魔法少女 2
午後最後の授業を終え、帰り支度を済ませていると、不意の来客があった。
気配に真那が頭を上げると、申し訳なさそうな顔がそこにあった。
「どうかしたの? 帚木さん」
真那の隣の席の女子生徒、帚木こころだった。こころは両手の五指をもじもじと擦るように合わせて少しうつむくと、ぼそっと呟くように切り出した。
「えと……その、源くんにお願いがあって、迷惑じゃなければ……と」
注意して聞かなければ逃してしまいそうな声量で、ざわめきだした教室内では不適当な声だったが、真那はなんとかか細い声を拾い上げて返す。
「お願い? えっと、内容にもよるけど……」
「あっ、あの、実はその……今日の清掃当番代わってほしくて、その……」
「清掃……帚木さんは今週は実習棟だっけ」
「う、うん……あのっ、他の人はいつも来てくれなくって、私ひとりだったんだけど、今日はその、どうしても外せない用事が急にできちゃって……こんなこと、頼めそうなのが源くんしかいなくって……ごめん、なさい」
こころが同じ班の女子によく当番を押し付けられていることは知っていたし、こころが意味もなく自分本位な理由から他人に仕事を押し付けられる性格でないことも知っていた。そして、なにより真那はお人好しであった。頼まれ事を無下にはできないくらいに。
「そういうことなら……用事があるならしかたないよね、はは」
「……あのっ、ほんとうにごめんなさい。このお礼は、いつか……かならずしますから……」
眼鏡がずれるほど勢いよくお辞儀をしたこころは、最後に目で会釈をして、急いだ様子で教室を飛び出していった。疑ってはいなかったが、火急の用事というのは嘘ではなかったようだ。
珍しく女子と長い会話をしたことで気疲れした様子の真那はそのまま崩れるように椅子にもたれ、しばし動けないままでいた。