欠陥小説
大好きな小説がある。
ある青年ーーアランが、四人の仲間と共に“幻の花”を探し出すというストーリー。
でもその“幻の花”を探し求めているのはアランではなく、彼の仲間であるミカドという女の子。アランはひょんなことからミカドと出会い、“幻の花”を探すこととなったのだ。
そうして“幻の花”を探し求めていくうちに、一人二人と仲間が増えていき、様々なトラブルにも巻き込まれていく……というもの。
主人公はアランとミカドのダブル主人公。タイトルは「アラン戦記」。
でも友達は本を読まないから、この小説について誰かと話し合うことができない。
……話したい。
アランとミカドの初対面のシーン、あのときのミカド格好よかったね。とか。
アランとミカドのやりとりはいつも面白いよね。とか。
アランの意外と仲間思いなところが好きなんだ。とか……。
ファンタジーだから読みやすいと思うんだけどな……。
そもそも話は面白いのに、そこまで人気があるわけじゃない。だから読まないのか? もっと人気になったら読むかな。
でも自分だけが知っている。
そういうのも悪くない。気がする。
「……無い」
そうは言ったものの、やっぱり人気が無いと、本屋で探すのも難しい。
今日は新刊の発売日。
学校帰りにいくつかの本屋に寄ってみたが、未だ発見できず。
また数日後に来てみるかと諦め、家へと向かって歩いていると、一件の本屋が目についた。
本屋というより廃墟一歩手前、と言った方がいいような怪しい建物。
でも看板には“BOOK”と書かれているし、本屋なんだろう。
初めて見る店だ。
朝は……無かったよな、こんな店。
通学路にあるから気付く筈なんだけど……。
不思議に思いながらも、恐る恐る中に入った。
薄暗くて少し埃っぽい。
やっぱり“新しい店”というより“潰れかけの店”と言った方がいい。
「……いらっしゃいませ」
不気味な店内に、無愛想な店員。
本は諦めて今すぐ外に出ようとしたとき、ふと目についた棚。
「あ……!」
あった! 「アラン戦記」の新刊!
すぐさま手に取りレジに直行。
数秒前は気味悪がっていたというのに、本が見つかった途端、現金なことに素晴らしく思えてきた。
ウキウキした気分で店を出て、早足で家に帰る。
靴を脱ぎ捨て、鞄も放り投げ、制服のままベッドに座る。
少し乱暴に袋から本を取り出して、表紙を見つめる。
新刊である六巻の表紙は、この巻で新しく出てくるのであろう双子のキャラクターが描かれていた。
この双子が一体どんなキャラクターなのか、ワクワクしながらページをめくった。
「……え?」
そこにあったのは、並べられた活字なんかじゃなく、ただの白紙。
ペラペラと数ページめくってみても白紙が続くだけだった。
欠陥どころの話じゃない。
今すぐ取り替えてもらわないと。
そう思いベッドから立ち上がったとき、本が光り始めた。
「……っ!?」
光はじわじわと広がっていき、僕の体を包む。
「な、何これ……え? え!?」
怖くなって本を床に投げ捨てると、カッと光がより一層強くなった。目も開けられないくらい、強く。
「ーーい…おい!」
そして次に目を開けた時、僕は知らない人の上に跨っていた。




