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世界を歩く少女 えぬ  作者: tomo
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渦の世界4 空吸い

空吸いは、海を吸い込む掃除機のように大きな音をたてている。


突如空に現れた大きな渦は周辺のものをまるでモザイクのように変化させた。陸地も、海も、空も、全てがモザイクの一部となり吸い込まれていく。


えぬと鼻の潰れた少年は走った。「空吸いは朝食を済ますくらいの時間で消えてなくなる。それまで逃げるんだ」と少年は言った。


杉が並ぶ風景がえぬの視界を流れていく。気がつけば足元には霜が降りている。荒くなってきた呼吸も白くなってきた。


途中、鹿やうさぎを見つけた。だが、決して逃げることはせず、何かを悟ったように目を閉じて、やがて空吸いに吸い込まれていった。頭が、胴体が引き千切られ、モザイクの一部となりばらばらになっていった。吸い込まれる寸前に、生物たちは高い声で長く鳴いた。苦痛を伝える声のようだった。痛いのだろうか。


空吸いは世界を吸い込むたびに大きく膨れ上がっていく。空吸いはゆっくりと中心に向かって渦巻いている。その中心は紫がかっていて先が見えない。えぬにはそれが大きな目のように見えてきた。じっとこちらを見つめる瞳。何を求めているのかはわからない。だがそれはえぬに何かを訴えていた。


 「前を見なきゃ。足元に気をつけて」


鼻の潰れた少年は振り返って叫んだ。はっとしてえぬは前を向いた。足元は木の根が複雑に入り組んでいる。その間を縫うようにして二人は駆け続けた。


濡れた木の根で滑り、えぬは転んだ。


制服のスカートから覗いた膝を木の根に打ち付けた。制服のブレザーを着ていたことを今思い出した。


 「何してるの、早く」


鼻の潰れた少年は息を切らせながらえぬに手を差し伸べた。赤黒くて垢だらけで汚かった。えぬは自分の手を見た。泥はもちろんついていたが、それ以上に何か汚いものでいっぱいだった。あらゆる生き物の糞がついているようだった。少年の手がシルクのおろしたてのハンカチのように感じられるほどに、汚かった。いつの間にこんなに汚れてしまったんだろう。


成長したから、かな。


鼻の潰れた少年はそんなことも気にせず手を伸ばしている。えぬは少年のことが少し好きになった。


互いに手を握り、二人はまた走り始めた。


ふと少年の足が止まった。急に止まったので、えぬは勢いあまって手を離してしまい、そのまま前に転げていった。


「あれ、僕」


「動けない」


少年の両足は泥につかまっていた。柔らかそうなぬかるみだったが、足が動かないようだ。


「空吸いが」


えぬは叫んだ。


空吸いはこのときを待っていたかのように急に渦の勢いを増した。


少年の左腕がばらばらになった。

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