」
術技か。
相手も高速移動型か・・・違う。
黒ローブの姿が増えた。
カズキ
(なるほど忍者って訳か・・・面倒だ)
一人一人が連続で仕掛けてくる。
しかもしっかりと実態があるタイプか。
カズキ
「っ・・・ファミリアンブラスタースタンバイ」
幻影銃を出現させてこの分身を一掃する。
???
「遠隔射撃武装対処・・・アサナイト・シャフス」
何かをしたに叩きつけた。
煙幕か。
幻影銃の標準が定まっていない。
だがこれで十分に注意は削いだ。
ライブラリングアイライド ナイトレイッ!
素早い動きをしていても、真素の情報と暗視術技。
本物は見える。
カズキ
「そこだ・・・フルブラスト!」
???
「っ!!?」
ミツバの弾丸のトリガーと同時に背後に待機させた斬光体を一斉発射させた。
最初の幻影銃は囮だ。
俺が遠隔射撃術技を使えば煙幕系で姿をかく乱させるのは読めていた。
だから俺は、斬光体 スレイブセイバーを待機させ隠しておいた。
この一撃、避けれまい。
黒ローブは一瞬にして蜂の巣になっただろう。
避けた形跡もない、逃げたとも思えない、何かしらの防御術技で防ぐしか手立てはないだろう。
カズキ
「・・・・・・ほう」
???
「右腕部の致命傷、戦闘続行可能・・・勝利効率格段に低下」
右手から大量の血が流れている。
どうやら何かしらの術技であの負傷だけで済ませたということか、良くやるな。
改めてミツバを握り直す。
こいつ、相当の手慣れなのはわかっていた、確実に無力化して捕まえたい所だ。
お互いが睨みを効かせているその時・・・。
「うああぁああああああああああああああ!!!」
消されたか。
そんな気はしていた、あんな人間は利用されて終わりなのだろう。
哀れだ。
カズキ
「はぁ・・・」
何故か冷めた、ミツバを下ろす。
こいつを生け捕りにしようと思ったがどうせそれもさせてくれないだろう。
???
「戦意喪失を確認、撤退行動に入る」
カズキ
「おい」
呼び掛けに応じずにその場から去っていった。
反政府組織テロリスト、そして黒ローブの忍者。
これから王都で何かが起ころうとしてるのか・・・。




