叔父さんが殺された
資産家の叔父が殺された。ぼくの両親は数年前に事故で亡くなってて、他に身寄りはいない。ぼくは莫大な資産を受け継ぐことになった。
で、当然のこととしてぼくが第一容疑者になった。
「昨日の夜の十一時から一時頃、どこにおられましたか? 」と、刑事が言った。三十には、まだ、大分ありそうだが巡査部長だった。きっと、優秀な刑事なのだろう。
「寝ていました」と、ぼく。「その時間だ。当然でしょ? 」
「それを証明してくれる人は? 」
「いません。独り暮らしですから。でも、ぼくの車が駐車場に止まったままであったことは、近所の人が証明してくれると思いますよ」
「……」
「叔父は決していい人ではなかった。叔父に恨みを抱いている人は両手では足りませんよ。警察も大変だ」
「……」
「それにしても、殺人者は無駄なことをしたな? 」
「と、いいますと? 」
「叔父は胃がんでして、後、半年の命でした。殺さなくても、半年で叔父は死ぬ運命だった。もっとも、これは、叔父とぼくしか知らないことですけれどね」
それでも、ぼくは三日後、叔父殺しであっさり逮捕された。
あの刑事が取調室のテーブルの向こうで言った。「あなたは、高級な自転車を持っている。あれなら、車無しで、殺された叔父さんの家まで充分に行ける」
ここで、刑事は一拍置いた。「実はあなたの住む地域のゴミ・ステーションに、収集日でもないのにゴミが捨てられていた。ある人がそれを回収してきて、中身を調べた。収集日を注意するためだった。ところが、そこから出てきたのは、血まみれの衣服、靴でした。それでその“善良な市民”は慌てて警察に届出てきました。で、その血はあなたの叔父さんの血だった。同じ袋の中からあなた宛の検察庁からの呼び出し状が入っていました」
ここで刑事は“にやり”と笑った。
「ゴミ出しの日は守るべきだった」と、ぼくは言った。
「ですね」と、刑事が言った。
「十八キロのスピード違反だったけれど、反則金は素直に払うべきだった」
「ですね」と、刑事が同じ返事を繰り返した。「それと、あなたのご両親の事故死について、興味を持っています。それと、ここ数年のあなたの周りで起きた数件の不審死についても調べたい」
ぼくは肩をすくめた。
刑事が言った。「でも、後、半年で死ぬ人間をどうして殺した? 」
“出来る刑事だ”と思っていたが、ぼくの勘違いだったようだ。
ぼくは当たり前の事と言った。「死なれたら、殺せない」
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