生徒会の狙い
「一体何故……?」
俺は、高山先輩の言葉の真意が知りたくて、率直な感想を述べた。いや、零れてしまったというべきか。それ程、「全力で守る」と言った高山先輩の言葉を呑み込む事が出来なかったのだ。
俺が単純に召還力のみを使用し、選考会を勝ち抜いたのであれば聞いて納得するが、拳力と魔法力を使用した召喚士ともなれば、士族意識を重んじるこの《国立上等召喚士養成学校》では煙たがられて当然。
学校長もそういう類いの人間だろう。だからこそ福島講師も俺に強く当たった。いや、あれは前からでもあるが、あそこまで強く退学まで促したのはあれが初めてだ。
それでも尚、俺を守るという生徒会の狙いがわからない。
「不可解……という顔ですね」
「そりゃあ勿論」
「学校全体から疎まれる……その覚悟なくしてあの力を使ったのですか?」
そんな高山先輩からの確認のような質問に、俺は一度口を結んでから答えた。
「いえ、それはありません。今ある力、全てを出して俺は戦いました。あの戦闘に、あの勝利に後悔なんてするはずもありません」
俺の回答に、高山先輩が一瞬だけ微笑んだように見えた。
いつもの振りまくような笑顔ではなく、口元こそ微動だにしなかったが、うっすらと目元が……笑ったような。そんな気がしたのだ。
「結構です」
そう言葉にした時には、いつもの高山先輩に戻っていた。
もしかしたら、あれが高山先輩の本当の笑顔……その一部なのかもしれない。
「あの選考会には軍の方もお見えになる。私はそう言いましたね?」
そういえば、生徒会室に呼ばれて選考会の説明を受けた時、高山先輩は確かにそう言っていた。
俺は縦に首を振り、記憶に残っている意を示す。
「軍の方は、火水君の戦い方を甚く興味を示されていました。当然それは私たち生徒会も同じです」
「はぁ」
「国立養成学校杯――通称統一杯。この出場を賭けた今回の選考会で火水君が優勝した。それはどういう結果を生むかわかりますね?」
「統一杯で、俺の戦い方を全養成学校の人間が目撃する事になります」
「その通りです。それを、当校の校長は快く思わない」
「士族意識の高そうな方ですからね」
そんな俺の言葉の後、高山先輩は少しだけ目を伏せて溜め息を吐いた。
それは俺に対してではなく、これから発言するナニカに対する予防線のような溜め息に見えた。
「これは全原会長のお言葉をそのままお伝えしますが……」
これだ。きっと高山先輩でさえ憚られるような言葉なのだろう。
そう思い、俺も喉を鳴らして覚悟をした。
「『そんなもの糞食らえ』……だ、そうです」
時に人は、覚悟してても目を丸くするのだと学んだ。
あの高山先輩がその言葉を口にした事にも驚いたが、全原会長がそう言い切った事にも驚いた。
「……コホン」
わざとらしい高山先輩の咳払いに、俺は慌てて反応する。
「あっ、えっと……その、驚きました。全原会長は士族意識が高い方だと思っていたので……」
「あの方は、常に全力を出して戦います。あの方程、執念深く、向上心の高い人間を、私は知りません」
「だからこそ統一杯の男女総合二位」
瞬間、高山先輩の目が鋭くなる。
「あの方の才を持ってしても二位ですっ」
立ち上がった高山先輩はとても真剣で、とても純粋な憤りを見せた。
一体何故だ? 男女総合十位以内になれば――聖十士と呼ばれる席次が与えられる。聖十士第二席ともなれば士族にとって栄誉な事だ。
「……火水君は、長い統一杯の歴史の中で、召喚士が聖十士入りした回数を知っていますか?」
……なるほど、そういう事か。
「限りなく少ないですね」
「昨年の私の第五席、全原会長の第二席を除けば十に満たない数です」
「……確か統一杯は、今年で――」
「――記念すべき第三十回目です」
年に一度ある統一杯で、三年に一回しか十位以内に入れていないという証拠。
そして、召喚士が第一席である男女総合一位をとった事は……一度も無い。
「全原会長をして二位。統一杯の上位をほとんど剣士たちがさらっていきます。魔法士が一昨年一位を取りましたが、それは魔法士学校の快挙とも呼べる出来事でした。何故ならそれ以外の全ての一位は、剣士学校がもっていったからです」
――――剣士の一強時代。
一般人が通う普通の高等学校の世代に該当する俺たちでは、剣力を発動した剣士の身体能力に付いていけないのだ。
当然、上等召喚士や特等召喚士となるまでに修練を積めば、前線で戦う剣士たちと渡り合う事も可能だ。しかし、経験という年月を経なければ培えないモノを得るには、十代というのは余りにも若い。
だからこそ、剣力を発動した剣士は、他の全養成学校の天敵なのだ。
「全原会長がいるこの世代、火水君がいるこの世代でしか、それは成し得られない。我々生徒会はそう考えているのです」
「え、えっとつまり……全原会長の最盛期である今年の統一杯――」
「――えぇ、私たちは男女総合一位を狙っているのです。そのためには火水君、あなたの協力が必要なのです」
……ようやくわかった。
今年の統一杯だけに関して言えば、ウチの生徒会はたとえ泥水を啜ってでも勝ちに行く。そういう事なのだ。
召還力を、魔法力を、拳力を…………文字通り何を使ってでも勝ちに行こうとしているって訳だ。




