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世界を歩く少女 えぬ  作者: tomo
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希望の世界8 モノクロ虹の龍

クリームパスタを11回とシーフードドリアを2回食べたくらいの日が過ぎた後のことだった。いつも通り、えぬは今日の一日に希望を抱き、陽の光を浴びて目覚めた。


いつもと違ったのは、雨が降っていたことだった。カーテンを開けてみると、確かに空は晴れているが、どこからかにわかに雨が落ちてきていた。


今日は広場に行くのはやめようか。とりあえず宿でもう少し過ごして様子を見よう。えぬはそう考えてた。


ふと、小さな頃のことを思い出した。まだ、えぬになる前、家から出ることを許されていなかったときのこと。テレビと窓からした外の世界を見ることができなかったときのこと。雨が降っていると街が寂しくて、自分まで寂しい気持ちになった。窓の外の電柱もアスファルトも、他のアパートやマンションの壁も空も、みんな灰色になる。目を瞑ると水の落ちる音とレースのカーテンで耳を撫でるような音がする。どこか寂しくて切ない気持ちになるが、決して嫌いではなかった。


この世界の雨の風景は、灰色にはならなかった。えぬは違和感を感じた。そして、ふと思い出した小さな頃の記憶により、1つの思いが生まれた。


「あれ、これでいいんだっけ?」


独り言のように呟いた。


その時、ふと雨が上がり、虹がかかった。えぬはその瞬間を黙って見ていた。やがて、虹はその色をモノクロに変えた。色彩を失った虹から手が生え、足が生え、大地に隠れていた虹の先端からは巨大な龍の顔が、逆の端からは細長い尾が飛び出してきた。


龍は雄叫びをあげた。頭の中まで揺さぶられるような、そんな雄叫びを。


えぬは、はっとした。


そして思い出した。ここにずっと居てはいけないことを。世界をあるかなければならないことを。


希望の街に似つかわしくない龍の雄叫びにより、その街が希望の街たる所以が壊れていく。そんな気がした。


えぬは急いで広場に向かった。ところが、広場にはいつも通りの花。いつも通りの人々の笑顔。まるで日常と変わらない風景が広がっていた。


マヤは、花に水を、やっていた。


「マヤちゃん、何してるの」


「見てわかるとおりよ。花の健やかな成長が希望。そのために水をあげているの」


「聞いたでしょ、龍の鳴き声。大変なことになってる」


息を切らしながらえぬは言った。


「大丈夫。何とかなる。希望を失ってはダメ。希望を失うことは、光をなくすこと。光を失うことは目を瞑ること。目を瞑ることは、心を閉ざすこと。心を閉ざして一人でいるのがつらいことは、えぬだって知っているでしょう」


そう言ってマヤはにたりと笑った。


「目の前の現実から目を瞑って生きているのはそっちじゃない」


えぬは、一呼吸置いてから静かに言った。


その時、空を蠢いていた龍が広場に向かってその身をよじらせた。巨体が、重さを感じさせないスピードで向かってくる。


広場の手前で、龍は低空飛行を始めた。建物を巻き込んで破壊し、えぬの贔屓の宿も跡形もなく吹き飛ばされた。人の叫び声は不自然な程に一切聞こえない。


逃げようとマヤの手を引いた。龍のは間近まで来ている。大きく開いた口からは鋭い牙が見える。走り出そうとするが、マヤが動かない。


「大丈夫。希望をもって」


大きく開いた口が、牙がマヤのワンピースの広がった裾を捕らえた。

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