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使い魔は使い魔使い  作者: 壱弐参


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26/40

新学期

 座学の授業。

 城当省監視の養成学校とはいえ、普通の授業がない訳ではない。

 一般的な高等学校の当たり前の授業――数学や国語、勿論英語などもある。全ては語らないが、そんな時、俺やナイアはともかく、その使い魔である翔の授業態度は最悪である。

 寝ているだけならまだしも――いや、寝ているだけでも最悪だ。

 怪獣でもやってきたかのような(いびき)の騒音被害は、当然一番近い俺が被害を受ける。

 ならばナイアが無召喚で消してしまえばいいのではないか? 誰もがそう思う事だろう。

 しかし、そうもいかないのが召喚士学校だ。

 使い魔を召喚した場合、その使い魔と共に授業を受ける事を校則としているのだ。

 ――何故か。

 召喚士と共有する時間、そして使い魔自身がこの世界の事を学ぶためというのが建前(、、)だ。本音は常時召喚をしておく事による召喚力の増大を目的としている。当然、学校側はそんな事は言わないけどな。

 それもこれも統一杯での上位入賞のためである。使い魔を召喚した人間は高確率で統一杯に出られる。というのもそれだけの召還力(サモンクラフト)を有しているからでもある。

 まぁ、そんな大人の事情があるからこそ、俺はナイアを無召喚で消さないのだ。当然、消したいとも思わない。

 しかし、翔は俺の使い魔ナイアの使い魔である。

 果たして、使い魔の使い魔はこの校則に該当するのか? 前例がないからわかる訳もない。だが、翔はこうして俺の席の左隣でしっかり寝ている。

 ナイアの親心なのか、それともナイアの召還力(サモンクラフト)増大目的なのか、翔を出しているのだ。


「んごぁああああああああっ!!」


 何なのコレ?


「しゃらくせいっしゅ!!」


 最後の「しゅ」はどこから出てきた?

 皆からの視線がとても痛い。これではただの騒音だ。

 塚本講師の無言の重圧もそろそろ耐えきれなくなってきたので、俺は右隣ナイアの方を見る。俺の機微にすぐ反応するのがナイアだ。すぐに俺の視線に気付き、とっていたメモを止める。

「どうしました、風土?」

「翔さんの鼾なんだけど……」


 するとナイアはニコリと笑って立ち上がり、俺に頭を下げる。


「そろそろだと思っていました」


 ナイアも周りの空気は読んでいるんだよ。


「では失礼します」


 ここまでは(、、、、、)


「翔! 起きなさい!!」

「はぇ!?」


 普段聞かないナイアの怒声に翔が飛び起きる。

 まぁ、普段聞かないだけで、翔を起こす時は大体この怒声なんだけどな。


「一体何回言えばわかるのですか!? 授業中に寝てはいけません!!」


 翔の胸倉をぐいと上げ、どこまで上がるのかわからない程持ち上げられる。

 ナイアの腕力は、もしかしたら翔以上かもしれない。

 ところで今授業中なんだ。知ってたかい?


「あ、姉御ぉ!?」

「ようやく起きましたか翔! では復唱なさい!」

「へ、へい!」

「授業中は寝ない!」

「授業中は寝ない!」

「これ以上人様に迷惑をかけない!」

「これ以上人様に迷惑をかけない!」

「よろしい!」


 ここまで授業中。

 そしてこれからも授業中だ。

 ナイアは俺の隣に戻り、再び頭を下げる。


「風土、翔が起きました」

「あ、はい。ありがとう……」

「ふふふ、当然の事です」


 こうして見るとただの天使なのだが、毎度毎度翔はよく寝るし、ナイアはよく怒る。

 ここまでテンプレート化してるので、最早誰も何も言わないのだ。

 翔はこの後しばらく起きている。このやり取りは多くても一日二回程だ。

 まぁ、つまるところ、既に百回近くやってるんだけどな。


「へへへへ、今日の姉御もイカしてたなぁ……」


 ナイアに怒られて恍惚としている翔にも、誰も突っ込まないのだ。

 このやり取りのでせいで、授業の時間は大体五分潰れ、それは後ろに響く。つまり授業が五分延長になるのだ。

 だが、これについても皆慣れてくれたのか、諦めているのか、何も言わない。

 きっと俺には何か言いたいのだろうが、それが翔に伝わる事を恐れているのだ。

 この学校にはこの手のジャンルの生徒はいないからな。仕方ない。

 そう、仕方ないのだ。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 放課後。

 俺たち(、、)は生徒会に呼ばれた。

 俺以外も呼ばれたのは初めてな分、少し緊張しながら生徒会室に入る。


「やぁ、よく来たね」

「……はは、せめて『失礼します』くらい言わせてください。全原会長」

「構わない、君は既に我がチームの一員なのだから。火水君」


 全原会長は目を細くして笑みを見せた。


「うんうんっ、君の戦力には期待してるんだよー?」


 それに同意したのは、会計長の夜鐘(やがね)(ひとみ)だった。

 こちらは満面の笑みを浮かべ、しかし猫のような鋭い目を見せていた。

 なるほど、今日はこの二人だけか。

 副会長の高山先輩も、書記長の一部(いちべ)も、書記の玲も来ていない。


「何や? 新キャラもおるやないか?」


 そう言ったのは俺の左後方で、先程まで口をへの字に結んでいた翔。


「おそらく彼が全原哲人(あきと)。文武ともにこの養成学校のトップ……なのでしょうね」


 右後方で言ったのは我が使い魔ナイア。

 出来れば黙ってて欲しいものだ。


「にゃははは、聞いてた通り生意気な使い魔だね!」

「夜鐘君、彼の力は計り知れない。我々の貴重な戦力なのだからね」

「はいです、会長~!」


 そんな夜鐘先輩に腹を立てたのか、それとも全原先輩に勝手にグループに入れられたのが気にくわなかったのか、翔が一歩前に出た。


「おう、こっちは忙しいんだ。用があんならさっさとしろや、ガキ」


 アナタ、さっきまで暇そうにガチ寝してませんでした?

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