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使い魔は使い魔使い  作者: 壱弐参


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35/40

全原哲人と火水風土

 いつも通りのテスト会場。違うのは集まった面々。

 それは、統一杯の出場メンバーがいたり、学校長がいたり、俺をいじめた講師がいたり、俺の好きな講師がいたりと、本当に色んな面々である。

 今まで何度か会った事はあるし、くだらない話もした事がある。しかし、こういう場でこの人と対峙するのは初めてである。

 全原(ぜんばら)哲人(あきと)生徒会長。

 眼鏡の奥に見える瞳は、この場にいる誰より冷たく、静かである。

 そんな全原会長が俺を見てくすりと笑う。


「熱い……炎のような瞳ですね」

「燃えてますからね」

「……ハンデはないものと思ってください」

「あるなんて思ってないですよ」

「ほぉ……」

「全原会長」

「何でしょう?」

「……ハンデはないものと思ってください」


 俺の言葉に立ち上がったのは一人だけ。

 一部(いちべ)将太郎。今年の統一杯出場を失った若き新鋭である。

 彼の成長は今後期待するところであるが、今すべきはこの大物とどう戦うか……という問題である。

 ナイアを召喚するまでが勝負の肝。逆に言えば、勝負はナイアを召喚した段階で決まる。

 ファーストサモンさえ成功してしまえば、俺の勝ち。

 おそらく全原会長もそれがわかっている。だから、全原会長は俺にファーストサモンをさせない動きをする事だろう。それが肉弾戦なのか、歴代の統一杯を見ても最速とも思える全原会長の召還陣(サモンスクエア)空図(くうず)によるものなのかはわからない。

 俺は、俺に出来る事を、全力を、この全原哲人に向けるだけなのだから。


「火水君、君を見ていると、その熱が伝染してしまいそうです」

「結構厄介ですよ、この熱」

「私は涼しいところが好きなので……塚本先生、お願いします」


 会話ではなく戦いで語る。

 それが士族の常。そして上等士族になった後の生きる糧でもある。

 一分一秒でも、高みを目指さなくなった瞬間、士族の成長は止まると聞いた事がある。

 全原会長は、既に大いなる()を見ている。

 だが、俺も負けていないはずだ。

 塚本講師は無言で俺を見た。開始の確認。

 俺は一度コクリと首を縦に振り、塚本講師に準備完了を知らせた。

 誰もが沈黙を守る中、俺と全原会長の全神経は、塚本講師の声と初動に向けられていた。

 張り巡らされたガラス細工が割れるように、それは始まった。


「始めぃっ!!」


 初手、俺は全原会長に向かって駆けていた。

 しかし、それは全原会長も同じだったのだ。一瞬で詰められた俺たちの間合い。

 最初に繰り出されたのは意外にも全原会長の右上段の蹴り足だった。

 俺は左腕を顔の左側に置き、それを受ける。中々の威力。大抵の生徒はこれで沈んでしまうかもしれない。剣力(イスパーダクラフト)拳力(マーシャルクラフト)を使わずともこの威力とは、流石全原哲人。

 俺は身体を反らせながら全原会長に向かってお返しの蹴りを放つ。

 微量の拳力(マーシャルクラフト)を込められたこの蹴りは、全原会長の蹴りを凌ぐ威力だ。


「ふっ!」


 なるほど、これを読んでいたか。

 全原会長は左拳を天に突き上げ、俺の蹴りを弾く。

 打点をずらす事によって、避けられればいいという動き。

 どうやら全原会長は俺との接近戦に持ち込むつもりらしい。

 それが理由か、全原会長の腕には、既に鉤爪が装着されていた。


「ファーストサモンでそれを選びますかっ!」

「持ち手を意識させない、弾かれる事のない最善の手(、、、、)かとっ!」


 この状況下で冗談を言える胆力と余力を感じさせる冷静さは見習うべき事である。

 しかし、何て早い空図(くうず)だ。俺はまだ半分も描けていないというのに……――


「――ワオ、もう二本目の鉤爪だヨー!」


 そんなジェシーの声が聞こえた。

 手の長さが足程の長さになるあの鉤爪のおかげで、俺は防御に回るのが精一杯。

 しかし、全原会長は空図(くうず)を続けている。(てのひら)に持ち手こそあるが、それはあくまでも支え。指さえ動けば空図(くうず)が可能。なるほど、よく考えられた武器選択だ。

 踊るような全原会長の攻撃の中、ついに俺はそれに触れてしまう。


「風土! 避けろ!」


 純太の声が届く前に、全原会長の攻撃は俺の頬を掠めた。

 一割程減るライフバー。手数を増やす事で、俺へのヒット数を稼ぐ戦略。非常に戦いづらい。

「火水さん!」


 玲の心配はいつもの事。応えてあげられる余裕がないのは残念だが、ここまで劣勢の戦闘は、俺にとっていつもの事なのだ。

 そう、俺は血みどろの翔ちゃんに鍛え続けられた負けっぱなしの男。

 だが、その血みどろの翔ちゃんが唯一認めてくれた負けず嫌いな(おとこ)


「おぉおおおおおおおおおおおっ!!」


 頭より高く上げられた俺の右足。


「馬鹿な……!」

「隙だらけじゃん、風土君!?」


 高山先輩と夜鐘先輩の意見ご(もっと)も。

 この機を当然見逃さなかった全原会長の攻撃で、俺のライフバーは半分程まで削られた。

 しかし、言い換えればこうとも言える。


「なっ!? 全原会長が距離をっ!?」


 一部(いちべ)の驚きも無理もない。俺も驚いている。一部(いちべ)とは違った意味で。まさかこの攻撃の意味に気付くとはな。流石統一杯二位は伊達じゃない。


 地面に振り下ろされた俺の右足。それは相撲でいうところの四股に近い動きだった。

 一瞬によって溜められた俺の拳力(マーシャルクラフト)はそう多くない。

 しかし、全原会長が脅威だと思うくらいには強力だったという事。

 右足とテスト会場の床がぶつかったと同時。テスト会場に轟音が響く。


「くっ!」


 正面にいるあの全原会長が顔を歪める程に。


「ダメージ覚悟で受けた方が正解でしたよ」

「……冗談を。そんなの受けていては身が持ちません」


 大地を踏むことで、拳力(マーシャルクラフト)を活性化させる、拳士族の秘技――合力(ごうりき)。気合いと拳力(マーシャルクラフト)の融合という理屈の通らない翔の説明だったが、そもそも理屈が通っていたらこの世界……召喚やら魔法なんてものはない。


 考える頭を捨て、大地を踏む事数万回。

 俺は合力をモノにした。

 溜める予定の時間を考えるより、ダメージ覚悟で強制的に集めた方が早いという判断は間違いではなかったようだ。


「……充実!」


 全力の拳力(マーシャルクラフト)を帯びた俺の反撃、見せてやる。

いよいよです

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