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呪眼師は今日も逃げ続ける

作者: 花黒子

映像用に作っていた台本です。

○雨上がりの合戦場

 矢が飛び交い、男たちの怒号が聞える。

「葦原暦356年」。

 草原で侍達が戦っている。

 武器は槍が多く、刀を振っている侍もいる。

 銃弾が侍たちを襲い、侍たちが倒れる。

 金髪の異国人の兵士たちが草原を横切って行く。

 戦いの最前線から遠く離れた場所で動く者がいる。

片目の青年(呆助)が、死んだ異国人の兵士たちの亡骸から金目の物を剥ぎとっている。

呆助「こりゃ酷い、こっちも、こっちもか。何にやられたらこんな死に方をするんだ?」

 呆助、死んだ兵士たちをたどっていくと大きな死体を見つける。

呆助「これは…呪い人形か」

 大きな死体(呪い人形)の皮膚はつぎはぎだらけで、無数の刺青が彫られている。

呆助「お前が、異国人をやったのか?おい、お前一人作るのに、城が一つ立つんだろ?いいのか、こんなところで寝ていて。葦原、起死回生の生物兵器も死んじまっちゃあ、おしめぇだなぁ」

 呆助、呪い人形の顔を覗くように上から見下ろす。

呆助「お前どっかで見たことあるような。まぁ、いい。俺の義眼がどっか吹っ飛んじまったんだ。お前のは高そうなのが入ってるんだろ?」

 呆助、死体の眼をくり抜き、自分の失った眼窩に入れる。

 グルグルと新しく入った眼を回し、正面を向く。

呆助「こりゃ、ピッタリだ。あれ?お前、その首から下げているお守りは…」

 大きな死体の首にはお守りがかけられてある。

 お守りにはオオカミの姿が描かれている。

呆助「そらぁ、御嶽のお犬様じゃねぇか?まさか…お前、佐吉か?うぅ…何だ目が」

 呆助、右目を押さえながら踞る。

 突然、呪い人形が動き、大きな手が呆助の足を掴む。

 呆助は手を振りほどき、一目散に駈け出した。

 呪い人形は起き上がる。

 呆助は銃弾が頭の上をかすめ、槍をかわし、戦いの最前線を走り抜ける。

 死体が跳躍し、呆助の行く手を塞ぐように落ちてくる。

侍1「逃げろー!呪い人形だ!巻き込まれるぞ!」

異国の兵士1「モンスター!!」

 辺りの侍と異国の兵士が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 呆助、仁王立ちの呪い人形の股ぐらをスライディングでくぐり、そのままの勢いで転びそうになりながら走りだす。

 呪い人形は大股で、呆助を追いかけてくる。

 呆助追いかけられながら、左目を手で隠す。

呆助「なんで見えてるんだ?」

 呆助の右目は充血し、黒目が赤く光る。

 呆助、急に走るスピードが上がり、草原から森の中に入る。

木々が生い茂る森の道を転がるように駆け出す。

呆助「なんだなんだ?身体がついていかねぇ」

 呆助、振り返ると呪い人形はまだ草原で、侍の矢や異国の兵士の弾丸を受けて足止めされている。

 道の脇に小さな鳥居がある社が見える。

社に逃げ込む呆助。


○森の社

 格子戸を閉め、外を伺う呆助。

呆助「はぁ~…」

 溜め息を吐き振り返ると、大きな白い蛇がとぐろを巻いて寝ている。

呆助「ひっ!…ん?」

 蛇の姿は薄ぼんやりとしていて、向こうが透けている。

 呆助、右目を手で隠す。

 社の中の蛇の姿が消える。

 左目を手で隠すと、透けた蛇が眠っている。

呆助「なんだよ、この目は」

 ザシュ、と社の外から泥の跳ねる音がした。

 呆助、格子戸から外を見ると、今にも呪い人形が格子戸を開けようとしている。

 後退りすると、蛇の尾を踏んだ。

 蛇が目を開けると同時に、格子戸が開いた。

 シャーっと呪い人形に噛みつく蛇。

 蛇の上顎と下顎をつかむ呪い人形。

 呆助、脇をすり抜け外にでる。

 

○森の社の外

鳥居のしめ縄を引っ掴み取る。

 呪い人形の背中を蹴り、社の中に入れ、しめ縄で格子戸を縛る。

 中では蛇と呪い人形が暴れまわる音がする。

呆助「すまん、佐吉」

呆助、逃げ出す。


○清ら川・中流域

濃い霧が立ち込めている。

「三年後」

深い谷に黒い橋がかかっている。

橋の袂には看板が立っている。

看板には「この橋は人ならぬ者の橋也、人は渡るべからず」と書いてある。

飛脚が汗を流しながら黒い橋を見ている。

飛脚が一歩、橋に足をかけ踏み出す。

飛脚「あああぁぁぁ!!!」

橋から落ちていく飛脚。


○清ら川上流・夜

 緩い谷の底に川が流れている。

川岸の砂利に焚き火が消えかかっている。

焚き火の側で呆助が毛布を被って眠っている。

ジャブジャブと川から音がする。

 呆助が毛布から顔を出して川を見ると、10歳位の少年が手掴みで川魚を捕ろうとしている。

 少年は魚を見つけても、一向に捕まえられる気配はない。

 呆助の右眼が光る。

 魚の動きが遅くなる。

 少年が魚を捕まえる。

 少年、呆助の方を振り返り、微笑み、魚を生のまま食べようとする。

呆助「待て待て、せっかくだから焼いて食べよう。今、火を起こすから」

 呆助、焚き火に息を吹き火を起こす。

呆助「しかし、こんな夜更けに魚捕りとは」

 呆助、魚捕りをしている少年を見ると、少年の向こう側が透けて見える。

呆助「ああ、そうか」

 遠くの山から木が倒れる音がする。

 少年が手を止め、遠くの山の方を向く。

呆助「随分、近づいてきたな。あれは俺の幼なじみだ。目ん玉盗んだから怒ってるんだ」

 少年はにっこり微笑んで、呆助の方まで魚を投げる。

 呆助は魚を掴んで、枝に刺し焼き始める。

 ☓☓☓   ☓☓☓

 呆助と少年は焼き魚にかぶりついている。

少年「うまかった」

呆助「そうか、ならいい。俺はそろそろ行くよ」

 呆助立ち上がり、頭陀袋に毛布を入れ肩にかける。

少年「魚焼いてくれて、ありがとう。川岸を下るのかい?」

呆助「ああ、そうだな」

少年「川、渡るなら早めにな。中流の橋は壊れてるし、鉄砲水がやってきそうなんだ」

呆助「そうか。ありがとう」

少年「船のおばちゃんによろしく」

呆助「船のおばちゃん…?」

 少年、呆助が振り返ると消えている。


○清ら川・中流域

 呆助が川岸を歩いている。

 徐々に谷の勾配が激しくなり、崖のようになっている。

 崖下には、川があり、川の流れの端に壊れた船がポツンと残っている。

 船の上には着物を着た中年の女性が乗っており、女性の姿は透けている。

呆助「あれが船のおばちゃんかぁ」

男の声「おい!止めろ!この橋は渡っちゃならねぇ!」

 呆助、下流の方を見る。

 茶屋の向こうに黒い橋が見え、橋を渡ろうとしている女を中年の男が止めている。

女「私の勝手だ!」

中年男「もう知らんぞ!」

 女が中年男を振り切り、橋に足をかける。

 女の足が橋板にかかることはなく、そのまま落ちそうになる。

 呆助の右目が赤く光ると、すごい勢いで女の元に駆けつけ、頭陀袋を投げる。

 女、頭陀袋を必死でつかむ。

呆助「そりゃ!」

 呆助、カツオの一本釣りの様に頭陀袋で女を吊り上げる。

 女、道に転がる。

中年男「あんた、今どっから現れなすった?」

 中年男、呆助を見て目を丸くしている。

呆助、茶屋の屋根をちら見。

呆助「おっさん逃げろ!」

 中年男を突き飛ばす。

 中年男がいた地面に短い矢が突き刺さる。

 女、うつ伏せで呻いている。

 呆助、道を走り抜ける時に女をひっつかんで、肩に俵のように担ぎ走る。

呆助「おい、狙われてんぞ!」

 呆助の頭陀袋に短い矢が2本刺さる。

 呆助、女を担いだまま森の藪の中に逃げこむ。

 藪の影に向け矢が突き刺さっていく。

 影が森の奥に行き、やがて消える。

 地面に降り立つ黒い影。

黒い影1「逃げられたか」

 もう1つの黒い影が隣に降り立つ。

黒い影2「追いますか?」

黒い影1「いや、一旦屋敷に戻ろう」


○森の中

 女を担いだ呆助、藪を抜け、枝をかき分けてどんどん進む。

呆助「追ってきてるか?」

女「いや、もう追ってきてはいないようだ」

呆助「あいつらは何だ?」

女「私の元仲間だ。そんなことより、もういい。下ろしてくれ」

呆助「あ、わり。飛ぶぞ」

女「飛ぶ?」

 呆助、森を抜け、崖の上から飛ぶ。

 女、呆助の手を思わず握ってしまう。

呆助「握ってろ。じゃなきゃこの高さ、死ぬぞ」

 女、下を見ると20メートルほどある。

 森の先に町の瓦屋根が見え、遠くにはうっすらと水平線が見える。

女「どうなってんの?」

 二人はゆっくりと落下している。

女「走馬灯?」

 蝶が二人の周りを飛んでいる。

女「夢か幻か」

呆助「俺の呪いだ」

 呆助の右目が赤く光っており、徐々に光りが失われていき、ただの黒目に戻る。

 二人は通常のスピードで落下する。

 女はしたたかに尻をうち、呆助は膝を曲げて落下の勢いを殺した。

呆助「よし、逃げられたみたいだな。じゃ、俺は行くから」

女「待て待て、私を置いて行く気?」

呆助「ああ、逃げられたからいいだろ?」

女「そんな、勝手に助けておいて、そりゃないでしょ!」

呆助「なに言ってんだ。お前のせいで二回も呪いの力を使っちまったんだ。これ以上助けてやる義理はないね」

 呆助、森を歩き始める。

 女、呆助についていきながら

女「その呪いってなんだ?」

呆助「うるせぁなぁ。なんでお前に教えなきゃなんねんだよ」

女「あんた、名前なんて言うんだ?私、朱火」

呆助「呆助だよ。もうついてくんなよ」

朱火「なんで?なんで私を助けたんだ?呆助」

呆助「気まぐれだよ」

朱火「気まぐれか」

 朱火、急に止まる。

呆助「なんだよ?」

 呆助も止まって振り返ってしまう。

朱火「なら、気まぐれで私に呪いを教えてくれないか?」

呆助「馬鹿かお前は!呪いなんてのはな、かかりたくてかかるようなもんじゃないんだよ。そんな奴はただの阿呆だ」

朱火「そんな阿呆に妹は呪いをかけられちまったんだ…」

 朱火、うずくまって泣き始める。

呆助「泣くなよ」

 呆助、朱火の近くにより、肩に手を置く。

 朱火、呆助の手を掴み握りしめる。

朱火「なら、助けてくれるか?」

呆助「汚ぇ!」

朱火「うん、と言ってくれるまで、もう絶対この手を離さないぞ!」

呆助「わかったよ」

朱火「良かった!さ、呆助こっちだ。とりあえず川を渡ろう!」

 朱火、呆助の前を小走りで走り始める。


○屋敷

 縁側に面した畳張りの部屋で、書道家が書を書いている。

 庭に、黒い影が二つ降り立つ。

 黒ずくめの如何にも忍びっぽい二人が片膝をついて頭を垂れている。

書道家「帰ったか」

黒い影1が頭巾を取り素顔を晒す。

黒い影1「逃げられました」

書道家「そうか」

 黒い影2も頭巾を取り素顔を晒す。

黒い影2「申し訳ありません。呪われし髪は手に入れられませんでした」

書道家「わかった。もうよい。そなた達は休むが良い」

黒い影の二人「はっ!」

 黒い影の二人、一瞬にして消える。

書道家「やっぱり、生身の人間は使えないのう」

 書道家、庭に下り立ち、咲いている紫陽花を摘む。

 三度指を鳴らし、指で空中に梵字を描く。

書道家がにっこり笑う。

 紫陽花が紫色の着物を着た女性に変わっている。

書道家「紫陽花や、お前なら橋を渡れるだろ。行ってきてくれるか?」

 紫陽花と呼ばれた女性が頷くと、ふんわりと飛んで行く。

書道家「さてさて、私も出かける用意をしようか」

 空がゴロゴロと雷を鳴らした。

書道家「一雨来そうだ」


○舟

 朱火と呆助だけが乗っており、船頭が櫓を漕いでいる。

船頭「最近、ちっとも見なかったがずいぶんべっぴんになって帰ってきたじゃねぇか、朱火ちゃん」

朱火「ええ、どうも」

 呆助、舟に寝転がって目をつぶっている。

船頭「妹のお竹ちゃんが病気になったと思ったら、母さまが中流のところの橋が崩壊した時に巻き込まれたって聞いたけど、えらい目にあったなぁ」

朱火「はぁ」

船頭「元気なくさないで、しっかりこれから生きなきゃなぁ」

朱火「へぇ」

 呆助の顔に雨粒が落ちてくる。

船頭「お、降ってきたな。ほらお前さん達、そこにある笠使ってくれ」

 舟の底に積んである笠を頭にかぶる朱火と呆助。

呆助「船頭さんのはどうするんだい?」

船頭「おらっちはこれよ」

 船頭、手ぬぐいを頭にかぶせほっかむりをする。

船頭「さぁ、ちょっくら急ぐぞ」

 

○岸

 二人、舟から降りる。

 雨がザーザーぶりになっている。

船頭「今日はもう終いだ」

 朱火、すでに道の先に歩き始めている。

朱火「呆助、早く!」

呆助「へいへい」

 呆助、朱火に付いて行く。


○橋の袂

 雨でぬかるんだ道を朱火と呆助が登ってくる。

 橋の袂には娘・お竹が座っている。

 お竹はすっかり雨に濡れている。

 着物から伸びる白い素肌に血の気がなく、震えながらただ目をつぶっている。

朱火「お竹!」

 朱火は自分の笠をお竹にかぶせ、体を擦って温めてやる。

朱火「お父はどうしたんだ?呆助、温いもの持ってない?」

 呆助、頭陀袋から毛布を取り出し、お竹にかけてやろうとして、お竹の後ろに回る。

呆助「おい!こりゃなんだ!?」

 お竹の髪の毛が橋まで伸びて、橋の全面に巻き付いている。

 呆助が橋に近づき、橋にさわろうとすると、髪の毛が蜘蛛の子を散らすように避けていき、橋板が消える。

呆助「この橋は、お前の妹の髪の毛でできてるのか?」

朱火「そう、これがお竹の呪い。お竹が流行病になってね。お母が薬をとりに橋を渡っていったんだけど、帰りに鉄砲水があってね。橋ごとお母は流されていったんだ」

 ☓☓☓  ☓☓☓

 朱火の記憶

 お母が橋をわたっている最中に、川上から鉄砲水がやってきて流される。

朱火「お母!!!!!」

 ☓☓☓  ☓☓☓

 戻る。

朱火「お竹の流行病は治ったけど、この壊れた橋の袂でずっとお母を待つようになったんだ。そしてあいつが来た」

 ☓☓☓  ☓☓☓

 朱火の記憶

 お竹の前に書道家が立っている。

書道家「あなたがお竹さんですか。ずっとそうやってお母さんを待っているんですね?」 

 お竹、頷く。

 書道家、お竹の髪を触る。

書道家「きれいな髪だ。お母さんも自慢だったでしょう。こんなきれいな髪の娘がいるんなんてね。…でも、橋が壊れてしまった。きっとあなたの胸の中にお母さんは生き続けてるんですよ。優しいお母さんがね。…あ、そうだ。橋が壊れてなければお母さんは戻ってくるかもしれませんよね。橋が壊れてなければ…」

 書道家、三度指を鳴らす。

お父「あんたうちの娘になにやってんだ!!」

 お父、お竹の元に近づき書道家を追い払う。

書道家「いえいえ、ちょっとしたおしゃべりですよ」

 ☓☓☓  ☓☓☓

 戻る。

朱火「それから、お竹はこうなってしまった。私は理由もわからず、書道家の元に行った。仲間になってお竹の髪を持ってくれば、呪いを解くと言われたよ」

呆助「それで裏切られて殺されかけたのか。ざまぁねぇな」

朱火「なぁ!呆助!お竹の呪いは解けないのかい?」

呆助「知らねぇよ。俺は呪われちゃいるが呪いの専門家じゃあないんだ」

朱火「そうか…」

 傘をさしたお父が笠と袋を持って登ってくる。

朱火「お父!」

お父「朱火!お前今までどこに!」

朱火「ごめん!お竹の呪いを解く人を探してて」

お父「この人がそうなのかい?」

 お父、朱火に笠を渡し、袋から握り飯を出す。

 朱火、握り飯をお竹に食べさせる。

呆助「いやぁ、俺はただ右目が呪われてるってだけの男です。娘さんの呪いは解けませんぜ…いや、ちょっと待てよ。お父さんもしかして壊れた舟を持ってやしませんか?」

お父「壊れた舟?私は昔、この辺りで船頭をやっていたから、昔は持ってましたけどね。今は持ってませよ」

呆助「いや、あれはきっと……そろそろ鉄砲水が来るかもしれない急いで川をわたって、上流に行ってください!きっとお父さんの壊れた舟にお母さんが乗っているはずです。お母さんをこちら岸まで連れてくれば万事解決じゃないか、と!」

朱火「呪いは解けるのかい!?」

お竹「痛いっ!」

朱火「お竹!」

 橋の上を紫陽花が軽やかに渡ってくる。

紫陽花「それは困りんす。その娘の髪は上様の者じゃ」

 朱火がお竹を守るように小刀を抜く。

紫陽花がクナイを投げる。

呆助「止せ!」

 朱火、クナイを小刀で払った瞬間に爆発し、吹き飛ぶ。

 呆助、朱火を受け止める。

お父「朱火!」

 煙の中から呆助が現れ、朱火を抱えている。

 朱火、気を失っている。

呆助「大丈夫。直撃は避けたみたいだ。ここは任せて!向こう岸に行ってくれ!」

お父「わ、わかった!」

 お父、下流へと走りだす。

紫陽花「わっちはこの娘がおれば良い」

 紫陽花は、小刀を持ってお竹に向かう。

呆助「そうは行くかい」

 呆助、いつの間にか紫陽花の後ろにいて、背中から紫陽花の身体の中に手を突っ込んでいる。

呆助「どうだい?ご主人様以外の奴に身体を触れられる気分は」

紫陽花「良いものじゃ、ございませんね」

 紫陽花、消える。

 呆助の手のひらの中には紫陽花の花が一輪乗っている。

 呆助、それを握りしめ川に捨てる。

 雲に切れ間ができ、雨が止み、夕日が差し込んでくる。

 遠くの山で木が倒れる音がする。

呆助「そろそろか」

 右目を瞑り

呆助「使いすぎたな」

 朱火、寝ている。

 ☓☓☓  ☓☓☓

 朱火、起きる。

朱火「お竹!」

呆助「今は寝てるよ」

 お竹、毛布を巻いて寝ている。

朱火「お父は?」

呆助「お母さんを迎えに行ってる」

朱火「じゃ、呪いは解けるのか?」

呆助「さあ?お父さんの腕次第じゃないか?そら、おいでなすった!しっかり妹守ってやんな!」

 クナイが飛んでくる。

 呆助がクナイを空中でつかみ、クナイに結んである御札を取って懐に閉まっていく。

 どんどんクナイが飛んでくる。

 呆助、右目が赤く光り、持ってる小刀でクナイを弾いていく。

 森から黒い影が飛び出してくる。

黒い影1「何故だ!何故爆発しな…あ!」

 黒い影の額にクナイが突き刺さる。

黒い影2「お姉さま!あ…あ!」

 黒い影2の腹に投げたクナイが2本突き刺さり、倒れる。

書道家の声「かかかかか、やるねぇ!君も呪われてるのかい?」

 書道家、ゆったりと坂を登ってくる。

呆助「悪いな。こっちも急ぎでねぇ。お前さんにかまってる暇もそうない」

書道家「そりゃ残念だ」

 書道家、しゃがんだかと思うと地面が爆発する。

呆助「上だろ?」

 書道家、空中に飛んでいる。

書道家「わかったところで、対処できまい!このまま姉妹もろとも吹き飛ばしてあげますよ」

 書道家、空中に梵字を書く。

 呆助、跳んで書道家の手首を切り落とす。

書道家「あああああああっ!!!」

呆助「お前、手から先がなくちゃ何もできないな」

 書道家、落ちる。

ない腕を押さえながら悶絶。

呆助「悪いが、起爆札貰ってくぜ」

 呆助、悶絶している書道家から起爆札を全て奪い取る。


○橋の対岸

呪い人形が森の木々をなぎ倒しながら橋に向かってくる。

 呪い人形、呆助を見つける。

呪い人形「うぉおおおおおおおおおっ!!!」


○橋の袂

 呆助、呪い人形を見据える。

呆助「さきちぃいいいいい!!!久しぶりだなぁ!!!」

 呆助、朱火に小刀を渡す。

呆助「いざとなったら、お竹の髪を切れ」

 書道家、呪い人形を見て怯えて、漏らしている。

書道家「なんだあれは!!大戦の呪い人形が何故ここにある!」

呆助「悪いな、あれは俺の幼なじみなんだ」

 呪い人形、ひとっ飛びで呆助の目の前に降り立つ。

 地面に張った起爆札が爆発し、崖が崩れ、呆助と呪い人形が谷に落ちる。

 

○川べり

 砂利に落ちた呆助と呪い人形が戦いを始める。

 右フックを避けた呆助が、呪い人形に起爆札を投げつける。

 呆助は、手当たり次第に、起爆札を投げつける。

 川の水柱が上がる。

 水柱の向こうに、舟に乗ったお父が見えた。

呆助「悪いな。佐吉、今日も俺の勝ち逃げだ!小僧、焼き魚の礼をくれぇ!」

 ズズズズという音が川上から聞こえたと思ったら鉄砲水がやってくる。

 呆助、書道家と同じように起爆札を地面に使い、飛び上がり、崖を走り上る。

鉄砲水が呪い人形を流していく。

舟がくるくると回って流されてくる。

黒い橋が流されそうになる。


○橋の袂

お竹の髪が鉄砲水に引っ張られる。

朱火「お竹―――!!」

 朱火、お竹の髪を切ろうとするも、全ては切れず、お竹が鉄砲水に持っていかれる。

 呆助、崖上りの途中で進路変更し、お竹に飛びつく。


○清ら川

 呆助、流されながら必死で水面に上昇し、手をのばす。

 その手を船に乗ったお父がつかむ。


○清ら川・下流・夜

 満天の星空。

 下流に一艘の壊れた舟が漂着する。

 朱火、全力疾走で駆けてくる。

 船の上には、お父と透けているお母とお竹が抱き合っている。

 呆助は肩で息をして、仰向けで倒れている。

呆助「疲れた」


○橋の袂・朝

 朱火とお竹とお父が、お母の墓を作り、お参りしている。

朱火のナレーション「あの後、すぐにお母は消えてしまった。呆助さんもうちで朝ごはんを食べたら、すぐに出て行ってしまった。呆助さんのおかげでお竹の呪いは解けた」

 

○清ら川・上流

 社が建っていて、団子がお供え物としてお供えされている。

 呆助、団子を取って、頬張る。

呆助「ったくよー。人使いの荒い川だぜ」

 呆助、去っていく。

透けた少年が、呆助に手を振っている。




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