火水風土の全力
初手、微量の拳力を使って後方へ退避。
それは一部も同じで、後方に跳びながらその間空図を始めている。
今の俺にはそんな技術はない。
召喚だけにおいては一部には絶対敵わないんだ。
だからこそ!
「はぁっ!」
魔法力で手から放たれた火球。
楓のやつ、結局これしか教えてくれないんだもんな。
まぁ、種類よりも魔法技術を先に覚える事が優先だそうだから仕方ないけどな。
「冗談でしょっ、今度は魔法力!?」
遂に高山副会長の声が耳に届く。
当然、周囲のざわつきはそれ以上だ。
流石の一部もこれには目を丸くして驚いている。
発射速度は魔法の方が圧倒的に速い。
これで一部の召喚陣は崩れるは――――ずっ!?
「はぁっ!」
一部のやつ、反転しながら裏拳で火球を防ぎやがった!?
確かに今の速度なら弾かれるか! ライフバー制を逆手にとったライフとしてのダメージ覚悟ならそれも可能か。
流石生徒会幹部、頭の回転が速い速い。
「ここだ!」
一部は麻酔銃の召喚に成功し、すぐさま俺にそれを撃ってきた。
「なんの!」
俺は瞬時に屈み、一部の第一射を避けた。
流石に麻酔銃の速度は厄介だし、ある意味本物の銃以上に厄介だ。
必要以上に距離をとりつつ、弾切れを待つ。あのサイズならば入ってせいぜい三発。
今一発撃って――――、
「このっ!」
「ふんぬ!」
後一発!
「っ!」
「よし、ここだぁああっ!」
一部のセカンドサモン。その直前から俺は召喚力を展開していた。
召喚速度で勝てると思う程、一部を甘く見る訳がない。
相手は生徒会幹部。手練れの剣士とだって渡り合う現統一杯二位の全原会長。一部はその次期全原とまで言われるスーパールーキー!
俺は今、出来る事をやるだけだ!
「来い! ナイア!」
「くそっ! はぁ!」
二丁目の麻酔銃が放たれる中、白銀の光を纏って現れたナイア。
「お返しします」
ナイアの正面で止まった麻酔銃の注射筒。
俺の目の前で起きた一瞬の停止。その後、振動するように震えた後、注射筒は一部に向かって跳ね返っていった。
「くっ!」
一部は間一髪でグラウンドを転がりながら反撃を逃れた。
土埃に塗れる一部なんて、珍しいだろうに。
周囲から沈黙が生まれる。
今の不可解な出来事に息を呑んでいるに違いない。勿論、俺も驚いている。
ナイアは今、エネルギーを召喚したんだからな。
反発エネルギーなのか、横方面に生まれた特殊な重力なのかはわからないが、ナイアは召喚によってこれを起こした。
生徒会幹部の連中も、全原会長を除いて動揺を隠せないようだ。
当然だろう。これは特等召喚士でなければ出来ない芸当だ。
まさかナイアにこんな事が出来るとは思わなかった。
「ナイア、翔は?」
「必要ないでしょう。牽制は私が行います。風土はあの者に止めを」
まーたナイアが怖い事を言ってる。
だが、確かに翔がいては過大な戦力かもしれないな。
出したら出したで怒られそうだし、二人でなんとかしてみるか。
「アドバイスは?」
「風土、アナタの武器は力の併用化です。それを念頭に戦うとよいでしょう」
「やっぱりそれか……」
がくりと肩を落とす俺の肩をナイアの手が優しく包む。
「自信を持ってください。これ程の特異性、鍛えない手はありません」
「はぁ……せめてそんな自由がある世界ならよかった……」
こりゃ絶対に後で教務室に呼ばれる…………いや?
もっと上から呼ばれてしまうかもしれないな。
「くっ!」
そんな中、一部が三度目の召喚力を始めた。
二度目の麻酔銃はまだ持っている。
なるほど、二丁拳銃ってところか。
「コォオオオ……」
息を細く、大地に根を生やすように。
力の流れ、身体の動き、全てに理由があり、全てが重要。
それらをほんの少し理解し、ほんの少し利用すればいい。
力は強きモノ。力は狡きモノ。
――――自分の力を信じる!
「うぉおおおおおおおっ!!」
「くそ、拳力か!」
俺が距離を詰めようとした時、一部は麻酔銃から全ての銃弾を放った。
「させるとお思いですか?」
ナイアが背後から先程のエネルギーを召喚。
今度は俺の前で注射筒が落ちていく。
「悪いな! ちょっと痛いぞ!」
麻酔銃を交差させて拳を受けた一部。
一瞬にして二つの麻酔銃が消え去り、一部は前宙をしながら俺を蹴った。
だけど――、
「ぐぅっ!?」
蹴りを受けた俺の手の平には魔法陣で出現させた火球があるんだよ。
一部は着地と共に足を抱える。
この状態の一部ならば…………俺が召喚陣を空図する時間は十分にあった。
ナイアを出現させた上で召喚出来たただ一つのアイテム。
血みどろの翔ちゃんが「おしおき用にならば使ってよし」と言ったナックルダスター。
小さいながらも拳力を込めた状態ならば、それは岩をも砕く凶器となる。
火傷に悶える一部の胸倉を掴み拳力を利用して持ち上げる。
「風土、そこで決め台詞です」
背中に掛かる使い魔の声。
あれかー……何故か翔が提案し、ナイアが採用し、楓が爆笑したあの台詞。
俺の反論は一切認められなかったのは、マスターとして実力不足だろうか。
まぁ言わなかったら言わなかったでナイアがしゅんとするし、翔にも殴られる。それに楓にもいじられそうだ。
それだけは避けなければならない。
なら、言うしかないだろう?
「……っ! おうおうおうっ!」
「ひっ!?」
「漢ならぁ! 歯ぁ食いしばって我慢しろ、やっ!!」
加減しつつも一部の右頬に放たれた一撃は、正確に顎を打ち抜き、少しの間、一部を遠い世界へと送ってしまった。
くそー…………何でこんな台詞になったんだ?
「それまで!」
塚本講師の合図が耳に届くと、俺は気絶した一部をグラウンドに寝かせた。
すぐに駆け付けた保険医が一部を診る。
「単なる脳震盪ね」
周りの男子生徒の力を借り、一部は医務室へと運ばれて行った。
背後まで歩いて来たナイアが嬉しそうに微笑む。
「お疲れ様です、風土」
眩しい。太陽みたいだ。
◇◆◇ ◆◇◆
放課後。
俺は先程の自分を重ねるかのように、肩を落としながら歩く純太を見ていた。
とことこと歩く玲も何故か気まずそうだ。
「惜しかったなぁ純太。まさか純太とジェシーが二人共召喚力を使い切るとは思わなかったよ」
「てめぇ、全然惜しかったなんて顔してねぇじゃんか……!」
そんな泣きそうな目で俺を睨むなよ。
「そりゃ決勝が不戦勝になったんだ。嬉しくないはずがないだろう?」
「くそー! ジェシーの熱に当てられてヒートアップしちまったぁ……失態だぜ」
「で、でも凄かったですよ純太さん。ジェシーさんの攻撃をほとんどかわしてましたし!」
玲が頑張ってフォローしている。
なんて健気な女子なんだ。もし猫だったら拾って帰ってしまう程だ。
「ふふふふ、純太も健闘していましたよ?」
「ナイアさんに言われたって、こればっかりはなぁ…………はぁ」
ナイアでもダメか。まぁそれだけ悔しかったって事なんだろうな。
しかし、玲の言う事は確かだ。純太の動体視力が優れている事は知っていたが、まるで予知しているかのようにかわす姿は翔を思い重ねた程だ。
ジェシーの攻撃をかわし、距離をとり遠隔から狙う。定石といえば定石だが、いかんせん猪突猛進なジェシーと相性が悪かったんだろうな。
まぁそれは普段からか。
そんな二人が力を使い切って、塚本講師から続行不可を言い渡された時は皆笑ってたなー。
おかげで俺は不戦勝。
不本意ではあるが、勝ちは勝ちだし、価値のある勝利である事には変わりない。
仮ではあるが、聖十士一位は嬉しいもんだ。
決勝の人間が俺以外全員戦闘不能だったもんだから、一部、純太、ジェシーは同率四位。
簡単だったが、表彰式に出ていた一部の顔も非常に崩れていて面白かった。
二位決定戦があれば一部が勝ったかもしれないが、流石に生徒会幹部の一部が四位ってのは、俺以上に不本意だったんだろうな。因みに玲は五位に入ったから流石だ。
プライドが高そうなやつだ。認められなかったっていうのが正しいかもしれないな。
因みに玲は五位に入ったから流石だ。
終始困った様子の玲と別れ、終始悔しそうな純太と別れて部屋へ戻る。
部屋に着き、ナイアが召喚した翔に勝利報告をしたが――――、
「――――あ痛ぇ!? 何で殴られたんすかっ!?」
「べーけ野郎。ナイアの姉御の力を借りて勝ってなぁ~にが勝利だ? おぉ?」
「あ、はい。すみませんした」
怒られはしたが、以降翔の機嫌はいつもよりいいように感じた。
さては翔のヤツ、ツンデレというやつかもしれないな。
◇◆◇ ◆◇◆
翌日、俺は塚本講師に呼び止められた。
「火水、話がある」
やっぱり、逃げられないよなぁ…………。




