怖がりさんの職業選択
表示されたのはズラリと並ぶ、CF職業の数々。
それぞれの職業は丁寧に動画付きで紹介されている。どれも色鮮やかでド派手なスキルで敵を蹴散らすさまが強調されていたが、桜は全く別のところに注目して苦い顔をした。
「うわ、これが敵なの!? こわすぎ……」
桜が見ていたのはスキルをぶちこまれている敵モンスターの方だった。どれもキャラクターの背より二倍は大きい、芋虫とか蜘蛛とかそんなやつばかり。
現実の芋虫や蜘蛛はともかく、蛾やかたつむりなどの小さな生き物すら苦手な彼女にとってその光景は地獄だった。
「でも、わたしが戦わなくてもいいやつあるって言ってたはず」
美々の言葉を思い出し、それぞれのジョブを一つ一つ丁寧に見ていく。
途中、生産職と呼ばれるものを見て気になったがこれらは戦闘職をある程度上げないと選択できず、初心者の桜には意味のないものである。
がっくりして戦闘職を最後まで見ていくがどれもモンスターと真正面から対峙するものばかり。
職業選択という、この初期段階で心が折れそうになっているプレイヤーもそうはいないだろう。
しかし諦めずにスクロールしていたところ、桜はやっと自分の求めていた職業を見つけた。
「テイマー? これ、勝手に戦ってくれるんだ! じゃあこれにしよっと」
数々の戦闘職が華々しい動画で紹介される中、一つだけ地味に佇むそれは紹介動画が唯一用意されていない。
モンスターを仲間にして簡単な説明のみ。おまけ程度に添えられているスクリーンショットは、キャラクターと可愛らしい妖精が2ショットで映っているだけのもの。
まあ戦闘シーンこそ分からないが説明には【モンスターを仲間にして戦わせる職業です】と紹介されているし、なんか画像の妖精は可愛いからモンスターとはいえ大丈夫だろう。
そう安易に考えた桜は安心して【テイマー】を選択。
『【注意!】この職業はβです。表示されている画像やスキルは、後のパッチで修正される可能性が――』
ぽち。
「あ、消しちゃった。……まあいいや」
なんか赤い文字でいかにも警告してますっていう文が出てきたが、ダブルクリックしたら押しちゃったしいいかと桜は開き直った。
それはMMO経験者ならとんだマゾではない限りまず初期ジョブから外すタイプの警告文で、実際にこのCFでもそれは例外ではない。
テイマーはいわゆる『趣味枠』である。
自分のレベルよりはるかに低いモンスターしかテイムできず……少なくともサービスが始まったばかりの段階で選択する者は少ない。
なにせ序盤は死にスキルである上、使えるレベルになったところで自身よりレベルの低いモンスターはほとんど役に立たないのだ。
ネタプレイ好きですら裸足で逃げだす仕様、しかしきちんと警告文を出すことでほとんどのプレイヤーは避けることができていた。それを桜はよく読むこともなく閉じてしまった。
しかし彼女はそんなこと夢にも思わず、キャラクタークリエイトの最終段階、キャラクターネームを入力し始める。
「桜って本名は……だめだよね。うーん、でもここはシンプルに苗字と組み合わせて……うん、できた! 完成!」
満足げに頷くと、画面には多少手を抜いて作られた桜の分身が表示された。
名前【ミカサ】
LV 【1】
HP 【50/50】
MP 【25/25】
職業【テイマー】
武器【初級テイマーの鞭】
頭 【初心者のバンダナ】
体 【無地のシャツ(白)】
脚 【無地のスカート(青)】
手 【装備なし】
靴 【サンダル(白)】
耳 【装備なし】
首 【装備なし」
指 【装備なし】
スキル【テイム Lv1】【詳細確認 Lv1】