宇宙人との邂逅
「おい、またお前断れなかったのか? そんなんだからポケットがティッシュでぱんぱんになるんだよ」
「うるせぇ! 今から断るから待ってろ!」
「……アホか、遅刻するから俺は先行くぞ!」
今ポケットにティッシュを捻じ込んでいる彼、炎屋 豊は今日も断れない。
豊はいつもそうだった。
お願いされると、NOと言えない。
そんな優しい、言い換えればお人好しな性格だった。
豊は自分を置いて行った、竹内 剣に呪詛を撒き散らしながら後を追う。
いつもと変わらぬ朝。
雀が鳴いて、照らしてくれる春の陽射しが心地良い。
ああ、なんて日本は素晴らしいのか。
川べりに沿って、走り続ける。
けれど剣は自転車なので、到底追いつけそうもない。
豊は朝にここを歩く事が好きだった。
それは、いつもと違う景色が見える気がして何となく楽しい気持ちになるからだ。
その内、豊は走る事を止めて、ゆっくりと歩き続けた。
「どうなってる!!!」
「申し訳ございません! 姫君は既に逃げた後でした」
「信頼して日本に任せると言っているのだ。それをこの失態、娘が事故にでもあったら……あばばば」
「既に捜索の手配をしておりますので、何卒、何卒ぉおおお!」
日本国内は知らぬ内に揺れていた。
宇宙人の発見。
それはとうの昔に証明されていたが、国民は見た事がない。
それもそのはず、国、いや地球と宇宙の間で懸命に秘匿され続けたからだ。
宇宙人が地球へとけ込むのも容易……。
何て事もなく、宇宙の言語を聞くと大半の人間は脳がフリーズしてしまう。
フリーズしない人間、その確率は何と億分の一。
これでは、秘匿する以外に方法はない。
けれど、徐々に日本語を覚える宇宙人も現れ現在少しずつだが、コミュニケーションがとれるようになっていた。
歩み寄りの嬉しい結果である。
ああ、地球は素晴らしい。
そう口を揃えて宇宙人は言った。
それは勿論文化、教育、何よりも星と星との戦争が無いからだ。
数多の宇宙人と人間が、会議に議論を重ね地球を侵略すること無い永久中立を定めたのも、割と最近の事だったりする。
そんな地球の評価の中で特に日本は高く評価され、宇宙人専用のお嬢様学校まで出来る始末。
あくまで、表向きは令嬢の高等学校。
中では宇宙の姫君達が日々学校生活を送っている。
星と星を繋ぐ役割なども担うこの学校は、最早日本だけでは手に負えなくなっているのも現実だった。
「えーい、さっさと姫を見つけないか!」
「姿をくらましているようです! 恐らく地球人には見えぬ様になってます」
「ぐぬぬ、宇宙人を怒らすと後が怖い。さっさと急がないか!」
日本宇宙人共同環境保全協会は、通称日宇はこの様な面倒事を政府に頼まれる度嘆くのだった。
全員が面倒な姫君の父の為に、血眼になってあらゆる所を探し回る。
共同とは名ばかりの、宇宙人の為に何でもする何でも屋が実態で、そこに就職した人は己を呪うのだという。
「ん? なんだ?」
豊が歩いていると、そこには金色の髪をしている少女がいた。
ここら辺では見た事も無い制服を着ている少女が、土手に三角座りで蹲っていた。
体調不良か何かだろう、豊は躊躇うことなく彼女に近付く。
「おい、どうした?」
「ひゃぅっ!??」
ビクッと大きく身体を揺らし、少女は反応する。
綺麗なエメラルドの瞳がキョロキョロと、そしてまじまじと、声をかけた人物を見つめる。
「な、何で? う、宇宙人?」
「失礼な、れっきとした地球人だ。とんでもねえジョークだな」
「見えるの? 本当に?」
そんなに驚く事だろうか、豊は不思議な少女に思わずはてなを浮かべる。
よく見てみると小刻みに身体は震え、何かに怯えている様に感じた。
「どこか悪いのか? 学校は?」
「嘘、言語も理解できるの?」
「何言ってるんだ、こうして会話してるじゃねぇか」
「頭痛く無い?」
「……!」
なるほど、これは遠回しに会話を拒否されているのか。
初めて出会う会話の拒否に豊はショックを受けつつも、立ち去る事を決めた。
「いきなり話しかけて悪かったな。じゃあ、俺は行くから」
「待って!!」
グイッとおおよそ女の子とは思えない力で腕を引っ張られ、驚く豊。
少女は真剣な表情でこう言った。
「……助けて下さい」
藁にもすがる様な声を上げる、そんな彼女を見た。
豊は静かに、隣に腰掛け話を促した。
「それでね、父様ったら私の話を無視してこんなよく分からない地の学校へ行けって言うのよ」
「ああ、うん。それもう、三十二回目だ……」
豊の顔はげんなりしていた。
座るとすぐに愚痴が始まり、もう何時間たっただろうか。
学校へはもう間に合わない。
いつしか時間を確認する事も忘れていた。
「でね、卒業したらすぐ結婚。私だってもう15歳よ。恋愛くらいしたいわ」
「恋愛……ねぇ」
これは、恐らく四十三回は聞いた。
豊は今高二、恐らく彼女は高一だろう。
永遠と、学校へ行きたくないと、結婚したくないと連呼したいる彼女を止める術を豊は知らない。
「で、どう助ければ良いんだ?」
「私の付き人になってよ!」
「嫌」
自分でも信じらない。
そう豊は思った。
断る事が出来ない自分が、ここにきて自分から断る事が出来たからだ。
感動が全身を包み、得体の知れない高揚感が支配する。
「なんで? 私こんなに誰かと話したの初めてなの。良いでしょ?」
「だぁーっ! どんな理屈なんだよそれ! 第一俺はお前の名前すら知らないぞ!」
「わーい、始めてこんなラフに自己紹介をするわ! 私は……シルヴィ! あなたは?」
「……どんな生活だよ。俺は炎屋 豊。それより、なぁシルヴィ。一回お父さんとちゃんと話をしたほうが良いと思うぞ」
見た感じからも、話した感じからも生粋のお嬢様という感じ。
豊は静かに、話す事を勧める。
「ねぇ豊! なら、私と父様を取り持ってよ!」
「それくらいなら、まぁ」
「わお! なら早速行きましょう!」
ずんずんと引っ張られる豊。
我ながら安請け合いをしてしまったか。
引きずられながら、そう思った。




