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漢の話

「しっかしよぉ?」

「はい?」

「あの楓って――」


 なんだ、タイプだったか?


「嬢ちゃんの母ちゃん、激マブだぜ……マビィ、マブ過ぎるぜ」


 そっちかよ。確かに色っぽい母さんだろうが……。


「なんかよぉ、こう、清楚で……それでいて肝が据わっててよぉ? 姉御を気遣って俺達も……それでいてあの泣き黒子ぼくろ……最高じゃねぇか、なぁ?」

「そ、そうですね」

「おう、わかるかっ? 流石、姉御のマスターじゃねぇか。おう、一杯やんな!」


 元々俺のお茶だろうがそれ。


「と、ところで翔さんは……何故この世界の事を……?」

「あん? ……そういや、何でだろうな? ま、細けぇ事は気にすんじゃねぇよ!」


 召喚ってのは、元々想像して創造するものだろ? 使い魔だってそれに当たるんじゃないのか?

 ――いや、使い魔は魔法士から生まれるもんだ。って事は…………どういう事だ?

 人間の使い魔なんて聞いた事ないからな。知能がある使い魔と言っても《賢い犬》程度、人間ほどの知能がある使い魔なんて俺が初めてなんじゃないか?

 うーん、情報が足りないな。帰ったら使い魔についてもっと調べてみるか。

 喋り続ける翔の話を適度に聞き流しながらお茶をすすっていると、楓がドアを開けて入って来た。その顔は未だ赤く、俺達から目を背けている。


「えっと、着替え終わった感じ?」

「えぇ、ジャストフィットよっ。行ってあげたら? 私はそのお茶、片してるから」


 自分で傷口抉って楽しいのだろうか? そうだった、この子は不憫な子だった。


「そんじゃ頼むわ」

「おう嬢ちゃん、母ちゃんの名前教えてくれや?」

「え、《圭織(かおり)》だけど……?」

「おいおいおいおい、埼玉の爆走集団《(スーパー)神剣(ゴッドブレード)》の何代か前の女ヘッドと同じ名前じゃねぇかよっ! やっぱなー、どこか気品があると思ったんだよ」


 爆走と気品がどうやって繋がるかを、詳しく説明してほしいものだ。

 翔に質問攻めされる楓を部屋に残し、俺は楓の部屋へ向かった。ドアを開けた先にいたナイアは……まるで、別人だった。


「マ、マスター……いかがでしょうか?」


 黒いタイツの上から、周囲に折り目が付いた短めの黒いスカートを穿き、腰の高い位置で留めている。

 シャツはダボッとしているが灰色でウエストを細く演出し、適度な大きさのナイアの胸を更に引き立たせている。

 なるほど、無理したな、楓。

 シャツの腕を捲り、胸元には銀色の鍵のアクセサリー……鍵なんか使わなくても俺の心はこじ開けられるだろ、これ……。

 長い髪をポニーテールで留めて、ロングとショートを同時にアピールし、側面から見えるうなじがもう――


「最高だ」


 親指を突き立ててナイアへ送った。

 恥ずかしがるナイアがまた素晴らしい。やはりこういう所は女の子なんだろうか?

 初めて召喚した時はもうちょっと冷たい印象だったんだが……慣れからか?


「よし、どっちもいいビフォーアフターも珍しいけど、悪くないでしょ?」


 圭織さんは笑いながら俺に返答を求めた。


「どちらかと言うと、こっちの方が好みです」

「ふふふ、楓が妬いちゃうわよ?」

「お母さんっ、何言ってるのよ! もう、いいから……出てって!」


 いきなり入って来た楓は、圭織さんの背中を押しながら、部屋の外へ連れ出して行った。

 翔もほぼ同時に入って来て、圭織さんを目で追いつつも、マスターがいるからか、部屋に留まった。


「へぇ、姉御もやっぱマビィっすねぇ」


 翔が顎に手を当てながら、腰を低くして下からナイアを見上げる。

 俺は、翔より下から舐めるように見たかったが、紳士スキルをブーストしているおかげか、ぎりぎりブレーキに成功した。


「ま、これで街中を歩けるでしょう。ま、注目の的にはなると思うけどね」


 圭織さんを追い出した楓が戻って来て、ナイアと翔を見た後、小悪魔的笑みを浮かべて俺を見た。

 そりゃ当然だろうな。銀髪美女と金髪リーゼントヤンキー……それに俺だ。


「かっかっかっか、そりゃ上等だぁ!」


 上等――申し分がないさま。結構。上出来。満足。……この《上等》はこんな意味に分類されるだろう。


「それじゃあそろそろ暗くなるから帰るか……」

「そうね、お勉強会は明日から。明日は《八王子スクエア》で待ち合わせしましょ。時間は……まあ風土に任せるわ」

「わかった、後で連絡する」

「圭織さんに夜露死苦言っといてくれや、楓嬢ちゃん」

「楓様、本日はありがとうございました」


 ナイアがまた礼の手本と言うべきお辞儀をする。


「あぁ、もういいから。それに《楓》でいいわよ。風土もマスターじゃなくて《風土》って言った方がいいわよ?」


 手を振りながら恥ずかしさを隠す楓も、やはり可愛かった。


「そうなのですか、マスター?」

「ああ、別に構わないよ」


 確かにマスターと呼ばれる度に、むず痒い感覚になる。これを機に呼び方を矯正してしまうのはいい手だ。

 それに、どうやらここにいる人間は……皆似たような年齢だろうからな。

 俺は、楓と圭織さんにお礼を言い、楓の家を出た。


 楓の予言通り、街ゆく人々が俺たち三人を見て振り返った。

 見ていたのは主にナイアと翔だという事は言うまでもないだろう。

 至る人に眼ガンを付ける翔には参った。タダでさえ目立つのに、そこら辺を歩く不良に眼を付けたのなら……。

 秘儀平謝りを使いつつ俺達は商店街、大通りを抜けて学生寮サモンソウルまで戻った。入口で寮長に連絡を取り事の経緯を話す。

 ナイアと翔を見て驚いていた寮長だったが、俺の噂はどうやら広まっているようで、なんなく同居の許可が下りた。

 狭い部屋のワンルームに三人の男女。これから先、この三人で生活をしなくてはならない。勿論使い魔の食費はかからないが、スペース的に問題になる可能性もなくはない。


「えーっと、それじゃあナイアはロフトを使ってくれ。翔君はベッドを使って下さい」

「それではマス――いえ、風土が床で寝るという事です。流石にそれは承服しかねます。私は床で構いませんので、翔をロフト、私を床という事でお願い致します」

「俺は別にどこでもいいぜ? なんなら消してくれたって寝心地は大差ねぇしな」

「いやいや、やっぱり人間なんだったら人間らしい生活の方が良いでしょう? それに俺は床に布団敷いて寝る方が好きだしさ」


 事実実家では床で寝ていたから、入学してすぐのこのベッドにはあまり慣れていなかった。


「そうかい? そんじゃ俺はここだな」

「翔君がロフトを?」

「あぁ、高いところが好きなんだ俺は。それに姉御にこそベッドを譲るべきだろ……その、漢おとことしてな!」


 確かにそれについては同感だ。


「しかし風土っ」

「大丈夫大丈夫。それじゃあ寮長さんに頼んで布団貰ってくるから……悪いんだけど翔君手伝ってもらえます?」

「おう、任せろや」


 なるほどね、翔は決して悪いヤツって訳じゃなさそうだ。

 俺……というより。ナイアというマスターを使い魔らしくしっかりと立てている。だからそれに基づいた俺の行動だったらちゃんと納得してくれるんだ。

 俺と翔は、寮内の備品室にある布団を部屋に持ち込み、楓の家で考えていた事をナイアに相談した。


「やっぱり人間を使い魔とするのは珍しい事なのか?」

「希少であるとは言えますね。記憶がないので、明確には言えませんが、簡単には人間の使い魔をイメージする事は出来ないでしょう。私の場合、翔に関しても記憶の部分が欠けていて理由はわかりませんので」

「え、でも元々知っているみたいだったけど?」

「俺の場合は、姉御が風土から召喚された時に、一緒に姉御の中に生まれたんだよ。ほぼ同時に生まれたってのが正しいんじゃねぇか? だからあの野郎……嵐山とか言ったか? あの野郎と戦闘するまでに心で話してたんだよ」

「予め、ある程度のコミュニケーションはとっていたって事か」

「そうゆーこった」


 ロフトで寝転がりながら翔が言った。ナイアもベッドにつき、俺も布団を被った。

 楓に明日の集合時間をラインを使って送り、コンセントから伸びる充電器をスマートフォンに差し込んだ。

 そういえば翔はどういった士族になるんだろう?


「翔君は……その、何の士族になるんです?」

「俺は拳士族ってやつだ。剣じゃなく、《拳の士族》。今じゃ珍しいかもしれねぇがな」


 どこかで聞いた事がある。拳士……文字通り拳を武器化する士族だ。はるか昔に絶滅したとか聞いた事があるけど、基本は剣士と一緒だって話だ。


「剣の士族とはどこが違うんです?」

「はんっ、強いてあげるなら……漢気だな」


 基本は剣士と一緒だって話だ。

 二人で話を進めていると、隣からナイアの寝息が聞こえてきた。とても静かで聞いている俺をも眠りに誘うような寝息だった。

 年頃の女の子と同じ部屋で寝る……いかにも素晴らしいイベントだったが、俺は不思議と興奮状態になる事はなく、ただただこの状況を楽しんでいた。

 そう、中学校以来……周りに人がいる事を素直に喜んでいたのだ。


「それじゃあ、おやすみ……」

「おう」

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