第零話 カク カタル
やぁ、やぁ、いらっしゃい。遠いところからよく来てくれたね。歓迎するよ。さぁ、座ってくれ、お茶を用意させよう。
え、他の人を呼ぶなって? キミは相変わらずシャイだね。まぁ、キミの人見知りは今に始まったことじゃないしね、それで今日は何の用でボクのとこに来たんだい?
えぇ~、ボクに会いに来てくれたんじゃなくて、ボクはあくまでついで……ショックだよ。キミはなんて冷たい奴なんだ。まぁ、キミの目的は果たせそうになさそうだよ。だって、爺さんはさ、かれこれ十数年前に亡くなったからね。キミが、秘境みたいなとこに引きこもっていたから、連絡の取りようがなかったんだよ。キミの方から出向いてくれないとね。爺さん、最後まで、自分が創立したこの学園のこと気にかけていたよ。キミに、死ぬ前にもう一度会いたいとも言ってた。まぁ、それはかなわなかったんだけどさ。後で、お墓に案内するよ。爺さん、この学園凄く好きだったからさ、近くに埋葬したんだ。
そうそう、今思い出した。キミに爺さんから渡すように頼まれていたものがあったんだ。えぇ、とどこにしまったかな。ここかな? あれ違った。少しは整理整頓をしろって? 嫁さんにもよくいわれているよ。
あ、これだ。はい。
ん、中身なら見てないよ。さすがのぼくもキミ宛の手紙を勝手に拝読するなんて不作法な真似をしないよ。で、なんて書いてあるんだい?
ねぇ、ちょっと。見せてくれたっていいじゃないか。減るものじゃないだろう? え、減るって? あぁ、こんなことなら覗いておけばよかった。まぁ、キミが目の色を変えるなんて初めて見たからね。それだけのことが書かれていたんだろね。
ズズッ……ぶはっ。にがっ。げほっ、げほ。
ごめん、これ飲まないでいいよ。飲み物というレベルを逸脱している気がするよ。え、なに、飲もうとしてるのさ。さっきのぼくをみていただろう。
キミってやつは、変なとこで義理堅いっていうかなんて言うか。まぁ、そんなとこが爺さんもボクも好きなんだけどさ。
ん、急にどうしたんだい。そうだね、大事なものを隠す場所ってどこかって言われても人それぞれだよ。金庫に入れて厳重にカギをかけるってやつもいれば、机の一番下の引き出しの奥に隠すってやつもいるしさ。まぁ、ボクなら逆に目に見える場所に堂々と置いておくね。もしかして、この質問ってさっきの手紙と関係が合ったりする?
あ、その顔から察するにビンゴだね。ははぁん、キミ爺さんに面白そうな『遊び』に付き合わされたんだね、また。死んだ後もキミを振り回すウチの爺さん、ただもんじゃないよね。まぁ、ただもんなら、こんな近くの町まで、遠くてさ、やっかいな山まるまる買い取って、学校立てたりなんかしないよね。おかげで、親族でわざわざこの学校継ぎたいつて奴あんまいなくてさ、末っ子のボクが継ぐことになったよ。
あはは、まさか。人聞きが悪いなぁ。せっかくのボクの明るくクリーンなイメージが台無しじゃないか。いくらボクでもそんなに腹黒くないよ。そもそも、この山のことちゃんと知ってるやつはさ、面倒だから手出しなんてしまいよ。ただ、ちょっと頭が金にしか行かない残念な奴が口出しとか手出しとかして来ようとしたから、封殺しただけだよん。こんな面白いおもちゃ箱、だれがそうそう手放すかっていうんだ。そもそも、祐二叔父さんじゃあ、一月持たずに学校が無法地帯になっちゃうよ。
それに、祐二おじさんがもし、引き継いだとしたらその後継って、聡一のやつでしょ。あの堅物に、この学校の面白さなんて理解できないだろうしさ。あいつなら、爺さんとキミが娯楽半分、必要性半分で創立したあの部活なんて絶対予算降ろさないだろうしさ。
え、まだあの部活があったのかだって。あるよ、ある。この学校創立当初から、あるんだもん。へたに陸上とか美術とかより長い歴史もってるよ。でもさ、こう世代? が代わるごとに年々入部適正者減ってくるんだよね。世知辛い世の中だよ。
まだ、あの適性試験を採用しているのかだって。うん、うんしてるよ。昔よりだいぶ嗜好を凝らしているけどね。入学しきっていいよね。所定の席に座れっていったら、初々しい新入生たちは指示通りに座ってくれるんだもん。おかげで、名前を特定しやすくて助かるよ。
もっとみんな面白おかしく生きればいいのに。ふふふ、でもね、今年はなかなか面白そうなものが見れると思うんだよね。キミもそう思わない?
ほどほどにしとけっていわれてもね。ほどほどじゃあ、何事も面白くないんだよ。それに、今年はなかなか面白そうだよ。例の部活の新入部員獲得争奪戦は現在進行形だけどね。ふふふ、ボクは手を緩めたりしないよ。ねっ、おもしろそうなことが起きる予感がするだろう。
お前が起こそうとしているだけだろうって。しないよう。だって、かわいいかわいい学園の生徒じゃないか。いいよね、若い子はさ、本当にまぶしいよ。
さぁ、若者よ。迷え、悩め、泣け、笑え、今しかない時を謳歌しろ。青春さ。