魔法少女 5
「ど、どうして……え? 源くん……えっ?」
困惑しきった声。表情もいつも以上に眉が垂れ、そのうちうつむいたまま動かなくなってしまいそうなほどの狼狽っぷりだった。
帚木こころ。なんの変哲もないと思っていたはずのクラスメートが、あからさまに『特別』な身形で『特別』なところを見せ付けてくれた。そのショックに真那も魂が抜けそうなほど戸惑っていたが、とりあえず会話をすることにした。
「えっと、寒そうなカッコ、だね……あー、っと、良かったらこれ着てよ」
ずれたセリフだと頭では理解していたが、気の利いたセリフも状況に則した言葉もなにひとつ出てこない真那は制服のブレザーをこころへと突き出した。
「あっ……あの……ありがとう、ございます……」
こころも、様々なことを横に寄せて、真那のずれた気遣いを受け取るというこれまたずれたことをする。
お互いの間に奇妙な空気が流れる。
そもそも、ふたりは特別親しいわけでもなく、なにか用事があれば二言三言交わす程度の間柄だったのだから、いきなり特殊すぎるシチュエーションで向き合うことになってもまともな受け答えができるはずもなかった。
気まずげなこころは、癖なのか両手の五指を突き合わせてもじもじ。ついでたどたどしく切り出した。
「源くん……! は、その……私が認識できる……んです、か……?」
「え? それってどういう……?」
問いが唐突だったこともあって、答えにつまづく真那。
言葉通りに受け取れば、今目の前にいる女の子のことを意識できるかということだろうが、むしろ意識していなければこれほどまでにドキドキすることもないだろう。
「認識? できてなかったらこうして話すこともできない……よね?」
「あっ。そう……ですね……ごめんなさい、ヘンなことを聞いて……」
そうして、またお互いに気まずくなって沈黙する。
もどかしい空気を破るものは、はたしてふたりのうちのどちらでもない、乱入者によるものだった。
「おふたりさん、甘酸っぱい空気はまた別の機会に頼むよ」
小路の横、塀の上から降るどこか間延びした声。
真那が視線を向けるが、しかしそこには誰もいない。――否、人はいない、が、一匹の黒ネコがいた。
「え……今の……?」
「私さ。こんばんは、少年。まだ早い時間とはいえ、子供の夜歩きは感心せんがね」
間違いなく、黒ネコがしゃべっている。立て続けに起こる不可思議な出来事に真那の脳はキャパシティオーバーを起こしかけていたが、難しいことはいっそ考えないことにしてなんとか振り切った。
「あ、すみません……。えっと、その、なんと申していいやら」
「そう畏まることはないよ、親愛なる友人。どうやらキミは、むむ……とても不思議なチカラを持っているようだね?」
おどけるような口調の黒ネコの言葉に、いやでも首が角度をつけていく。
横目に見えるこころも同じように首を傾げている様がどうにも可笑しくて、真那はすこしにやりと笑ってしまった。
「こころも、ご苦労様。大変遺憾ではあるが、見られて、そして知られてしまったからには仕方ない。少年には事情を理解してもらった上で口止めするとしようか」