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使い魔は使い魔使い  作者: 壱弐参


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29/40

夜鐘瞳の実力?

 選択肢は確かにあった。

 しかし、それは全原会長が提示してくれたものだ。

 俺が選んだからといって夜鐘(やがね)先輩がそれを受け入れるとは限らない。

 ましてや、乗り気だった翔が、俺の実力を世間に知らしめたいマスター思いのナイアが、この私闘を止めたいなどと思う訳がない。

 俺は翔に首根っこを掴まれながら、テスト会場へ向かった。

 このテスト会場。正式には召喚士能力向上実技館という長い名前があるのだが、講師でさえ略して「テスト会場」としか言わない。

 全原会長の権限で、ここを自由に使えるそうだ。まぁ、この学校の生徒会は学校に対しても強い発言力を持ってるからな、これくらい普通だ。

 ここはそう、俺が初めて嵐山君に勝った場所。

 八王子スクエアよりも大きい個別スペースと考えれば、かなり使い勝手がいいだろう。

 召喚陣が起動し、俺は翔を無召喚で消したナイアを無召喚で消す。


「風土、存分に」


 ナイアは消えゆく中、そう言っていた。

 夜鐘先輩は俺をキツい目で見つつも、俺との距離を測っている。とても(したた)かである。しかし、こういう見方は参考にしなくちゃな。実力のわからない相手との距離、背後に何があるのか。服装なんかも戦闘に役立つ事もある。まぁ、これは翔に教わった事だけどな。


「私が勝ったら、今後生意気な口を利いちゃ駄目だぞ♪」


 にゃははと笑ってはいるが、その実、目は些かも笑っていない。

 ところで、俺――生意気な口利いた事あったっけ? (はなは)だ疑問である。


「じゃあ俺が勝ったら……?」

「……生意気だねぇ」


 なるほど、こういうところか。気をつけないといけないな。

 しかし、これは誰だって疑問に思うはずだ。俺にメリットがないのに何故勝負しなくてはいけない? 相手が勝った場合の条件を提示してくるのであれば、俺も提示して然るべきだろう? うん、俺は間違ってない。


「そうだねぇ……何がいいかなっ?」


 かといって都合の良い条件なんて思いつく訳もなく、俺は当たり障りのない条件を選ぶ他なかった。


「そうですね、じゃあ俺が勝ったら何か飯奢ってくださいよ」


 言った俺に、夜鐘先輩は珍しく目を丸くさせた。

 全原会長もクスクスと笑っているようだ。はて、何か変な事を言っただろうか?


「つまり、私とのデートが目的って事でいいかなっ?」


 そう言った夜鐘先輩は少しだけ嬉しそうだった。

 しかし、何でそうなる?


「いや、飯を奢って――」

「つまり、私も同席する事になるじゃないっか!」


 …………なるほど、会計だけして帰るのも変だ。

 つまり俺は、夜鐘先輩同席の食事を求めてしまったのか!


「あちゃ~……」


 そう言った俺を、全原会長は嬉しそうに見る。

 くそ、流石男児。俺の思考を読み取ったか。


「なんだい、その目? 私とのデートが嫌って事なのかな?」

「あぁいや、じゃ、じゃあそれで! はい! ね!」

「うんうん、やっぱり後輩は素直じゃなきゃね!」


 何だよ、この先輩……めちゃくちゃ嬉しそうだぞ?

 顔立ちも幼いし、ルックスも整ってるんだから同級生にモテるんじゃないのか?


「私にデートを申し込んできた男は数多くいるけど、その全てを勝負で断ってきたのさ」


 ……相手の男に何を望んだのか、とても気になるところだ。


「ふふふ、そう言われたのは久しぶりだよ」


 そう言ったつもりは毛頭ないけどな。


「じゃあ会長! ちゃっちゃとやってちゃっちゃと終わらせまっしょう!」


 あの対応……全原会長信奉者の一人だとは思うが、惚れてる訳ではなさそうだな。

 純粋な好奇心として、夜鐘先輩の好みは一体どういうタイプなのだろう。


「こほん、では始めましょうか」


 俺と夜鐘先輩は首を縦に振り合意を示す。

 全原会長がリモコン式のボタンを押すと、いつも通り戦闘開始五秒前の電子音が鳴り響く。

 ……三、二、一……っ!


「始め!」


 瞬間、夜鐘先輩の瞳が妖しく光る。

 一体何を召喚するつもりかわからないけど――――


「…………え?」


 ――――痛覚がなくなる程、翔に叩き込まれた拳力(マーシャルクラフト)は、最早上等剣士に劣らないと言われてる。

 正直、夜鐘先輩には悪いが――負ける気がしない。


「勝負あり!」


 一瞬で拳力(マーシャルクラフト)を解放した俺は、空図(くうず)する夜鐘先輩の後ろに回り込み、少年漫画よろしく、首下(くびもと)に手刀を落とし決着が付いた。

 気絶した夜鐘先輩を抱える俺の下に、全原会長が歩いて来る。


「…………お見事です。夜鐘君のライフバーが一瞬消えてしまいました」

()めてくれていましたからね」

「確かに、夏期休暇前の火水君でも彼女に勝てたでしょう。しかし、一体どんな鍛錬を?」

「砂浜の砂を腹一杯食べる程には、まぁ」


 そう言った俺を、全原会長は呆れる訳でも、驚く訳でもなく、真っ直ぐに見た。

 そしてほんの少しだけ俺から視線を外した。


「なるほど、彼らの言葉の重みがよくわかりますね」

「はい?」


 それが誰の事なのか、俺にはわからなかった。

 しかし、それを考えるよりも、今は気絶した夜鐘先輩を保健室に運ぶ事を念頭に動くべきだろう。


「夜鐘君を、お願いできますか?」


 おかしい。何故俺が運ぶのだろう?


「何故と、顔に書いてありますね」

「わかります?」

「気絶させたのは火水君です」

「…………単純明快ですね」


 せめて企画し、許可を出したのは生徒会(おまえら)だと言ってやりたかったが、大事があってはいけない。ライフバーをオーバーしての攻撃なんて、普段の授業ではあまり起こりえないからな。

 俺は深い溜め息を吐いた後、全原会長に言った。


「……わかりました」

「はい、とても良いへの字口です」


 まったく、良い会長に恵まれたよ、俺は。



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