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使い魔は使い魔使い  作者: 壱弐参


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アイスロイヤルミルクティー

「ふっふ~ん♪ ふっふ~ん♪」


 スキップするような鼻歌が耳に響く。

 隣を歩く夜鐘先輩から聞こえてくるものに間違いはないのだが、とても先程まで気を失ってた人物とは思えない。もしかして別人なのかもしれない。


「風土君、風土君、まずはカフェでお茶かな? それともどこかで買い物していくー?」


 ふむ、俺への二人称が「火水君」から「風土君」に変わっている。

 やはり別人なのかもしれない。一応確認をとっておこう。


「夜鐘先輩」

「ん、な~に?」

「ですよね?」

「ん?」

「いや、どこかで頭でも打ったのかも、と思いまして」

「ちょっと前に打ったよ、首を」

「それはいけませんね」

「どう考えても犯人は風土君なんだけどな?」


 どうやら首の打ち所が悪かったようだ。


「あ、また変な事考えてるね?」

「鋭い観察眼ですね」

「ところでさっきの返事聞いてないんだけど? カフェ? 買い物? どっち?」


 下手に動き回るのはよろしくない。

 よって俺がここで選ぶ選択は一つしかない。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「で、カフェなんだね」


 それ以外の選択がどこにあるというのだろう?

 俺たちは、八王子スクエアの斜め向かいにある喫茶店に入る事にした。

 困った事に、一つ問題がある。本日脳震盪を起こした夜鐘先輩を会計に並ばせるのは忍びない。

 しかし、今日は夜鐘先輩の奢りのはず。夜鐘先輩を席に座らせると会計が出来ない。

 つまり、俺が起こす行動は一つ。


「……何? その手は?」

「財布をよこせください」

「風土君からそういうネットスラングが出てくるとは思わなかったよ」

「まぁ、たしなむ程度には」

「ところで風土君、何か勘違いしてないかい?」

「何をです?」

「今からするのは『お茶』であって、『ご飯』じゃないって事っ♪」


 夜鐘先輩はこの時、物凄く嬉しそうに言った。


「デートってのは基本的に男性が女性に奢るものだよね?」

「その基本、とんでもない偏見ですよ」

「まぁまぁ、ご飯は私がしっかり奢るからさっ。あ、私アイスロイヤルミルクティーね♪」


 …………くそ、してやられた。

 俺は仕方なく、着席した夜鐘先輩のため、なけなしの小遣いを使った。


「……ロイヤルミルクティーお待ちっ」

「んひっ!」


 夜鐘先輩は、俺が強めに置いたロイヤルミルクティーが入ったグラスの音にビクンと目を瞑る。


「……風土君、それは?」


 控えめに聞いてくるあたり、俺の小さな怒気には気付いてるようだ。


「見てわかりませんか? お冷やです」

「あ、あははははは……」


 そう、俺は一般家庭に生まれた高校一年生と同い年の男子生徒。この結論は至って自然であり、当たり前なのだ。

 そして相手もただ一学年上なだけの先輩。たとえ生徒会のメンバーだったとしても、この結論に至らない可能性も十分にありえる女生徒。


「デートに夢見過ぎっすよ、夜鐘先輩」

「それをデート中に言うかな、風土君は?」

「俺のお小遣い、月五千円なんですよ」

「そ、それをデート中に言うかな、風土君は?」

「そのアイスロイヤルミルクティー、税込み五百四十円です」

「……ごめんなさい」


 一学年上の夜鐘先輩がシュンとしている。がしかし、夜鐘先輩は後輩にすら見える顔立ち。こうして対面で座っていると、客観的に見れば何故か俺の方が先輩に見えてしまうから不思議だ。


「て、てっきりバイトとかしてるのかと……」

「ウチの学校、バイト禁止ですよ。そもそも俺は寮暮らしだからバイトなんて出来ませんよ」

「あ、あはははは……」


 どうやら答えに困ると笑って誤魔化そうとするタイプのようだ。

 生徒会の人間はしっかりしている――というのは幻想だったみたいだ。

 考えてみれば玲も一部(いちべ)も感情豊かだし、高山先輩だって決して完璧じゃない。

 そう見えるのはやはり全原会長だけって事か。


「というか、夜鐘先輩は大丈夫なんですか?」

「んぇ? お財布の事」


「そう」とも言い切りたくないので、一応首だけ縦に振っておく。


「こういうのもなんだけど、ウチって結構お金持ちなんだ」

「へー、ご両親頑張ってるんですね」

「ううん……」


 ん? もしかして地雷を踏んでしまったか?

 両親はめちゃくちゃ金持ちだが、家庭内は氷河期みたいな家族なのか?

 そうなるとこれからの問答も気をつけねばいけないが…………ん?

 あれ、そういう顔でもない?


「あんまり言いふらしちゃいけないんだけど」


 やばい仕事でもしてるのだろうか。

 そう思った矢先、夜鐘先輩は対面の席から身を乗り出した。

 内密の話だろうと思い、俺は右耳をその口に近付ける。


「実は、うちのお父さんとお母さん……私が小学生の時に宝くじ当てたの」


 あまり聞かない境遇過ぎて、俺は着席するなりお冷やを飲んだ。

 恥ずかしそうにニシシと笑う夜鐘先輩は少しだけ可愛かったが、俺はどんな反応をすればいいのか、全力で悩んでいた。

 とりあえず、その答えが幻想でないかを確認するのが一番いいかもしれない。


「どこかで頭でも打ちました?」

「ちょっと前に打ったよ、首を」

「それはいけませんね」

「どう考えても犯人は風土君なんだけどな?」


 どこかで聞いたことのあるやり取りだ。


「え、いくら当てたんです?」

「えっと~……十五億くらい?」


 不平等な世界なんて滅べばいいのに。

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