2、始まりは突然に
状況を整理してみよう。
突然白い光に教室が包まれた
そして、気付いたら知らない場所に立っていた。
ざっと見た感じ、ホームルームの時間が近かったこともあり、クラスメイト全員がここにいるようだ。
どうやら神殿の様な場所にいるらしい。
真っ白な壁に金の豪華な装飾がされている。床も大理石のようにピッカピカ。
どうやってクラスメイト全員を一斉にここまで連れてきたのか…
現代の科学技術でもほぼ不可能なこの現象をどう捉えるべきなのか…
…考えるのをやめよう。
考えても無駄だと、早々に思考を放棄する。
「しかし、本当にここはどこなんだろう…」
そう言いながら私は、さっきから存在感を放っている大扉の方へ歩こうとしたその時、
「冬香!!無事か!?」
変態イケメン残念男子こと智紀が、私の肩をがっしり掴んだ。
物凄く必死な形相をしていてちょっと吹き出しそうになった。
「智紀。私は大丈夫。智紀こそ大丈夫?」
「ああ、僕は大丈夫だよ…冬香が無事で本当によかった…」
そう言って智紀は私を強く抱きしめる。
少し子供っぽく見える智紀の背を軽くたたく。
それに甘え、私の肩に顔を埋める智紀。
が、
本当にそろそろ離して欲しい。
智紀のせいで周りにいるクラスメイトの視線が刺さる。中には殺意が含まれている視線も…
ねぇ、お願いだから早く離して…
なんて事を言えるわけもなく、時間が過ぎていく。
「本当に仲が良いですね〜」
「ふぁッ!?も、桃香!?いつから!?」
智紀がびっくりして振り返ったことで、私から手を離す。
林檎かっていうくらいに智紀の顔がみるみる赤くなっていく。
やっと来てくれたか我が救世主、桃香!!
智紀に解放された私はすぐさま一歩後ろに下がる。
「いつからって、今さっきだよ〜。うちの冬香を抱きしめたあたりからだね〜」
それってかなり始めの方だよね…
そして、“うちの冬香”とはなんだ!?
「桃香も無事だったんだね。あと、訂正。私は桃香のじゃない。」
「む〜。冬香は冷たいな〜。」
そう言って頬を膨らます。
「まっ、そこが良いんだけど」
そう言って桃香は素早く私の背後に回り、抱きしめる。
柔らかな感触が背中から伝わる。当然、桃香の大きな胸が背中にあたっているからなのだが…
…世の中理不尽だ。
「しかし、ここは本当にどこなんだ?」
冷静さを取り戻した智紀が呟く。
静かな部屋での呟きは案外響く。
それで我を取り戻したクラスメイト達が軽くパニックを起こしてしまった。
それらを収めようと智紀が動き始めた時、私の中で存在感が無くなっていた豪華な大扉が開いた。
開かれた大扉の中央に一際存在感を放つ白地に豪華な金の刺繍が施された神官服らしき服を着た、金髪碧眼の美青年が立っていた。
後ろには同じ格好をした40代くらいから初老の男性が片膝をついて頭を垂れたまま並んでいる。
一際存在感を放つ金髪碧眼美青年の登場に場は静まりかえる。
静まったこの場所で、金髪碧眼美青年は軽く微笑み(これで女子の何人かが倒れた)、少し低めの声で言った。
「ようこそお越し下さいました。勇者の皆様。」
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