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使い魔は使い魔使い  作者: 壱弐参


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25/40

無敵の召喚士

「ヘイ、クレイジーボーイ!」


 そんな声が俺の背中に届く。

 振り返るとそこには、凄まじい爆弾――じゃない。素晴らしい肢体(したい)と豊満な胸を揺らすとんでも美女が立っていた。

 夕陽が照らす彼女は輝かんばかりの笑顔で俺に言った。


「ご飯がデキタヨー!」

「ジェシー、ご飯時も水着なのか?」

「Oh、風土もまだブーメランだよー?」

「俺はまだまだ汚れるからな」

「マイガッ! 風土がキズモノになってしまうよー!?」


 大袈裟(おおげさ)に驚いて見せたジェシーは、額に手を当てながら言った。

 そんなジェシーに苦笑していると、ジェシーの表情に少なからず違和感を覚えた。どことなく笑顔がぎこちなかったのだ。その笑顔には、何か策謀めいたものを感じたのだ。

 そして俺は気付いた。これまでの翔との鍛錬で鋭敏になった俺の感覚は、ほんの少しの空気の揺れを感じたのだ。

 そう、俺はこれまで(、、、、)翔と鍛錬をしていた。

 つまり、俺の背後には……翔がまだいるのだ。


「っと!」


 背後、左斜め後方から真横に払われた翔の拳は空を切り、俺は低く屈んでそれをかわした。正面でわざとらしく笑っていたジェシーは、今度こそ本当に驚いたようだった。

 すぐに前方に転がり、翔との距離をとった俺は、翔に向き直りながら立ち上がる。


「人が悪いですよ、翔さん」

「…………お、おう」


 何かに驚いているような翔だったが、すぐに顔を戻した。


「何言ってんだこら。いついかなる時も気ぃ抜くんじゃねぇよ」

(おとこ)は正面から、では? ――がはっ!?」


 瞬間、翔は一瞬の踏み込みで俺の鳩尾(みぞおち)を打ち抜いた。


「おう、正面からいってやったぞ」

「アイター! 今の絶対痛いやつダヨー!」


 ジェシーの言葉通り、俺の腹部には、いや、身体全体には……じわじわと襲うような鈍痛がしばらく残っていた。

 というか、翔のヤツ……まだこんな力残してるのか。こりゃしばらく絶対に勝てないぞ?


「さ、飯だ飯! カカカカカカッ!」


 細いながら筋肉の鎧を纏った翔は、腕をぶんまわしながらジェシーの別荘に向かって歩いて行った。


「つんつん」

「…………何、やってんの?」

「見てわからない? 未確認生物発見ゴッコだよ!」

「た、楽しそうだな……うぅ」


 俺は辛うじて戻った体力でごろりと転がり、仰向けになった。

 暗くなった空、視界の端で快活な笑顔を見せるジェシー。


「頑張るね、流石男の子ー」

「そっちの文化じゃそう言うのは珍しいんじゃないか?」

「あれ? うーん、確かにそうかもしれないネ! アハハハハッ!」

「はははは……悪い、先に食っててくれ。まだ起き上がれそうにない」

「そっか。なら肉は私たちのものだネ!」

「あー……くそ。怒る力も出ないや」

「じゃ、皆待ってるからネー!」


 そんなジェシーの言葉は、俺の耳に余韻を残して消えて行った。

 うーん、肉がないというのは痛手だが、この合宿期間で確実に強くなったという自負はある。少なからず、聖十士に入れる程には……たぶん、おそらく、きっと。

 一週間という短い期間だったが、俺は翔とのマンツーマンの鍛錬で、確実に強者への歩を進めた。それにより、召還力(サモンクラフト)魔法力(マギクラフト)拳力(マーシャルクラフト)も成長した。

 実戦経験が翔ばかりというのも問題だが、それはこれからいくらでも、どうにでもなる。

 新学期になれば、きっと実戦形式の授業も多くなるだろうし、統一杯の出場者には、特別な授業もあると聞く。

 俺は、何の気なしに、砂浜の砂を掴み、少し上げて砂浜にさらさらと流す。

 痛みと苦しみから回復した身体を起こし、沈んで行く太陽を見ていると、遠方から楓の声が聞こえてきた。


「こらぁああああああ!! さっさと食べないと肉が硬くなっちゃうでしょうがぁああああああ!!」


 なるほど、皆優しいな。

 どうやら俺の分の肉は残ってそうだ。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「あれ? 純太は?」

「あー、いつものでしょ」


 着替えてジェシーの別荘のリビングに戻った俺は、食事を終えた後、メンバーが欠けている事に気付いた。これまで気付かなかったのは、きっと俺が疲れていたからに違いない。

 しかし、何だろう。楓の言う「いつもの」というのは。

 俺が首を傾げていると、隣でオレンジジュースをちびちび飲んでいた玲が答えてくれた。


「ズバリ、夜練習です」


 それを聞き、俺は目を丸くして驚いた。


「何だ、アイツそんな事してたのか……」


 昼はほとんど鍛錬に参加してなかったが、夜にやっていたとは驚きだ。


「凄いな」

「べっつにー! 凄い訳ないでしょう」


 そうバッサリと言ったのは楓だった。

 そして玲も苦笑する。ジェシーはいつも通りけらけらと笑っている。

 理由を知っていそうなナイアに顔を向けると、あのナイアですら困った表情を浮かべたのだ。

「ん~?」


 すると、今度はジェシーが教えてくれた。


「純太は効率的にやってるって言ってたヨー」

「効率的? 昼じゃ効率が悪いってのか?」

「お昼は女の子の水着を見るんダヨー。鍛錬は夜にでも出来るって言ってたヨー」

「ばっ……! 純太のヤツ!?」


 俺は思わず立ち上がってしまった。

 しかし、これにはそれだけの重要性があった。

 アイツ…………………………………………………………天才か!?

 そんな俺の反応に、翔だけが「カカカカカッ!」と笑っていた。

 そして他の女子たちは……それはそれは深い溜め息を吐いていたのだった。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 ――二○十五年 九月二日 月曜日


 今年は九月一日が日曜日だったため、本日九月二日が始業式である。

 俺は純太と玲。そしてナイアと翔と共に、召喚士学校までの短い道のりを歩いていた。


「おっかしーなぁ? 何でジェシーに負けたんだ、俺?」

「いや、どう考えても鍛錬不足だろう。完全に召還陣(サモンスクエア)空図(くうず)勝負で負けてたよ。時間掛かりすぎ」

「そりゃお前(、、)からしたらそうかもしれないが、頑張ってたんだぜ、俺?」

「夏期合宿の時、抜け駆けするからだ」

「それカンケーなくね!?」

「あははは、でも高山さん、一部(いちべ)さんには勝てましたから」

「んも~、そう言ってくれるのは玲だけだよー!」


 純太キモい。

 玲ですら引いてるのがわからないのだろうか?

 だが、玲の言う通り、この夏休みの間、純太、ジェシー、一部(いちべ)は三人で選考会の二位決定戦を行った。

 結果は玲が話してた通り、ジェシーが一部(いちべ)と純太を下し、一年生の男女総合二位はジェシーとなった。これで女子代表はジェシー・コリンズと(しずく)(れい)

 そして、純太はジェシーに負けるも一部(いちべ)には勝った。つまり、男子代表は俺――火水風土と、高山純太となった。

 男女総合の一位が俺、二位がジェシー、三位が純太、四位が一部(いちべ)、そして五位が玲という事になる。

 しかし、一年生の出場枠は男子二名、女子二名である。

 したがって男子の中で三位の一部(いちべ)は統一杯の出場選手から外れてしまった。

 一部(いちべ)将太郎はファンクラブの女子まで連れて来ていたが、全敗してファンをジェシーにかっさらわれていたのは、不謹慎だが少し笑ってしまった。


「ファンの子もそうだよ。何でジェシーに行くんだ? 普通俺だろ!?」


 そう喚くも、俺たち四人は誰も反応しなかった。


「せ、世知(がれ)ぇ……」


 そもそも召喚士たちに専属で付いたのは俺の使い魔であるナイアなのだ。

 そもそもの指導力が違う。一部(いちべ)の才能は確かなものだ。それに専属の指導者が付いていたのなら、勝負は誰に転んだかわからない。

 まぁ、一部(いちべ)もこれに懲りて少しは大人しくなるだろう。


「何笑ってるんです、姉御?」


 そんな言葉を翔が発した。

 俺は立ち止まって後ろを歩いていたナイアに振り返る。

 するとナイアは嬉しそうに微笑み、俺を見ていたのだ。


「ふふ、ちょっと楽しみになってきただけです」

「何が?」

「これより、風土の快進撃が始まると思うと、です」


 そんなナイアの言葉を前に、俺は口をポカンと開けていた。

 ナイアの隣の翔がニカリと笑う。


「無敵の召喚士のお通りだ! ってやつですな!」


 世の中そんなに甘くない……と言いたいところだが、この二人がいると思うと、そう感じないのは不思議である。

 でもま、無敵と言いつつ、敵は増えそうだよな。

 そう思う火水風土だった。まる。

この物語の年月日は、現実と少しずらしてます。

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