第8話 安平響子
安平響子は背が低めの黒髪おかっぱ頭でスラックス姿が愛らしいという声はあった。が、彼女の性格を知る人は概ねその「可愛らしさ」だけは否定する。瑞希と同類と言っていい正義の希求者なのだ。そんな彼女はさっと立ち上がると朗々と告発した。
「まだ議論を尽くしていると思えません。カフェ案はテーマぐらい定めて欲しい。でないとクイズ大会案と比較が出来ない。亘理委員長、今、多数決動議は適切ではない。断固異議を申し立てます」
創太は響子のやり方に疑問を抱きつつ眺めていた。安平響子は会計委員会副委員長をやっている。数字に強く生徒自治会やクラブ活動を支えている功労者としてみんなもその能力は認めている。ただ彼女の正義のありようは原理原則主義にある。つまり融通はきかない。
今やった告発にしても本気でああ思って言っているのが半分、あと半分は亘理悠太委員長の話のまとめ方、整理の仕方が下手くそだからちゃんとやらせようと追い込んだのだろう。
それにしてもある程度話が進んでるのに容赦なく足止めを入れるとは空気を読まない響子ちゃんらしい。今なら佐藤・山上・峯岸連合も出来かねないよな。
陽菜は怒っていた。響子の乱入。ここぞというタイミングで話を決めさせないためにこそ割り込んできた。昔から響子はこういう嫌がらせにしか思えない正論が大好き。今日は黙ってるから大丈夫かと思ったらこれだ。
陽菜は響子を睨みつけながら言った。
「ねえ、安平さん。別にカフェ案に賛成じゃないんでしょ。それなら峯岸さんのクイズ大会案に加わればいいじゃない?」
響子はゆっくりと首を横に振りつつ呆れたかのように両手でお手上げという仕草をした。
「佐藤さん、それは違う。カフェ案に賛成してもいいと思っている。現状判断できるだけの情報を佐藤さんは説明していないのが問題。だからしっかり説明するか出来ないなら案自体撤回するのが筋だと思う」
陽菜、紅麗亜は心の中で同時に「響子は何様のつもり!」と叫んでいた。