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使い魔は使い魔使い  作者: 壱弐参


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18/40

楽しい楽しい夏休み

 俺はハッと我に返って(かぶり)を振った。


「あ、いや、そういう問題じゃないっす! 駄目ですよ、この人先生なんですからっ!」

「カカカカッ! つまらねぇ心配してんじゃねぇよ! 俺様は優しいんだ。これ以上ぶん殴るつもりはないって!」


 バシバシと俺の背中を叩く翔。

 いや、だからそういう問題じゃないんだけどなぁ。


「問題ありません、風土」


 そんな俺の心配を察してくれたように、ナイアの声が俺に届く。

 声を方をちらりと見る俺。

 翔の肩越しに見える割れた窓の奥。

 そうか、そっちは裏庭の方だったか。

 それにしても問題ないって……一体どういう事だ?


「ナイア、それって――――あっ」


 俺が質問するより早く、俺は翔に抱えられて裏庭に連れ出された。

 翔さん、これってお姫様抱っこというやつじゃないでしょうか?

 非常に情けない思いをしながら校門付近までやってくると、そこには塚本講師が立っていた。

 何故こんなところに塚本講師が?


「無事だったか、火水」

「塚本先生、どうしてこんなところに?」

「二人に連れられて戻って来たという事は、福島がかなり強気に出たんだな…………すまなかった」


 塚本講師は深く、そして長く頭を下げる。

 これは俺への謝罪以上に、自分が力になれなかった事を意味しているのだろう。

 塚本講師のその気持ちがわかったからこそ、俺はその行為を止めた。


「やめてください塚本先生。自分で招いた種だと思ってますから……」

「…………」


 塚本講師は何も言わなかった。

 俺は話を変えようと先程の疑問を取り出した。


「そういえばさっきナイアが言ってた『問題ありません』ってどういう事です?」

「……使い魔が助けるのであれば、それは主人の命を守るためだ」


 ようやく口を開いた塚本講師。


「あぁ、そういう事か! 自分がやり返したら問題ですが、使い魔が独断で主人を守るためにやったとなれば話は変わってきますね!」

「そういう事です、風土。我々が独断で動いたという事であればそれは主人の命を守るため。そういった状況の時でしか使い魔は人に危害を加える事は出来ません。塚本さんからそれを証言して頂けるのであれば立証は可能です」


 確かにその通りだ。

 俺がナイアたちと来ていない事は連れて来た塚本講師が知っている。

 塚本講師がここにいたって事は、校門で待っていたナイアたちと一緒にいたという事か。


「福島先生が訴え出れば私が前に立つ事が出来るだろうが、それは必要ないだろう」

「ふふふ、そうですね」


 ナイアは微笑んでそう言った。

 はて? あの短気な福島講師が怒らないなんてどういう事だろう?


「上等召喚士が生徒の使い魔にやられたなんて、自分の恥を触れて回るようなもんだぜ。カカカカッ」


 そういう事か。

 確かにこれ以上の恥の上塗りは避けたい、か。


「……塚本先生、もしかしてこうなる事がわかっていたんですか?」

「未然に防ぐ事が一番だったんだがな……」


 それ以上は目を伏せて何も言わなかった塚本講師。

 今日は終業式だったし、授業もなく学校自体は半日で終わったのだ。

 さぁ帰ってゆっくり出来るぞ、と思った矢先にこの事件だ。

 何故かそんな面倒な事は続くものだなと思ったのはその直後だったのだ。

 …………楓からラインが着てた。


[八王子スクエア]


 が、どうかしたのだろうか。

 主語も何もないただの「八王子スクエア」という文字だけで、一体何を伝えたいのだろうと小一時間程聞いてみたいものだが、突っ込んだら突っ込んだで逆にコチラが小一時間小言を言われるだろうからやめておこう。

 そんな訳で、俺たちは塚本講師に礼を言った後、八王子スクエアに向かった。

 ――――のだが、


「よぉ、風土じゃねぇか!」

「あっ! 火水さん!」

「ハ~イ風土ー!」


 まさか、


「何なのこのメンバーは……っ?」


 困った顔をしつつ、俺に怒気を当ててくる楓の目。

 俺はその目を見ないように見ないようにぐるんぐるんと顔を回していた。

 俺の後ろに玲、純太、ジェシーが付いてきて、楓が待っていた個別スペース前に来てしまったのだから怒るのも無理はない。


「おいおい、この子の制服は……魔法士学校のやつか?」


 そんな純太の言葉にカチンときたのか、楓は俺に向けてた目を純太に向けた。


「なに? 魔法士学校の生徒じゃ悪いっていうのっ?」


 楓が放ったキツイ言葉だったが、純太は一瞬だけにやぁっと笑って俺を見た後、再び楓を見ると、


「ははは、別に悪かねぇよ」


 と、純太がさらっと言葉を流した。

 すると、楓は毒気を抜かれたようにぽかんとしてしまった。


「なーるほど、お前が魔法を使えたのにはそういう訳があったのか」


 くそ、バレたくないヤツにバレてしまった。

 仕方ない。これはもう腹を括るしかないかぁ……。


「……はぁ。召喚士学校の同級生の高山純太に、雫玲、それにジェシー・コリンズだ。こっちは朝桐楓。中学校時代の同級生で、今は魔法士学校に通ってる」


 俺は誰にも口を挟ませないように素早く皆に皆を紹介した。


「よろしくな、純太でいいぜ」

「ど、どうも! 雫玲です。宜しくお願いします!」

「ハ~イ楓~」


 三者三様に自己紹介を終えると、唯一自己紹介をしていない楓が、気まずそうに俺を見てきた。

 さっきの強気はどこいった楓ちゃん。


「あ、朝桐楓よ……」


 何故俺を見ながら自己紹介するんだ……友よ。


「カカカカッ! せっかく楓の嬢ちゃんの機嫌が治ったんだ、さっさと奥に入ろうぜ」

「そうですね」


 使い魔組の二人が先陣を切りながら個別スペースに入っていく。

 その後ろ姿は、まるで全員を中に(いざな)うようだった。

 慣れた様子の玲はそのまま二人の後に続き、そうなると純太が、ジェシーが続く事になる。

 個別スペース前に残ったのは、俺と……じとっと見てくる(コイツ)だけ。


「……どうなってるのよ?」


 低い声だなおい。


「どうもこうも、勝手に付いて来て勝手に入ったんだよ。追い出す訳にもいかないだろう……」


 俺の言い訳混じりの言葉を聞き、楓は詰め寄って俺の胸倉を掴んだ。

 当然、俺は目を合わせない。


「この貸しは大きいわよ……!」

「さ、さぁ? 借りた記憶はないな……はは」

「ふんっ! 今日だけは許してあげるっ」


 俺の胸倉から手を離し、大股で個別スペースに入って行く楓。

 …………さて、明日から夏季休校だったな。

 はたして、今日だけで済むのだろうか?


 ◇◆◇ ◆◇◆


「お、そうだ風土。俺も年会員になったぞ! 去年親戚の手伝いしたバイト代使ってな!」


 親族相手とはいえ中学時代にバイトしてたのか、お前。


「火水さん! 見てください! 私もこれで年会員です! お母さんにお願いしたら契約してくれましたー!」


 そういや玲の家は結構裕福だとか聞いてたな。

 召喚士としての子供の大成を想う親だ。年会員くらいなら喜んで出すだろう。

 現に俺の親もそうだったし。


「年会員? これのコトー?」


 ジェシーは最初から持ってたか。

 何か株主優待がどうのこうの言ってたな。

 もしかしたら玲の家よりお金持ちなのでは?


「お……おかしいわ! 何で毎日毎日! 気付けば皆ココにいる訳!?」


 楓が怒鳴りながら俺に詰め寄る。

 顔が近いぞお前。

 是非とも、もう少しパーソナルスペースを考えて欲しい。


「楓~! ちょっと相手してちょーだい!」

「ふん! 今日は負けないんだからね、ジェシー!」


 案外ノリノリだな、楓。


「って、じゃなーいっ!」

「楓さーん! 私も魔法士との実戦を――――」

「――――あ、その次は俺なー!」

「も~、しょうがないわねぇ~っ!」


 腕をまくりながらにやける楓。

 (むし)ろかなりノリノリだな、楓ちゃん。

 それにしても、意外なメンバーが集まったもんだな。

 楓の性格なのか、皆の性格なのか、士族間の亀裂なんて感じさせない程、この数日で皆の仲は良くなっていた。

 個別スペースに入る異士族同士を見た回りの客が、「これは問題だ」と訴えないのは我々の子供っぽさ故だろうか?

 こんな感じで、俺の暑苦しそうな夏休みが始まった。

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