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言いたいけど言えない  作者: 春夢ゆかり
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2.出会い

数学の教師、峰本悠史(みねもとゆうし)

大学を出たばかりの新任だが、私は去年の夏ごろから彼のことを知っていた。


図書委員になった私は司書の波野久美子はのくみこさんと仲良くなり、委員会の集まり以外でも放課後に図書の仕事を手伝っていた。

本棚の掃除をしているときに司書室でバーコード管理やデータ入力をしている彼を紹介された。


「あれ、私の甥っ子の峰本悠史。大学がないときにバイトしてもらってるの」

「峰本さん?」

「もし、私がいないときがあったら悠くんに聞いてね」

「わかりました」


第一印象、眼鏡をかけた大学生。

なんだか無口そう。

それから何回か彼を見かけることはあったが話したことはなかった。



「サボりか?」


そして最初に言葉を交わしたのは半年前の12月の寒いある日。

入学してから一部のクラスメイトからの陰口やちょっとしたイタズラ……簡単に言えばクラスに馴染めなかった私は、単位が足りるようにちょくちょく早退を繰り返しその日も5時間目には出ず空き教室で少し時間をつぶしていた。

授業開始から15分が経ったので帰ろうと思い教室を出て廊下を歩き右折しようとしたところ、前方から声をかけられた。


窓から見える運動場を眺めていたため前なんか見ていなかった私は視線をすぐに移動させて、声の主を確認した。


それが彼だった。


「……峰本さん」


正直、焦った。

病欠での早退なら荷物を取りに行ったとしても、また保健室に寄ってから帰らなければならない決まりがある。

私のいる場所から保健室に行くにはこの廊下を使うには遠回りになってしまので、私が早退じゃないことがわかってしまう。

これが教師だったら指導室に直行か教室に強制連行だったはずだ。

けれどバイトの大学生には何の権利もない。

私は逃げれる!そう心の中で答えを出し、逃げようとする私を余所に本を何十冊も持っている彼は首をかしげ


「お前、えーっと、瀬良?だっけ?」


私の名前を呼んだ。


「あれ?違う?」


……えっ?

名前を知っていることに驚き、言葉を返せず突っ立ってる私に「よっこいせ」と本を持ち直しながら近づいてきた。


「瀬良だよね?伯母さんとよく話してる生徒」

「は、はい」


で、でかい。

いつも座っている彼を間近で見たら予想以上に大きかった。


「サボるなら手伝ってくれないか?」

「…へ?」

「どうせ司書室には教師は来ないからな」


ぽかーんと見上げている私を余所に「な、いいだろ。はい。」と手に持っていた本を数冊渡してきた。


「え、あの、峰本さん?」

「なんだ、用事での早退か?」

「えっと、その…」


展開に頭が付いて行かずどう返事をしたらいいか分からず返答に迷う。

はい!サボりです!……なんて言っていいの!?

本当のことを言っていいのだろうか、クラスにいたくないからって。

迷いに迷った私は思わず正直に言ってしまった。


「…サボりです。」

「よし、じゃあ手伝ってくれ」

「…はい。」


考えるよりも先に口から言葉が出ていた。

何事もなく前を歩く峰本さん、よくよく考えたら教師じゃなくても普通は注意ぐらいするのでは?

この人、なんなの?

久美子さん、あなたの甥はサボってる女子高生を手伝いに誘う子ですよ!?

ぐるぐるした思考はよくわからない発言を生んだ。

階を一つ登ればすぐに図書室があり、司書室は図書室と中で繋がっているが廊下から入ることも可能である。

慣れた手つきで鍵を開けた峰本さんは「はい、どうぞ」と私を招き入れた。

司書室に入るのはこれで二回目だ。

一回目は久美子さんにお菓子を貰った時だ。


「お邪魔します」

「その辺に本置いて、荷物はそっちの机に置いていいから」


示された机には本が山積みになっており空いてるスペースに本を置く

手伝うって言っても何をしたらいいかわからないぞ。

カバンと脱いだコートを畳んでいると後ろから話しかけられた


「瀬良さ、伯母さんに話してただろ」

「はい?」

「学校に来たくないとかクラスが嫌いだって」

「あ…」


振り返って見た峰本さんの眼鏡の奥は叱る目ではなく、親戚のお兄さんのような優しい目をしていた。

そうだ、前に久美子さんに話したことがある。

ちょっとした愚痴程度にぽろっと話したらいつでも聞くわよ、とお菓子とともにそんな言葉をくれたことが。

でも何で知っているの?

私の疑問を含んだ視線に答えるかのように話しを続けた。


「前から瀬良が早退してるの見たことあって、最初は用事だと思ってたけど伯母さんにそのこと聞いてから納得した」


あ、久美子さん話してたんだ。

だが、それを知られても不思議と嫌な気持ちにはならなかった。

これが担任とか指導担当だったらとてつもなく不愉快な気持ちになっていただろう。

…ひょっとして心配してくれたのか?ただの生徒を?

そんな漫画みたいな嬉しい響きが出てきたが次の彼の発言は予想していなかった。

「だから…」と続けて山積みになった本を指さし、笑顔で言い放った。


「今度からサボるならここに来て手伝えよ」


「…あ、はい」


(なんでそうなる!?)

思わず返事してしまったが心の中で叫んだ。

あの流れだと「話し聞くぜ?」とか慰めの言葉が来るのでは?


久美子さん、あなたの甥は最初から手伝わせるのが目的でしたよ!!



これが私と彼、峰本悠史との出会い。



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