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悪魔と天使

「ちょ、それ本気っ!?」


 楓は驚いて俺とナイアを見るが、翔はきっとああ言ったら止まらないだろうから、俺は溜め息を吐いて楓に眼でそれを伝えた。


「楓、翔も二人の力を間近で見て身体が疼いたのでしょう。付き合ってやってはもらえませんか?」

「そ、そりゃ私も練習になるからいいけど……」

「ほんなら話は早い! さぁ嬢ちゃん! バシバシやってくんな!」

「け、怪我しても知らないんだからねっ! はっ!」


 また放たれる火炎球。

 翔は大きく目を見開き、口元は完全に笑っているという常軌を逸した表情を見せ、大きく右腕を振りかぶった。


「だらぁ!」


 じゅ、という音と共に地中にめり込んだ火炎球。

 流石、血みどろの翔ちゃんだ。人間タイプの使い魔だけど、あれはもう人間とは呼べないかもしれない。


「うっそ、並の剣士じゃ避けるのが精一杯よ?」

「かっかっかっか! 俺はな、並じゃねぇんだぜ、嬢ちゃん?」

「……ふーん、それならその並じゃないところを見せてもらおうじゃない! はぁっ!」


 翔の挑発が楓の闘争心に火を点けたのか、楓は火炎球を再び翔に向かって放った。


「しゃっ!」


 くるりと回った翔の裏拳が火炎球は真横に弾く。


「この! このっ! このぉ!」


 緩急をつけた楓の火炎球。もう完全に本気モードだ。

 昔から火がつくとこうだよな、楓って……。

 二つの火炎球はハンドポケットの翔の軽やかで力強い蹴りによって飛ばされる。


「せいやっ!」


 そして最後の一つを、翔は……――腹で受け止めたぞ!?

 一瞬顔を歪めた翔だったが、すぐにまたにかりと笑い、残り火がぷすぷすと音を出す小さな球をデコピンでぱちんと弾いた。


「な、何なのあの人……?」

「かっかっかっか! これが(おとこ)ってやつよ、嬢ちゃん!」


 満足げに笑った翔は、陽気に近くのベンチに腰を下ろし、ごろりと寝転がった。

 うーん、翔一人でかなりの強さだな。

 いや、いかんいかん。ちゃんと俺自身の強さを高めなくちゃな。


「さ、気を取り直して続きやろうか?」

「むぅ~……!」


 なんだか機嫌が悪そうな楓だが、あまり触れないでおいてやろう。

 その後、楓の訓練は順調に進む。たまに入る八つ当たりまがいの攻撃も、俺を守るためにナイアが弾き飛ばす。そしてまた楓のストレスを加速させる。

 そして最後には……――


「あ~~疲れたっ! 何で私ばっか疲れてるのよ!」


 ぶーたれて文句を言う楓だったが、何だかんだで楽しそうに見えるのは気のせいだろうか。機嫌が悪かったり楽しそうだったり、忙しいヤツだな。


「さ、ちゃっちゃとやっちゃってちょうだい!」


 諸々端折(はしょ)って言ってきたな。

 まぁ、ある程度はわかったからいいんだけどな。

 心の中で魔法式を印字する。供給するのは召還力(サモンクラフト)じゃなく魔法力(マギクラフト)

 …………あれ? 肝心のイメージはどうすればいいんだ? 召還と同じでいいのか??


「楓……あの――」

「――喋ってないで集中する!」

「いや、あのどうやってイメージすれば――」

「適当でいいのよ適当で! どうせ不発に終わるんだからっ!」


 えぇい……知らないぞ。

 とりあえずナイアを召還する時に使うイメージだ。

 強く硬い……銀の…………ナイフ! わかる。これは不発なんかに終わらない。

 俺の魔法力(マギクラフト)が言ってる……出る、出る……出ろっ!


「おぉおおおおおおおおっ!!」


 瞬間、俺の正面に魔法陣が現れ、更にその前に現れた無数の刃。

 白銀に光る硬く鋭い……無数の刃……っ!?


「うっそ……」


 楓の声が耳に残るように聞こえたが、今俺はそんな状況ではなかった。


「おおおおい! 出たぞ!? どうやって引っ込めるんだ、これ!」

「で、出ちゃったらもう戻せないわよっ!」


 辛うじて魔法力(マギクラフト)を使って引き留めていた刃の群れは、楓のその一言で俺の意識を変えてしまった。


「あっ」


 やばいと思った時には放たれていた。

 正面にうん○座りをする、眉間に皺の寄った血みどろの翔ちゃんに。


「ほぉ、仮にもグランドマスター……ってか!? だぁああああっしゃああああああああああああああっ!!!!」


 重そうだった腰をスッと持ち上げ、翔は刃の面を器用に(はた)き、流し、かわし、いなし、かち上げ、蹴り、つまみ、そして――――


「カッカッカッカッカッ! こりゃ(ほりゃ)さっきより(はっきより)楽しめたな(はほひへはは)っ!! カッカッカッカッカッカ!」


 ――――口で咥えた。

 何あの人、悪魔か何かでいらっしゃいますか?

 嬉々とするあの表情は確かにどこか悪魔的な……敵な?

 つまりそれだけ俺には恐ろしいモノに見えた。

 そんな固唾を呑むような状況を打ち壊すかのような優しい響きが聞こえた。

 俺も楓も、その優しい音に釣られるかのように後ろを振り返った。

 ナイアが、それは嬉しそうな笑顔を綻ばせ、俺に拍手を送っていたのだ。


「お見事です風土。あれは私の――いえ、素晴らしい魔法でした」


 ナイアもどこか感じるものがあったのか。

 ナイアをイメージした魔法だからな。そりゃわかるか。


「す、素晴らしいなんてもんじゃないわよっ。何なのあの魔法! 見たことも聞いた事もないわよ。あんなの魔法士養成学校にいる人間じゃ出せないわよ」


 興奮する楓をたしなめるようにナイアが前に出る。


「おそらく魔法士の資質を持つ風土の魔法力(マギクラフト)が、上手く召還力(サモンクラフト)と同化した結果でしょう。本来魔法だけではあれ程具現化する魔法を放つ事はありません」

「かかかか、そうやな。ありゃ過去戦った相手の中にも使う人間はいなかったぜ? 面白いやっちゃな」


 そんな翔の声を聞き翔の方を見ると、いつの間にかあの刃たちは消えてしまっていた。

 壁に残る無数の傷跡を除いて……。


「うわぁ……これもしかして弁償コース?」


 冷や汗と共に呟いた楓の言葉。

 確かにこれは弁償コースだ。

 いや、もしかして俺はこの八王子スクエアを出入り禁止になるかもしれない。

 流石にやばいと身体に実感が起きたのか、顔に変な脂汗をかきはじめた頃、スッと俺の横を通り抜けたナイアが傷のある壁に触れた。

 そしてひと撫ですると――――


「傷が…………消えた?」

「えぇっ? 嘘? 何でっ? どうしてっ!?」


 新しいおもちゃを与えられた子供のような顔の楓に、ナイアが優しく微笑む。


「壁の組織の融解物質を召還し、整えただけです。風土、出過ぎた真似だったでしょうか?」

「い、いや! 全然! すっごく助かった!」


 首を縦にブンブンと振った俺に、ナイアは再び優しく微笑んだ。

 何あの人、天使か何かでいらっしゃいますか?

 神々しいあの表情は確かにどこか天使的な? いや、天使だ。

 俺は天使(ナイア)を召還するが、ナイアは悪魔()を召還するだけだ。そうに違いない。

 いつしかナイアを拝むようなポーズをとっていた俺の横では、楓が「う~」と唸っていた。なるほど、楓は獣か何かだったか。


「どうしたのです? 楓」


 ナイアが小首を傾げて聞く。


「特等召喚士レベルのナイア。その使い魔の翔君の強さ。更にグランドマスターの風土のあの魔法…………もしかしたら、いえ、もしかしなくても今年の統一杯、波乱が起きるわね」


 親指の爪をガリッと噛んだ楓は、その後何故か俺を特訓に付き合わせた。

 はて? 今日は俺の特訓だったのでは?


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 その晩、寮に帰宅した俺は布団の上に腰を落ち着けた。


「風土、話があります」

「ん? どうしたんだ? 改まって」


 胡座をかいてナイアの方を見る。

 翔はロフトの上で欠伸(あくび)をしながら尻をぼりぼりと掻いている。

 是非自重して頂きたい。血みどろになっちゃうから言わないけど。


「本日放った、あの魔法の事です」


 ナイアの顔がいつもより強張って見えたのは気のせい――ではなかった。

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