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使い魔は使い魔使い  作者: 壱弐参


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37/40

大事件

「よし! よし! よし! よしっ!!」


 俺は強く拳を握り、ただひらたすらにそう言い続けていた。


「へへへへ……」

「流石私のマスターです、風土」


 翔とナイア、そして俺の声しか響かないテスト会場。

 その理由は当然理解出来た。

 何故なら俺が下した相手は、国立上等召喚士養成学校最強の存在。

 俺に倒されるはずがない存在なのだ。

 統一杯男女総合二位の男を、入学して数ヶ月の男が倒すなんて、ありえるはずがないのだ。感動以上の驚愕。それが彼らに適当な動きである。

 だからこそ、この異空間(、、、)に口を挟めるのは、同じ空間にいた者だけなのだ。


「やれやれ……負けてしまいましたか」

「全原会長……」

「お見事です火水君。君ならば霧﨑(きりざき)君とも渡り合う事も出来るでしょう」

「……勉強させて頂きました!」


 深く下がる俺の頭。それはただの形式上のものではなく、心からの敬意として下がった頭。

 顔を上げた時、全原会長は、やはり嬉しそうだった。

 微笑む全原会長の中に悔しさはないのか。そう思った瞬間もあった。

 しかし、彼が俺と同じ(、、)だと知り、それは杞憂だったと理解出来た。

 ――悔やむ事すら惜しい。時間は有限であり、その中に後悔を含めるべきでないと考える人、それが全原会長だ。

 俺はそれを翔とナイアに教わった。しかし、全原会長は自分の足で歩き、見つけたのだ。

 まだまだこの人から教わる事は多い。

 俺は勝ちはしたが、それは一時の勝利だ。全原会長はまだ強くなるし、その可能性も秘めている。昨日までは追われる存在だった彼は、今日から追う存在となった。ただそれだけなのだ。

 そう思った時、俺の手は、自然と前に出ていた。

 全原会長は、少しだけ驚いた様子だったが、すぐにまた微笑み、その手を握ってくれた。

 ――瞬間、


「うぉおおおおおおおおおおおっ!! やったじゃねぇか風土ぉおおおおお!!」

「イェーイ! ヤッタネ、風土ー!!」

「火水さん! やりましたねっ!!」


 同年の仲間、純太、ジェシー、玲からの祝福がようやく届いた。

 夜鐘先輩は、目を涙で潤ませ、何も言わずに称賛の拍手を送ってくれた。

 高山先輩は、静かに泣き、全原会長の事だけを見ていた。

 一部(いちべ)だけは、世界が終わったかのような顔をしていたので、俺が笑った。

 他の代表選手たちは、同世代らしく興奮した様子で、時には騒ぎ、時には拍手し、時には笑っていた。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 それで、俺は今校長室に呼ばれている訳だ。

 大きな机の奥には校長が座り、その左側に福島講師が立ち、右側に塚本講師が立っている。

 塚本講師がいる以上、ここでいじめられるという事はないとは思うが、一体何の用で呼ばれた事やら。

 まぁ、俺も右後方に翔、左後方にナイアがいるし、怖いモノはないんだが、いかんせんやはり校長の目は鋭く突き刺すようである。


「おい、風土! 何だよ校長室なんて俺様初めて入ったぜ! 何かトロフィーとかいっぱいあんぞ! 茶は出ねぇのかな!?」


 若干一名、血みどろの翔ちゃんだけは、まるで遊園地に来たかのようにはしゃいでいる。


「風土は勝者。きっと素晴らしい称賛の言葉が聞けるのでしょう」


 ナイアも珍しい。わざとらしく言っている。

 まぁ、この前の福島尋問事件があるから、福島講師と雷堂校長には良い感情を抱いていないだろうからな。


「……使い魔の手綱も握れぬか?」


 なるほど、召喚主である俺に言ってきたか。

 だが、俺の使い魔の事を悪く言われるのは納得がいかない。

 翔はわからないが、ナイアは俺を思って言ってくれたのだ。

 ならば、俺もナイアと翔を守らなくてはいけない。


「いえ、私が勝手を許しています」


 福島講師の目付きが鋭くなり、塚本講師は少しだけ目を丸くした。

 肝心の雷堂校長は表情一つ変えていない。さすが特等召喚士は貫禄が違うな。

 俺の言葉を受け、ナイアも翔もなんとか口を結んでくれたようだ。


「の割には、先の戦いの息は揃っていたな」


 さっきの言葉は風のように受けすらもせず、ただ流すか。


「私には過ぎた使い魔です」

「ふん、本当にそう思っているのか?」

「当然です。この中で私が一番弱いのですから」


 ここでようやく雷堂校長の片眉が上がる。


「ほぉ、他士族の力を使っても勝てぬか?」


 ここか。

 やはり雷堂校長は、俺が他士族の力を使う事を良く思っていない。

 だが、この程度の圧に屈しているようじゃ、俺は後で翔に血みどろにされてしまう。


「これは、使い魔に教わった生きる術です」

「魔法士学校の小娘に魔法を習っている事、儂が知らぬとでも思っているのか?」


 おう、流石に知ってたか。

 まぁ選考会で魔法力(マギクラフト)は見せたし、あれだけ楓と一緒に八王子スクエアに行けば、嫌でも噂になるか。


「何か問題でも?」


 この返答は予想していなかったのか、雷堂校長は口を閉じてしまった。

 しかし、雷堂校長は顎を揉み、すぐに口を開いた。


「問題だらけだ」

「具体的には?」


 すると、雷堂校長は深い溜め息をそれはもう長く吐いたのだ。


「お前が統一杯に出た場合、今日の結果を見るに、必ず上位に食い込む。それは儂にもわかる。何せあの全原を倒したのだから」

「ありがとうございます」

「しかし、その試合を見た他の士族はどう思う?」

「というと?」

「士族間の軋轢に、少なからず疑問を覚えると言っている」

「何の問題が?」

「……わからないようであれば言ってやる。これより入学する志望校の混迷。カリキュラムの修正。諸士族の非難。瓦解する士族制度。どれをとっても問題だ」

「それは大人の都合です。私には関係ありません」

「言うじゃないか、餓鬼……!」


 いよいよ雷堂校長の視線が怖くなってきた。

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