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7/12

7 泊込みの木曜日

「…大隈はどうしたんだよ?」

 立川の声に振り向くと、壁画のパネルの前で一人で座り込む小坂の小さな背中が見えた。須藤が冴の袖をひっぱった。

「…俺達にはどうしようもねーよ。」

「…」

 その通りだ。冴は気になったが、…女と話をしないという戒律を自分に課していることもあったので、須藤に従った。須藤は冴を連れて、なるべくパネルから離れた。

 冴は田舎で、いつも女友達がお互いにもめて、大騒ぎをおこすのが常だったので…著しきは刃物を持ちだして、他の女を刺したのまでいたので…エリアでは極力女とのかかわりを絶っていた。陽介にそんなこと知られたくないし、知られるだけならまだともかくとして、そういう騒ぎに陽介を巻き込むような事態は絶対に避けなくてはならなかった。だから学校では教師以外の女とは口をきかないことにしている。たとえ教師とでも、相手が女ならば、勉強に関係ないことは話さない。

 須藤がひっぱっていった先には藤原がいて、二人ににこにこ言った。

「なあ、来週さ、大学祭いくだろ?」

 冴はうなづいた。

「立川に誘われたので行くつもりだった。まだ返事はしてないが。」

「行動早いな、立川…」

 須藤が天井を見て言った。

「うっそー、立川と二人でいくの?いいじゃん、俺もまぜてくれたって。」

「いいんじゃないか?」

 立川は藤原のような七面倒臭いヤキモチをやかないので、多分大丈夫なはずだと思って、冴は言った。

「…いいのか?」

 須藤が疑問を投げたが、冴は多分いいだろうと思った。

「あとで立川に言っておこう。」

「ああ、いっといてよ。須藤もいくだろ。」

「…俺はバンドの先輩の発表見に行くんだが。」

「あっ、本当?それききてえな。」

「行くか?前売り買っておくか?」

「うんうん、いくいく。月島は?」

「うん、そうだな…ちょっと立川に一声かけてから…」

 3人が振り返ると、小坂がしくしく泣き始めていた。

 …3人はパッと黒板の方向に顔を戻した。

 冴は、困ったな、と思った。

 …冴はああいう状態の女子を放っておくことが、断じて、絶対に、できない。

 …ようするに、あの大隈とかいうやつが現場放棄したんだろうから、探しにいって、撲って連れ帰ってくればいいんじゃないのか、と思うと、むずむずした。

「泣いたってしょうがないだろ、泣いてる暇があったら描けよ。」

 立川の冷たい声がした。

 立川、それはあまりに…と思い、思わず振り返りかけた冴の頭を、がしっと須藤が押さえた。そして声を極力低くして、耳もとに囁いた。

「…月島。おまえはやめろ。おまえの出る幕じゃない。…いいか、泣いてるときにお前のその顔で慰められたり、助けられたりしたら、女はもう絶対に逃げられないぞ。選択肢がないんだ、パンツ脱いでお前にまたがる以外にな。だから今動くな。可哀相だと思うなら、動くな。」

 …須藤は月島が女子とかかわりあいになったら、どうなるかがわかっているらしい。冴と似たようなタイプの知り合いでもいたのかもしれなかった。

 ちょうどそのとき、教室の後ろの戸のところに、女子が3人現れた。

「あの~、F組ですけど…実は、青が足りなくなっちゃって…もし、余ってたらでいいんですけど、少し分けてもらえないかと思って~…」

 小坂はそれを聞くと、立ち上がって、青のビンを手にとった。ビンごと渡すつもりのようだった。

「…小坂!」

 立川が鋭く言った。

 小坂はふと思い直して、ビンの蓋をあけ、塗料を半分残して、わけてやった。

「…わあ、こんなに。ありがとうB組! 今日と明日お互いがんばろうね~!…て、だれもいないね、もうできたの?」

 小坂は笑って、首を横に振った。

「一人でやってるの?たいへーん。…でもくじけないでね。さびしかったら遊びにおいで~、今夜うちら泊まりだからさ~」

「おやつもあるよ~」

「…なかないで~」

 別の女子が言って、絵の具で汚れた手をエプロンにこすってから、小坂の涙をふいてやった。…そして、3人はそろって批難するような目で立川を見た。

 冴も須藤も、あまつさえ藤原までもが「違う!」と思ったが、誰もとっさのことで動けなかった。

 …そして立川は、なぜか一言も弁明しなかった。

 冴は急いで声を出した。何を言うかは決めていなかったが、何か言わなくては、と思った。

「…立川、」

 それを藤原が拾った。

「…立川、もうほっといて帰ろうぜ。なんでお前がそんな目にあってるんだよ。関係ないじゃん。それよか須藤の先輩のライブ行くだろ。チケット買うよな?」

 するとなぜか、助けてもらったはずの立川は恐ろしい目で藤原を睨み付けた。

 藤原も、冴もびっくりした。

 小坂がやっと言った。

「…ちがうの、立川くんは、壁画じゃないの。」

 するとF組の女子達はげらげら笑い、3人が3人とも口々に言った。

「だってタッチ-でしょ。」

「かばうことないよ、あたしたち、みんな中学のときタッチ-と壁画やったもん。」

「みーんな知ってるよ、どういうやつだか。」

「元気だしてね、あんたは悪くないよ、絶対。」

「じゃあねタッチ-、今年も特賞とってよね。」

「高等部、特賞ないけどね。あはは。」

 そして3人でぱたぱたと小坂の肩を叩いて励まし、青い塗料を持って立ち去った。

 静かになった教室で、小坂は小さくつぶやいた。

「…立川くん、ごめんね。…でも、ちょっとだけ、休憩させてね。」

 小坂はそう言うと、教室を出て行った。…多分、トイレに泣きに行ったのだ。

 藤原はきこえよがしに大きくため息をついた。

「馬鹿じゃねーの。関係ねーのに。」

 すると立川が藤原に言った。

「…2年の時、俺も全員に現場放棄された。」

「…タッチ-、フジは、おまえに手を貸そうとしたんだぞ。」

 須藤が言った。

 立川は今度は須藤に言った。

「…最後に一人残ってくれた女子を、どうせお前だってあいつらと同じなんだろと…お前もいっちまえといって、怒鳴って、なじって、俺が追い返した。…一人のほうが結局楽だと思ったから。」

「…」

「…関係なくなんかない。批難されたのは中2んときの俺だ。」

 冴が声をかけようとするのを遮って、立川は静かに言った。

「…おまえらは帰れ。」

 そして3人に、背を向けた。


+++

「…藤原は悪くない。」

「…なぜそこでお前が怒るんだ、月島。」

「…いいよ、べつに。ちょっとすれ違っただけだって。…なんにせよ、マエストロに火がついたんだ、悪いこっちゃない。『関係なくなんかない』なんて、あの自由人の口からきけるとは、むしろ感動だね。」

 藤原本人はとくに気にしているようすもなかった。なにしろ年中人助けばかりしている藤原は、こんな向う傷など、日常茶飯事だったのだ。

「…気にすんなよ、月島も。俺はへーきよ?」

「…藤原は偉い。」

「うん、偉いべ?」

 藤原はにこにこした。

 藤原は話を変えるべく、須藤に言った。

「チケットいくら。」

「500。」

「安いな。」

「学祭だから。」

 冴はまだ憮然としたまま、ポケットをさぐった。

「…すまん須藤、今250しかない。明日でもいいか。家主さんに借金するから。…どうせ学祭中は金がかかる。打ち上げもあるだろうし。」

「ああ、来週でもいいよ。」

「へへー、須藤、俺このあいだ月島んとこの家主さんに車で送ってもらっちゃった!」

 藤原は楽しそうに言った。須藤は吃驚した様子だ。

「噂の家主さんか。…どんな人物なんだ。」

「んー、妄想バクハツで愉快な人だったよ。おれも妄想は好きだけど、同時に3本はでてこねえ。」

 …文芸部をやめたから、多分妄想の出て行く先がなくなって、溜まっているんだな、と冴は思った。

「そうなんだ、じゃあ、月島はこんな顔だが、家では家主さんと愉快な妄想ライフを送っているというわけか。」

「…顔は関係ない。」

「…月島、怖いぞ。機嫌なおせよ。」

 3人が門の前にさしかかると、そこにはおかっぱの美人が立っていた。

「ハァ~イ、ボーイズ。お元気かしら?」

「あっ!」

 女の姿をみるなり、冴を除いた二人は一斉に沸き立って、ユウに駆け寄った。

「おねーさん、こんにちは!」

「こんにちは。お会いしたかったです。」

「お名前おしえてください!」

 二人が口々に言うと、あらん、かわいいわね、といった顔で微笑み、ユウは言った。

「ミズモリ・ユウよ。よろしくね。」

「ミズモリさんですか~」

「ユウでいいのよ。」

「ええっ、ユウさんですか?」「ひゃ~なんかはずかしー」

 ユウが二人の男子を両手でそれぞれなでなでしているのを見てげんなりしつつ、冴は言った。

「…また営業か?俺は今250しかないぞ。」

「あらやだ!」ユウはうふふと笑った。「ビンボーさん!」

 さらっとトランプよろしくチケットを見せた。

「買います!」

「どちらの学部なんですか?」

「友達の分も!」

「あら、ありがと。あたし文学部の1類の一年よ。…でも無理しないでね。1枚だけでも十分嬉しいのよ?」

「とんでもない!」

「ええっと…」

 二人は一斉に財布の中を探り、そして力なく言った。

「えっと…俺2枚。」

「俺も2枚…」

「はい毎度さま。」

 ユウはニコニコしてチケットを渡し、現金を受け取った。

「冴の友達、みんな御親切なのね。冴がうらやましいわ。」

「そそそそんな。」

「ユウさん、いつでもお呼び立てください。エエいつでも。お役に立ちますっ!」

「あらやだ、嬉しい。ありがとう、二人とも。」

 二人の頬を人さし指でふっ、ふっ、と触ると、二人ともぼんやりでれでれした顔になった。

 冴は言った。 

「…用がすんだならとっとと失せろ。」

「…あんた、大丈夫だったの、カノジョのほうは。」

 ユウは横目で冴を見て言った。

「…」

 冴が黙ると、須藤がおそるおそる、ユウに訊ねた。

「…月島のカノジョって…どんな女なんですか?」

 ユウはにっこりして言った。

「清らかで、かわいらしい、深窓の令嬢なのよ。我侭で弱虫で泣き虫なの。」

「えーっ、そうなんだ。」

 二人は揃って別々のニュアンスで言った。

 ユウはにこにこした。

「…意外な感じでしょ?なんか、もっと活動的で、冴をぐいぐいひっぱってくような、そんな女の子想像しない?」

「いや、どんな相手でも想像つきません。」

 二人はまた揃って言って、たははと笑った。

 ユウはにこにこしたまま、訊ねた。

「今日はこれから3人でどこか行くの?」

「いいえ、今から帰るところです。」

「じゃあ、あたし、冴を借りていっていいかしら?」

「どうぞ!」「どうぞいくらでも!」

「貴様ら…」

「悪いわね!」

「いいえ全然!!」

 二人に手を振って、ユウは見送り、そのあと冴の手を引っぱった。

「…今日は久鹿は居合でしょ。夕食つきあってよ。」

「…まあかまわんが、金ないぞ。」

「おごるわよ、ビンボー人。」


+++

 エラそうなことを言っても、ユウもけっして金持ちではない。タコスの食べられる安いメキシコ料理屋に連れて行かれた。…なぜか店では三線を弾く流しのミュージシャンらしき人物が、冴にはわからない方言で、ゆっくりとした民謡を歌っていた。

「…なぜタコスの店で島唄なんだ…」

「さあね、メキシコ移民して、そののち何世代か後の子孫が帰って来たのかも。…あたしタコライスね。注文台そこよ。」

「…」

 冴は注文用のパネルをひっぱりだして、タコライスというところとタコスかっこミートとかいてあるところをペンでチェックした。

「それとコーラね。あんたも何か飲みなさい。」

「…」

 注文が済むと、ユウは言った。

「…久鹿の御機嫌はなおった?」

「まあ、御機嫌だけは…。」

「なにもいってくれないの?」

「…うーん、俺が、…友達に陽さんを紹介しないのが、気に入らないらしい。…陽さんは、オレが陽さんと暮してるのを、友達に隠しているんだろう、と。恥ずかしいのかと。」

「あら。」ユウは勝手に水をつぎながら言った。「友達、招待すれば。一回くらい。久鹿は、お行儀よい場面で、かつ相手が男なら社交的よ。特技だから、お接待。」

「…あんな広い家に俺と大学生一人だぞ。たまり場にされるだろ。イヤなんだ。…ただでさえ…陽さんとは起きてる時間の半分も一緒にいられないのに…これ以上じゃまされたくない。」

「毎日呼べとは言ってないわよ。一回くらい、ちゃんと堅苦しく招待したら?全員は無理でも、育ちがよくて無難そうな子、一人くらいいるでしょ。…さっきの子たちでもいいじゃないの。」

「…」

「…どうしてそんなにイヤなの?…久鹿だって、あんたを預かってる手前、あんたの友達の顔把握しておきたいんじゃない?」

「…だから、どうしてお前らはわからないんだ。俺は陽さんと二人でひっそり暮したいんだ。だれも家に入れたくない。」

「なにいってんのよ、俺の陽さんだれにも見せたくないってか。見せたら減るからいやだってか。…監禁趣味の変態かっちゅーの。」

「…」

「…あっ…」

 ユウは口を押さえた。

 …そう、つまり、冴は…そうなのだ。

 だがそれが常軌を逸した感性なのは自分でもよくわかっている。だから、陽介をちゃんと大学にもいかせるし、居合にもいかせるし、車だって好きなだけ運転させているし、友達と会うなとか、父親と会うなとか言わない、言わないけれど…。

 でも本当は、そうしたことも、何もかも、イヤなのだ。

「…そうなのね。わかったわ。」

 席の横の飾り棚のようなところが動き出した。二人が目をやると、そこから、注文の品が出て来た。

 しばらく二人で黙って食べた。

 少して、ユウは言った。

「…まあ、あんたのそうした嗜好をどうこう言っても仕方がないわ。」

「…」

「…そのことは、久鹿にはちゃんと伝えたの?」

「…いつも言っているが、今一つわかって貰えていないように思う。」

「…そう。」

 ユウはまたしばらくタコライスを食べた。

 冴はどっとおちこんだ。

「…なにどん底まで落ち込んでるのよ。…まあ、俺はあんたを監禁したいんだ、とはなかなかねえ、ストレートにはいえないわねえ。いくら久鹿が変態でも、多分引くわ。」

「…俺もそう思う。」

「…まあ、そこまで直球でぬかす必要もないわ。…うちをたまり場にしたくないから、ってことだけちゃんと言って…あとは様子みながら、って感じでいいんじゃないの?…あんたも一回くらいは我慢なさいよ、久鹿だって、あんたが学校でちゃんとやってるか心配なんだろうし。」

「…」冴はメロンソーダにのっかったアイスクリームを食べながら言った。「…陽さんは…俺が学校で遊んでると思ってるのかもしれない。」

「勉強はちゃんとしてるんでしょ、堅苦しいほど勉強は真面目だもの、あんた。川上さんよく自慢してるわ、冴と付き合う友達はみんなつられて勉強するから成績が上がるんだって。」

「…そうじゃなくて…だから…他の男とか女とかと。」

「…ううん。」ユウはコーラを飲みながらちょっと考えた。「そりゃ多少は思うでしょうね。あんたは特別目立つ男だし…。でも、だからこそ、いちど友達をちゃんと会わせておいたほうがいいでしょ。なんでもないんだってとこみせとけば久鹿だって…あっ!!」

 ユウは冴に向って指をつきつけた。

「…あんた、向こうが思ってるっていうよりは、事実として、遊んでるのね?!あれほどイケナイって言ったでしょ?!」

「遊んでない! …ただ…陽さんからみると、充分遊んでるらしいんだ。」

「やっぱり遊んでるんじゃないの!」

「ただ普通に友達付き合いしているだけだ!」

「あんた田舎でもそう言ったわよね?! その女ども、刺したり刺されたりしたじゃないの?!」

「ちがう! 男だ! 男友達だ! でも陽さんはゲイだから、そうは見てくれないんだ!!」

「今度は男と切った張ったやる気なの?!」

「だからちがう!!」

「…なんにせよ、あんたは一つ、認識しておかなきゃならないことがあるわ。それはね、今やあんたはバイセクシャルなのであって、ゲイの恋愛観はまったくの他人事とは言い切れないってことよ。」

 冴は歯ぎしりしかねない勢いでうなった。

「…俺は学校で女と一言も口をきいてないんだぞ。このうえ男とも口をきくなっていうのか。」

「そうは言ってないわ。節度ある、普通の付き合いをしなさいと言うの。そうしたら久鹿に会わせてもなんでもないでしょ?」

「だから普通につきあってる。」

「ゲイからみても普通だと思うように付き合えと言ってるのよ、あんたの恋人はゲイなんだから。」

「だから…」

「なら会わせなさいよ。…できないんでしょ、あんたの友人の中に、人目をはばかるほどではないにしろ、久鹿がみたらヒステリーおこしかねない、うっとりした仲の子が一人ならずいるんでしょ?」

「…」

 冴が黙ると、いつもなら「ホラごらん」と得意になるユウが、切羽詰まったような真剣な顔で言った。

「…知らないわよ、なにもかも夢に終わっても。ちゃんと久鹿の心を掴まないと、あんたあのクソど田舎の怪異だらけの山奥で、一生人間の世界から隔離されて生きるしかないんだからね!」


+++

 思うところがあって、学校に引き返した。

 明日金曜日は壁画の締切だ。

 あちこちのクラスに灯りがついていた。今夜は泊まり掛けで仕上げをやるクラスが多いのだ。

 3枚きりの小銭で買った菓子を持って教室へ行くと、まず、立っている小坂の背中が見えた。

 …戻って来たらしい。冴は少しほっとした。

 ただ、動いているようには見えなかった。

 冴はそっと戸をあけて、教室に入った。小坂が振り返った。

 冴を見ると、意外そうな顔をした。誰か、別の壁画スタッフがかえってきたと思ったのだろう。冴が近付くと、小坂が、口の前にそっと人さし指をたてた。冴はわかっている、とうなづいて、静かに歩み寄った。

 刷毛が、音を立てて流れた。…その鮮やかな赤。

 立川は周囲のことなど無頓着な様子で、そのあたりに作ってある微妙な色をばんばんそこに塗りこんでいた。

 立川らしい、目につきささってくるような、ハッキリとした画面が、赤い染みだった場所から周囲にひろがりつつあった。

 目をあけると、色から、刷毛から、光りがこぼれているのがみえた。

 いろいろな普通では見えない美しい生き物が、その光に引かれて、立川の後ろに沢山寄ってきていた。

 小坂と目が合った。冴は菓子のさしいれを小坂に渡し、立川を指差した。小坂はわかったとうなづいた。

 …肩揉みくらいならできるが、明日のほうがいいだろう。

 冴はそのまま、教室をあとにした。

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