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使い魔は使い魔使い  作者: 壱弐参


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風土の魔法

「あの魔法……風土が放ち、翔がいなし、弾き飛ばしました。それはご記憶にあると思います」


 咥えてたのが印象的だったけど確かに弾き飛ばしたりしてたな。

 だから壁にもナイフの傷跡があった――――あれ?


「どうやらお気づきになったようですね」


 ナイアの言葉の意味にはまだ追い付いていなかったが、近づいていた事は確かだ。

 何で……何で傷跡が出来るんだ?

 あの個別スペースにはちゃんと防御魔法が掛かっていたはずだ。

 それを突き抜け、壁にめり込む程の威力、あるいは透過してしまう魔法だったからナイアはこれ程真剣に話すのだ。

 話さず俺が今度受けるであろう選考会であの魔法を放ったとしたら、少なからず事件が起きる。いや、大事件にすら発展する恐れがある。

 ぞくり、そんな擬音が似合うような悪寒が身体を覆い、俺は深い息を吐いた。


「……ありがとうナイア。言ってもらわなかったらこのまま気付けなかったよ」

「差し出がましいとは思いましたが、マスターのためになったのなら幸いでした」


 優しくほほ笑む静かで安らぐ表情に、俺はほっと胸をなでおろした。

 選考会当日である七月二十五日まで既に二十日を切っている。平日は自分一人でなんとかするしかない……か。

 幸い一人と言っても、俺には頼もしい仲間が二人もいるんだからな。


 ――二○一五年 七月七日 日曜日


 二日連続で楓と八王子スクエアに行く。

 そんな事が出来たら苦労はしない。

 楓曰く、あちらの生徒会の予定が入ってて都合がつけられなかったそうだ。

「もっと早く言ってくれれば……」と、悔しそうな顔をしてくれただけで俺は嬉しかった。

 という訳で、今日は俺一人……というのも変だが、ナイアと翔を連れて八王子スクエアまでやって来た。

 すると、意外や意外…………別の女の子との出会いが待っていた。


「あっ、火水さん! いらっしゃってたんですかっ?」


 ぴょこんと跳ねるように俺に近づいて来たのはA組の(しずく)(れい)

 先日めでたく、俺の友人リストに入った才女だ。


「雫、相変わらず元気そうだな」

「ふふふ、元気じゃないとスクエアには来ませんよ。火水さんは……ぁ」


 雫は俺の後ろにいるナイアを見てピタリと止まってしまった。

 翔にはまだ気付いていないようだ。


「風土、この方は?」

「か、かざ――っ!?」


 瞬時に顔をほんのり赤くさせた雫は、頬を冷やすように両の手を置いた。

 もしかして勘違いしているのか? いや、もしかしなくてもこれは勘違いをしている。


「あ~えーっと、ナイア、こちら俺が通ってる国立上等召喚士養成学校の生徒会メンバー、書記の雫玲さんだ」

「あ、あのぅ! す、すみません私お二人のお邪魔をしちゃったみたいでっ!」


 そんな慌てる雫をきょとんとした様子で首を傾げたナイア。


「あの雫? この人はナイア。俺の使い魔だ」

「……へ?」


 腰から上は綺麗なお辞儀をしているが、首だけカクンと上がったな。


「んで、こっちにいるのが――」

「あ゛ぁんっ!?」

「こ、こちらにいらっしゃるのが、翔さんだ。ナイアの使い魔――さん、だよ」


 昨日イイ線いったと思ったんだが、まだ翔のグランドマスターとしては認められていないようだ。

 確かに、出会って数日じゃそうもいかない……か。


「使い魔さんに……その使い魔さんの使い魔さん…………はっ! もしかして学校で噂になってた使い魔使いって火水さんの事だったんですかっ?」


 今頃そっちの噂を思い出したか。

 この前はトイレの(あるじ)としての噂だったからな。


「ナイアです。雫さん、風土を宜しくお願いします」

「翔だ。夜露死苦なぁ、玲の嬢ちゃん」


 リーゼントをしゅっと手で整え、その後二本指を揃えてチャキって、いつの時代の挨拶だろう。

 今時ハードボイルドな映画俳優でもやらないのでは?


「あぅ……よ、宜しくお願いします……」


 ぺこりと頭を下げた雫は少し学校と印象が違った。寮の時とも少し……。

 学校で会った時は結構真面目ぶってた感じがしたが、寮の時は少しそれが和らいでいた。

 もしかして生徒会メンバーって看板が、雫にはちょっとだけ重いのかもしれないな。

 寮の時はまだ起きたばかりだったからだろうな。

 という事は、これが一番自然体に近い雫って事か。


「よぉ風土ぉ?」


 いつの間にか翔が俺の首に腕を回してきた。

 なんだろう、小声だけど圧力がある。カツアゲに遭ってるような感覚だ。


「な、何です?」

「楓の嬢ちゃんも、そのお袋の圭織さんもそうだが、この玲って嬢ちゃんも中々マビィじゃねぇか?」

「た、確かにそうですね。けどそれが一体何か?」

「い~や? ただ風土の近くにいるとそういった意味では飽きねぇなと思っただけさ」


 一体どういった意味なんだろう?

 翔の腕から解放された俺が振り返ると、いつの間にかキラキラとした視線をナイアに向ける雫と、それに困っていそうなナイアの構図が完成していた。

 一体どういった経緯があるんだろう?


「風土……あの、私は……その、困っていると雫に伝えてくれませんか?」

「いや、そのボリュームなら既に伝わってると思うぞ?」

「はっ! 私、何かしちゃいましたかっ?」


 あわわと慌てる雫。なるほど、可愛い。


「何もしてないと思うけど、流石に今みたいな熱烈な視線はナイアが困ると思うぞ?」

「あ、いえ、あの……私、こんなに綺麗な人見た事なかったので、ちょっと感動してしまいまして……」


 てへへと頭を掻く雫。なるほど、可愛い。

 ファンクラブが出来るのも納得だというものだが、はて? ファンクラブの会員は雫のこういった顔を知っているのだろうか? いや、知らない。つまりこれは今の、ここだけの雫という事だ。なるほど、ご馳走様です。


「まぁこれからしばらくは学校にいる時だったらいつでも会えると思うぞ? 学校に使い魔を同行させる申請は金曜日に済んだしね」

「本当ですか!」


 ずいと身を前に出し、俺の手を掴む雫。

 手を……掴む?


「うわっ!? おい、雫っ、こ、興奮し過ぎじゃないかっ?」

「はっ! すすすすすいません。私ったら……」


 あ、危なかった。まさか女の子の手が…………ぬぅ、なんて温かく柔らかいのだ。

 神は素晴らしい存在を作りたもうたな。


「カカカカカッ、楓の嬢ちゃんもそうだが、玲の嬢ちゃんも面白いやっちゃな。こりゃ学校ってやつが楽しみになってきたぜ」

「翔さん学校に行ってた記憶とかはあるんですか? その……短ラン着てるし」

「あぁ? ん~……そうだな? おぼろげな記憶だが、仲間と学校の窓ガラスを全部割って回った記憶なら…………いや、あれは別の学校だったか?」


 どこの学校でもやっちゃいけない思い出だな、おい。


「それで風土? 今日はどこで鍛錬をするのですか?」

「んー、早目に来たし、個別スペースは空いてるけど、俺は一人扱いだから使えないんだよなぁ……。やっぱりここは射撃場かなぁ?」


 俺が首を捻らすと、俺の袖を引っ張る少女のような女の子が立っていた。


「あの、火水さん。私がいれば、個別スペース……入れますよね?」


 ……なるほど、可愛い。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「あぁん? 今日は魔法無しだぁ? 魔法の練習しに来たんだろうが、ボォケ――ぐぉっ!? いち~……姉御ぉっ? 何するんすかぁっ!」

「翔、お前が認めてないとはいえ私のマスターだ。もう少し敬意を払え」

「けどよぉ? 火水がボケた事ぬかすから――だーっと、はいはいはい! すんませんっしたぁっ!」


 グーを握るナイアも珍しいような気もする。

 ようやく収まった二人に、俺は魔法練習を避けた理由を伝える。


「確かに。そういえば学校ではそういったしがらみもあるのでしたね。今は雫に見せないのが賢明でしょう」

「んな理由があるならさっさと言えばいいのによぉ? ったく」


 今度から理由を先に伝えた方がいいな、翔には。

 そんな作戦会議が終わると、雫が飲み物を買って戻って来た。


「それじゃあ今日は何すんだ? 殴り合いでもしようってか? カカカカッ」

「それは……あまり平和的でないような気がします、よ?」

「ナイア、何か意見はあるか?」

「翔の意見に賛同する訳ではありませんが……本日は体術の鍛錬などいかがでしょうか?」


 体術……か。

 確かに、この先戦う相手は一年生の中でも腕に自信のあるやつらだ。

 戦闘としての動きを身体に覚えさせた方がいいかもしれない。


「流石姉御。話がわかるぜ、カカカカッ。さぁ火水ぅ、お前は俺とだなっ」


 にかりと笑った翔の顔が…………怖いです。

次回、優しい優しい翔のレッスン

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