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使い魔は使い魔使い  作者: 壱弐参


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24/40

夏期合宿

「あ、あの……翔さん?」

「あぁん!?」

「今、何て?」

「統一杯の一番(テッペン)とったるって言っとるんじゃい!」


 翔は古傷だらけの拳を強く握りしめながら言った。

 俺は未だ何を言ってるのか理解出来なかった。視界の端に見える楓でさえも、その言葉にポカンと口を開けている始末だ。

 だが、楓の相手をしていたナイアの目は、俺の眼前で豪語した翔の目は、至って本気(マジ)だったのだ。


「おう、わかってんのか風土(かざと)ぉ?」


 翔は俺の前でヤンキー座りをし、俺の頭部で拳をぐりぐりとさせた。


「な、何ですか……?」

「ナイアの姉御(あねご)の力、統一杯の一位に劣ってるって言ってるんだぞ、その口ぁ!」


 一瞬だけ、翔のぐりぐりが強くなる。


「ぎぅっ!?」

「俺様もこっちの世界の常識にゃー少なからず慣れたつもりだ。風土の学校(ガッコ)は上等召喚士を養成する学校なんだろう? 剣士だって魔法士だって上等士族を養成してる。それは変わりねぇはずだ。違うか、おぉ?」

「いえ、全く違いません」

「正座ぁ」

「あ、はい」


 俺は翔に言われるがままに正座する。

 すると翔はまた立ち上がり、腕を組んで俺に言った。


「ナイアの姉御が上等召喚士に負けるってか? お?」

「あー……そういう事ね」


 すると、俺ではなく楓が最初に納得した。

 翔の意図は一体なんだ? いや、確かにナイアは特等召喚士に近い力がある。近い……いや、俺はまだナイアの本当の力を見たことがないのではないか?

 力の片鱗を見て特等召喚士に近い……となれば、その力は特等召喚士を凌ぐのかもしれない。

 そう思ったところで、また翔が言い放つ。


「俺様がそこらのヘボ剣士や魔法士に負けるって言いてぇのか? おぉ!?」


 強い視線が俺を捉えて放さない。


「……あっ」


 そう、俺は気付いたのだ。

 翔が何を言いたかったのかを。

 だが、翔はそれ以上何も言わない。ナイアも、楓も言わないのだ。

 これは、俺の意思の問題だから。それがわかってしまった以上、俺は決断するしかなかった。

 ――――更なる試練を。


「続き、お願いします!!」


 俺は立ち上がり翔にそれを求め、


「はっ! 最初からそのつもりだゴルァ!!」


 翔はからっと晴れたような顔を俺に見せながら叫んだ。

 これから、俺の、俺たちの暑い……熱い夏が始まる。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「っしゃあおらぁああああ!!」

「ぐぅううう……!! そこっ!」

「甘ぇ! 足下が……お留守――――」

「――――それはおとりです!」

「んなことわかってんだよボケェエエエエエ!!」

「ゴフ…………!?」


 鈍痛によって砂浜(、、)に倒れる俺の下に、心配そうな(れい)が近付いて来る。


「火水さん!」

「あちちちち……!」

「ちょ、ちょっとハシャギ過ぎじゃないでしょうか……?」


 玲は恐る恐る翔に向かって言った。

 しかし、翔は固い表情のまま、腕を組んで仁王立ちしたまま微動だにしないのだ。


「だ、大丈夫だから……ははは」

「大丈夫じゃないですよ! 身体中(あざ)だらけじゃないですか!」

「いや~……何だかんだで翔さん優しいから……」

「で、でも……!」

「おう、玲の嬢ちゃん。風土が止めるって言ったら俺様はいつでも止めてやる。そしたら風土にクロールでも背泳ぎでもバタフライでも教えてもらいな。だが、今風土はそう言ってないはずだぜ?」


 そう、俺が諦めれば、この特訓も終わる。

 適度な訓練に戻り、純太と同じように海で遊んだり砂浜で駄弁(だべ)ったり出来る。

 しかし、これで終わってはいけないのだ。


「うし……!」

「火水さんっ!」

「玲、人の心配してる暇あるのか……?」

「っ!」


 俺は、玲には少し酷な事を言った。

 だが、それを後悔する事はない。それが玲をどう動かすか知っていたから。

 玲は、口を結び、少しだけ俯いた後、何かを振り切ったような表情で言った。


「ご、ご飯は一緒に食べましょうねっ!」

「はは、勿論」


 せめてもの救いは、ジェシーのお手伝いさんが作ってくれるご飯が最高に美味しい事だ。

 しっかし純太のヤツ、あんなんで一部(いちべ)に勝てるのか? 俺が見たところジェシーの身体視たり、玲の身体視たり、ナイアの身体視たり、楓の身体視たりしかしてないぞ?

 まぁ、ジェシーの家の金持ちぶりには驚いた。

 相手がナイアの使い魔とはいえ、こんなところで殴り合いの喧嘩まがいの特訓をしていたら大人なおじさんたちが職務質問に来たりしそうなものだが、千葉県のビーチのど真ん中にプライベートビーチって何だよ。ファンタジーかよ。

 そう、俺たちはジェシーの家が保有するビーチにやって来たのだ。

 そして、俺は今……ブーメラン海パンを履いている……!

 翔は普通の短パンタイプの水着である。ナイアに(ふんどし)を禁止されたからだろうけど、意外に普通だった。

 当然、純太以外のジェシー、楓はナイアに付いて特訓中である。それにたった今玲も加わった。皆の水着姿はとても眩しいが、俺は今特訓の真っ最中なのだ。ブーメラン海パンで。

 脇目も振らず、特訓を続けるのだ。ブーメラン海パンで。


「おう、もう一番だ」

「うっす!」


 俺は気合いを入れ直し、尻を引き締め直し、翔への挑戦を再開する。

 そう、これは俺の覚悟の問題なのだ。


 ――仮に、仮の話だ。

 もし今、現在のナイアが国立上等召喚士養成学校に通い、統一杯の選手に選ばれたとしたら、聖十士入りは間違いないだろう。いや、その本領を見せていないナイアならば、聖十士一位は確実なのではないか? いや、確実だ。


 ――これも仮の話だ。

 翔が統一杯に出たとしたら?

 当然、聖十士一位をかっさらって行くだろう。

 彼には底知れぬ強さがある。どんな相手だろうが、一瞬で間合いを詰め、一撃の下、相手を打ち倒すに違いない。


 長く仮の話をしたが、つまるところはそういう事だ。

 俺が、ナイアさえ召喚出来れば、召喚したナイアの足手まといにさえならなければ、ナイアが翔を召喚する事が出来れば…………。


 ――統一杯で、俺は優勝出来る。

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