第1話 プロローグ 今野創太と友人
9月末、金曜日の昼休み。2年B組の今野創太はメッセで指定された時刻ギリギリに北校舎3階西側手前の非常階段の踊り場に上がって来た。
今朝起きてスマフォを見たらメッセに「頼みたい事があるので13時に待っている。嫌と言える立場に君はいないはずだけどな?」との有難いお言葉が入っていたのだった。秋になったとはいえ温暖化のご時世、まだ汗ばむ季節。デブには階段はつらいんだよと心の中でぼやく。
待ち合わせ場所には半袖のホワイトのポロシャツ姿の友人が先に来て外を眺めていた。いい風が吹いていて友人の短い髪が揺れた。そんな友人の背中越しに声を掛けた。
友人は僕が遅れるとでも思ったのか文庫本を片手に振り向きながら「わざわざ来て貰って申し訳ない」なんて事を言ってきた。
どうせ社交辞令って奴なので無視して単刀直入に聞いた。
「で、こんな密談の名所で頼み事があるって何かな?」
彼女は笑った。
「ここにそんな名前が付いてたとは知らなかったな」
文化祭の企画である場所の利用許可が欲しくて生徒自治会の実力者である友人に相談を持ちかけた所、水面下で手を回してくれた。創太自身も学校関係者や実行委員会側と話はしていたけどはじめてのケースでみんな慎重になりそうな所を助けてもらったのだった。で、今日はその借りの取り立てを受けている図という訳だ。
友人は話を切り出した。
「頼みというのは君のクラスの文化祭の出し物の事」
何も決まっておらず来週月曜日のロングホームルームの時間に決めるという話は委員長の悠太が言っていた。そんな話でどんな依頼があるというのか想像がつかなかったのでまずは話を聞いた。
友人のリクエストを聞きながら創太は軽く数回頷いた。
「まあ、その危惧は分かるよ。そういう奴だしな。……分かった。確約はしないけど引き受けよう。要望に添える様に努力するよ」
という訳で彼女に借りを返すべく厄介な頼み事を引き受ける事になった。
友人は別れ際に手にしていた文庫本を差し出してきた。
「これは引き受けてくれたお礼。面白かったから貸してあげる」
創太は手にした本を矯めつ眇めつしながら聞いた。
「何の本?」
「ミステリー小説。読んでいたら君の好きそうな話が載っていた。文化祭を背景にした青春ものでもある。また来週にでも感想を教えて欲しい。君がどう思ったか知りたい」
「これはありがとう。週末読んでみるよ」
教室に戻って席に座ると本をパラリと開いてみた。ある文化系クラブの部員たちが文化祭の最中に遭遇した不思議な事件の謎解きをするものだった。その中には料理を競い合うイベントの話があって部員たちが奮闘するらしく俄然興味が出てきた。流石は勝手に僕が我が友と思っている相手だけはある。まずは明日読んでみるかなと考えて本をバッグにしまった。