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神の花  作者: はなぶさ
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私は生まれたときから、にえだった。

それは多分、生まれるよりも前から決まっていたことだった。

だから、私はそれを否定することもできず、ただ受け入れることしかできない。

両手にははめられた枷は、この手が何かを掴むことを許さない。

足首に巻きつけられた鎖は、この足がどこかに赴くことを許さない。

潰されたのどは誰かの名前を呼ぶことさえできないし、会話を楽しむなんてもってのほかだ。

私には何も許されていない。

ただ一つ、許されているのは呼吸すること。

それだけだ。


他の誰かに言わせると、私が生まれ育ったこの国は豊かで美しいらしい。

特に都は、他の地とは比べ物にならないほどに豊かな暮らしをしているのだと。

かつては、貧困に苦しみ戦火に嘆く、憐れな国であったそうだが、それも今は昔のことだった。

そんなこの国で、私は第四王女として生を受けた。

普通なら、これほどに恵まれた存在はいないだろうというほどの立場だ。

高貴な血統に約束れた地位。賢帝と名高い父王に美しい母親。腹違いの兄姉も皆、慎ましく穏やかで賢く、王族だというのに驕るところがないと近隣諸国から一目置かれるほどだった。

そんな中に生まれた私は第三側妃の第一子であり、とりわけ第三側妃に目をかけていた皇帝が待ち望んでいた娘だった。

愛妾とはいえ、出自が下位貴族のため、生んだ子も王位継承権とはほど遠い。

余計な争いに巻き込まれる心配もなく、唯一懸念されるのが政略結婚ではあったが、貴族の娘ならば誰もが通る道なので特別それが不幸だとはいえなかった。

恵まれた環境に、恵まれた立場だった。

そう、そのはずだったのだ。普通なら。

だけど私は、第四王女として生まれたゆえに、生きることを許されなかった。

だから、生まれてすぐに死んだものとされ秘匿された。

けれど、そんなどうしようもない私にも役目は与えられたのだ。


―――――ただ一人を守る為の、盾。それが私である。


「王女様が眼病を患い、右目を失明されました。

貴女のその目をご所望です」


いつもの通り、隔離された自室で本を読んでいたところに一人の男が現れた。

最近はいつもこの男がこの部屋を訪れる。

こんこんと咳をしながら男に視線を向けると、彼は視線をずらして眉を潜めた。

その姿を視界に納めながら、こくりと肯く。

「よろしいのですか?」

視線を外されたまま問われて、また深く肯いた。

その反動で、手首に撒きついた枷がチャキリと音をたてる。

元より、拒否することなどできやしない。

私の全ては、彼女のためのものなのだから。


「本当に、それで良いのですか?」


いつもならあっさりと私の返事を受け入れる男が、なぜか今日だけは同じ問いを二度繰り返した。

意図が見えず、読んでいた本を置いて男に向き合う。

粗末な椅子がぎしりと音をたて、足枷がガチャリと音をたてた。

その音にはっと顔を上げた男と視線がぶつかる。

私のまぬけな顔が映りこんでいる彼の目は、一点の曇りもない緑色だ。

真夏の強い日差しを浴びた草の色に似ているかもしれない。

だけど、それも遠い記憶の風景なので断言することはできなかった。実際は似ても似つかないかもしれないと、何となく彼の顔を見つめ返す。

すると、今度は急に距離を縮めてきた男に手首を掴まれた。

男にしては細い指先だ。

何事かと僅かに身構えて、だけど、この部屋で私を害する人間など居はしないのだと力を抜く。

そこらへんの牢屋よりもよっぽど頑丈な造りをしたこの部屋は、粗末な内部に反して、外部からの侵入を防ぐ為に幾重もの術が掛けられている。

この国で最も権威ある魔術師が作り上げた特殊な空間だ。

勝手に出ることもできなければ、必要な手順なくしては入ることもできない。

ここに入ることを許された時点で、私を害する人間ではないと考えて良い。

この部屋はそういうふうに作られている。


「何か言いたいことがあるのであれば、ここに書き出してください」


男は染み一つない官服の胸元から紙とペンを取り出した。

本来、この部屋に持ち込むものはいくつかの部署の承認を得なければならない。

前の監視人が、パン一つ持ち込むのにも申請書を出さなければならないので、それが非常に面倒だとぼやいていた。

部屋に入る前にも承認を得ていない持ち物を持ち込んだりしていないか確認されるはずだ。

この紙とペンは、承認を得ていないような気がした。

確認したわけでもないのに、なぜか、そんな気がした。

そして、そんなことが許されるこの男は、私が思っているよりもずっと高い身分なのかもしれないと思う。

家名を聞いた記憶はないが、きっとやんごとない家の出なのだろう。

何気ない仕草にも品があるし、労働を知らない真っ白な手をしている。

その手を何となしに見つめながら、この男の前任者が騎士だったことを思い出す。

時々、隊服のままでこの部屋に来ていたが、胸にはいくつもの勲章が輝いていた。

どんな武勲をたてたのかは知らないが、相当に腕のたつ男だったのだろう。

大した別れの言葉も交わさずに、監視人の役を降りてしまったが。

幾人も居た監視人の中では一番長く、役目を負っていた。

それが彼の希望だったのか、果たして強制されていたのかは知らないが。

いや、恐らく、後者だ。

自ら望んでこの部屋に来る人間など居るはずが無い。


私にペンを握らせた男は、すぐ傍にある簡易用ベッドに腰掛けた。

一人が横になるだけで手狭になるほどに小さなベッドだ。大の男が腰掛けると少し大きめのソファにしか見えない。私の答えをそこで待つようだ。

男に握らされた、いかにも高級そうな万年筆を眺めながら、首を傾ぐ。


言いたいことなど、ない。


それならば私が記すことは「特に、ない」だ。

その通りに書いて渡すと男は顔中に渋面を作った。


「王女様が貴女の目を必要としているということは、貴女はその目を失うということですよ?

それで構わないのですか?」


肯こうとして、握っている万年筆を指差される。

書いて示せということか。

『構いません』と、ただ一言だけ紙に記す。

文字を書くこと自体が久しぶりだったので、少し指が震えた。

その動作に驚いたのか、男は僅かに目を瞠って、


「私は、その瞳が好きなのですがね」


と声を落とした。

そこで私は、紙にペンを走らせる。


『この目があの方のものとなったとしても、色は変わりませんよ』


この目が誰のものになったとしても、色は今と同じで変わることなどない。


「貴女がその目を持っていなければ、その輝きは失われるでしょう」


輝き?

鏡に映る私の目は彼が言うほど素晴らしいものではないはずだ。

いつだって淀んで暗い眼差しをしている。

それはそのまま私の人生を映し出しているかのように。


「王女様は右目だけをご所望でしたが、それでは色が揃わなくなる可能性があると進言したものがおりまして、結局、両方の目を王女様に移すこととなりました」


王女様の目は、紫だ。淡くて美しい色をしていた。

私の目は、それよりも少し濃い色をしている。

だけど、遠目で見れば分からないし、そもそもたったそれだけの違いに気付く人間が居るとは思えない。

元々、光の加減では濃くなったり薄くなったりするものだ。

だから、王女様の光を失った目が健康な目に変わろうとさして問題はないだろう。

死んだ右目と、薄い紫の目が私のものになったとしても同じだ。

そもそも、私の顔を見る人間なんてこの男以外には居ないのだから気にする必要もない。

私はまた、こくりと肯いた。


男はおもむろに立ち上がって、指で私の頬を浚う。

覗き込むように私の顔を見つめたけれど、言葉はない。

ただ見つめているだけだ。

首に巻かれた黒いベルトから伸びた鎖が、音もなく揺れた。

それにちらりと視線を移した男は、私の顔から指を離し、ぎゅっと一度だけ目を瞑る。

疲れの滲んだ仕草だ。だけど、それと同時にどこかで見た仕草だとも思う。


ああ、そうだ。

前任の騎士が、時々そういう顔をしていたのだ。

私の顔をじっと見て、それから何か言いたげに唇を動かして。だけど、結局何も言わずに目を閉じる。

そして振り切るように顔を逸らすのだ。


「……何か、欲しいものはありますか?」


男は軽く咳払いをして、目も合わせずに言った。

ぽつりと落ちた言葉が宙に浮く。本当は何か別のことを言いたかったのかもしれない。

だけど、私の前に立つ人間は皆本音を隠すのだ。

「何かありませんか?」

黙っている私に焦れたのか、男が同じ問いを繰り返す。

首を振ってから、慌てて紙に書き出した。

正確に伝えなければいけないと思ったから。


―――――何も


何も、ない。

欲しいものなど、何もない。



*

*


王女様は生まれたときから体が弱かった。

だけど、生まれながらに「神のしるし」を持つ尊い人でもあった。


印といっても目に見えるわけではない。

それは、酩酊するほどの芳しい香りのことを指していた。

視覚ではなく嗅覚に訴えてくる「神の印」は、一説によると、肉体の内側に咲く大輪の花から零れてくる香りのことらしい。

と言っても、やはりその花を目にすることはできず、肉体を割いたとしてもそこに花は咲いていない。

神が「愛する子供」に捧げた花ではあるが、実際に触れることは叶わないのだ。

薔薇にも牡丹にも似た豪奢な花は、神の庭にしか咲かない花だとも言われている。

神と、神に選ばれた者しか行けない場所に咲く花。

その花を、神はたった一人の人間に与え、その肉体の奥に沈めた。


神の印を持つ者は「神の子」や「花の人」と呼ばれ、一時代に一人しか生まれない。

非常に稀な存在だ。

一人が死ねば新たな一人が生まれるといった具合に、一つの時代に二人以上の神の子が存在することはない。

しかし、当代が死んだ後すぐに次代が生まれるわけではないので、時代によっては神の子が存在しないこともあった。

神の子のいない時代には、騒乱と混乱と混沌が訪れ、それと同時に変革がもたらされるとも言われている。


では、なぜそんな印を持つものが存在するのか。


それはこの国を守護する神との契約によるものだった。

神の子はその名の通り、神がこの世に遣わした愛すべき子供である。

存在しているだけでも神の加護が得られるので、結果的に、国を安寧に導くのだそうだ。

土地は豊かになるし、それに比例して穀物がよく育つ。経済は潤い、人々の生活も潤う。

神の加護というのはそういうものだった。


王女様が生まれるよりも前は数十年間も神の子が存在しなかった。

その為、王女様が生まれて、彼女が神の子であると気付いた王室はただちにそれを発表した。

赤ん坊の無垢な肉体から発せられる強い香りは、王宮の隅々まで充満していたそうだ。

知らされた国民は国を揺らすこほどに狂喜乱舞し、三日三晩お祭り騒ぎを繰り広げた。

長い間、神の子が不在だったこの国は、数年前まで続いていた隣国との戦争のために疲弊していたのだ。

混沌とした時代には、光が必要だった。

神の子はまさしく、その光だったと言える。


けれど、待ち望んで誕生した神の子は、恐ろしいほどに病弱だった。

つむじ風が吹いただけで肺炎を患うほどには弱かったのだ。

そのことは国民の不安を煽るからと秘匿されていたが、王室は揺れに揺れていた。

何としても神の子をこの世に繋ぎとめて置かなければ。

彼女はこの国の光なのだ。

しかも、何の因果か、神の子が王室に生まれた。

まるで神が王室を後押しするかのように。

生かさなければ、彼女を何としてでも生かさなければ。


そこに出てくるのが、私という「盾」である。


私は、くしくも王女様と同じ月、同じ日、同じ時間に生まれた。

そういった子は他にもいたが、人数は多くなかった。

私たちは総じて、神の愛すべき子と同じ日に生まれた「恥知らずの子」と呼ばれた。

恐れ多くも神の子と同じ日に生まれ、神の愛を横取りしようとする恥知らず。そんな風にみなされたのだ。

だから、大抵の子が生まれて間もなく殺された。

神の子とは違い、不幸を呼び寄せると言われているからだ。


神の子の生まれた日時が公表されると同時に、恥知らずの子はこの世に誕生する。


それまではただの赤ん坊であり、他の日に生まれた子と同じく祝福すべき存在であったにも関わらず、恥知らずの子だと判明したその瞬間から忌むべき存在となってしまう。

生まれた日を偽ったとしても同じだ。その存在自体が「悪」なのだから。

だから、一刻も早くその存在を消す必要があった。早くしなければ、家族が危うくなる。

禍を呼び寄せるその前に、殺さなければ―――――。

そして、人知れず命を奪われ、初めから生まれなかったこととされた。


だから、神の子が生まれた日は、他の日よりも圧倒的に出生人数が少ない。

神の子とは違い、私たちは皆、等しく全ての人間に疎まれて憎まれる存在だったのだ。


そんな私が殺されずにすんだのは、私がひとえに王族だったからだ。

母親の出自が低いため、末席も末席、王位継承権なんて「何それ」状態の立ち位置ではあったが王族には違いなかった。

忌み子ではあるが王族の血は尊い。

生かすべきか、殺すべきか。

王女様の病弱問題と共に、当時の王室関係者を悩ませた議題の一つだった。

ともかく、私の生まれた日時は王女様が生まれた日の前日とされ、表向きには死産とされた。

王室から恥知らずの子が生まれたことを国民に知らせるわけにはいかなかったのだ。

それはつまり、凶兆であったから。

生きているのに死んでいる。私はそういう存在だった。

だから、離宮に生涯幽閉。それが生まれて間もない私に下された沙汰であった。

誰にもその存在を知られなければ、死んだも同然。誰もがそう考えていたのだ。

しかし、そこで異を唱える人物がいた。

国王陛下、つまり私の父である。

かの方はこう言った。


「姫の盾が必要だ」


そして、私は王女様の盾となることになったのだ。


私と王女様が初めて引き合わされたのは5歳のときだった。

眩暈さえ覚えるほどの強い香りに、彼女こそが神の子なのだと実感する。

一度も嗅いだことのない香りなのに、なぜか郷愁を誘う気がした。

胸が痛んで、潰れそうなほどに苦しくなったのを覚えている。

帰る場所などどこにもないのに、故郷を想う。帰りたくても帰れないのだと、哀切を誘う。

そんな不思議な香りだった。

それは、脳天まで突き刺さるほどの強烈な印象を残し、記憶に深く刻まれることとなった。

あの日以降、王女様が傍にいないときもあの香りを思い出すことがある。

それほどの香りだったのだ。


「くさいでしょう?ごめんなさいね」


私と同じ年の王女様は実に愛らしく首を傾いで言った。

彼女の肉体が発する香りに呆然としている私に気分を悪くすることもなく、笑みさえ浮かべて。

その頃既に死んだものとされていた私は、とある中位貴族の令嬢に扮して彼女の前に立っていた。


王族を前にしているというのに、碌に挨拶もできない無礼者。


周囲の私への評価はそれだった。

身元を偽っているから、私が何者なのか気付く者はいなかった。

私と王女様を引き合わせた高位貴族だって、知り合いの知り合いの知り合いからの紹介と言った感じで、その日初めて顔を合わせた男だったのだ。

そういった、私のことを知らない人間から下された正当な評価。

私は、完全に出来損ないだった。


だけど、王女様は私を責めることなくただおおらかに笑って許してくれた。

同じ年だというのに、妹ができたみたいだと目元まで綻ばせて。

それが、どれほどの衝撃だったか誰にも分からないだろう。

彼女の香りにまさしく酩酊していた私は泣き出すまいと、ただ只管に耐えていた。


私に与えられた役目は文字通り、王女様に危険が迫ったときに「盾」となることだ。

この身を挺してでも守らなければならない人に、妹のようだと情を向けられて平静でいられるわけがない。

王女様を守るためにあらゆる武術を叩き込まれた。

誰かが襲ってきたなら、それこそ腕の一本や二本を失くしたとしても死に物狂いで戦わなければならない。

命を落としたとしても、それで彼女を守れるのなら。

それは名誉なことなのだと教えられてきた。

その言葉をただの一度も疑ったことはない。

彼女を守るための、ただそれだけの人生だ。

不満に思ったことなどなかったけれど、彼女の白い腕が私の前に差し出されて、私の指を握った瞬間。


なぜか、振り払いたい衝動に駆られた。


慈悲深い眼差しにさらされて、この身が焦げ付く気がしたのだ。

皮膚が焼け爛れて剥がれていくような、そんな嫌な痛みさえ過ぎった。

妄想だと分かっていても、叫びだしそうになる。慌てて呼吸を呑み込んで、やっと思い至った。

自分が「恥知らずの子」だということに。

神の怒りに触れたのかもしれないと思った。

我が子に触れるなと、穢れを移すなと、そう言っている声が聞こえたような気がした。


けれど、私の役目は王女様の「盾」である。

傍に居なければ、その役目を果たすこともできない。

だから、何としてでも王女様の友人になる必要があった。


王女様の友人として傍に居れば、いざというときに盾になれる。


万人に愛されている王女様はいつも鉄壁の守りの中にいたので、私がすることといえば、せいぜい風除けになることくらいだったのだけれど。

比喩的な表現ではなく、そのままの意味である。彼女に吹く風を遮る。それだけの役目だった。

何も知らない王女様は、私を友人と信じ、全幅の信頼を寄せてくれた。

忌み子だと蔑まれて生きてきた私に、ただ真っ直ぐな笑みを向けて「貴女と一緒にいると楽しい」とまで言ってくれた。

本来なら、神の子の隣に並ぶことなど許されない存在の私に。


神に愛された存在と、神に疎まれた存在。


私たちは常に対極の存在であった。

これほどに近くにいて、立ち位置はほとんど変わらないはずなのに、課せられた宿命はどこまでも離れていた。

それは、日を追うごとに、月を追うごとに、年を追うごとにますます離れていき、国が栄えれば栄えるほど彼女はその存在価値を高め、私の存在は地の底に落ちていく。

彼女の目がこちらに向けられるたび、彼女が微笑み、周囲の人間が彼女を愛せば愛するほど、私は自分の存在がどれほどに醜いのかを知らされているようだった。


王女様は優しい人だ。


ただひたすらに愛されて甘やかされて傲慢に育つかと思えば、踏み躙にじられて虐げられたことのない王女様は、よくも悪くもただひたすらに純粋だった。

誰かを疑うこと知らない。

悪意を、人を陥れることの愚かさを知らない。

神を信じ、周囲の人間を慈しみ、優しさと慈愛で誰をも虜にした。

私は、そんな彼女が好きだった。


だけど、彼女が、もしいなければ。

彼女がもし生まれてこなければ、私はただの王女でいられた。

数えるのも馬鹿馬鹿しくなるくらい大勢いる兄弟姉妹に埋もれて、国民に名前さえも知られないような末席の王女でも、それでも、誰かに愛されて守られる存在でいられた。

それなのに、彼女がいるせいで、ただ神の子と同じ日に生まれただけで、それだけで愛を失った。


私を「妹」と呼んだ王女様。

本当にそうだったらいいのにと、彼女は笑った。


―――――何も知らずに、笑っていた。









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