あなたがいなければ
どうせなら、世界が無くなれば良かったと思う。貴方がいたから私は、この世界に生きることになった。子供の私はただ楽しかった。だけど、貴方は消えた。私を置いてきぼりで何処かへ行ってしまった。世界は終わらずに、ただゆっくりと過ぎていく。終焉に近づいていく。それならいっそこの世界がーーーーー
「ねえ、琴音。魚、焦げてるわよ」
海の呼び掛けでハッと我に返った琴音は急いで火を止めた。
「どうしたの?貴方、いつもより元気が無いわよ」
「ごめんね、何か嫌な予感しかしなくって…」
海は口を尖らせた。そして、琴音の服を掴んで外へ連れていった。乾いた風が2人の髪を靡かせる。階段に腰を降ろした。
「琴音のそういった現象をよく見るけど、その時の貴方の顔、凄く悲しく見えるわ。嫌な時は、愚痴ればいいのよ?悪口にならない程度に」
そうね、と小さく笑う琴音。
「そろそろ喋らなければならないと思っていたの。聞いてくれるかしら…?」
ええ、と頷く海。琴音は目の前に広がる湖を見た。
私の場合は魔法の積み重ねから魔法使いになった混血種の魔法使いだった。だけど、ただ魔法というものに出会うにもきっかけがいるもの。私が魔法に出会ったのは、約10年前位。丁度中学生になりたての頃だった。何気無い生活を送っていた時に私を魔法使いにした男の子に出会った。学校が合併だから、その時に彼に同じクラスで出会った。だからといって初めから私を魔法使いにした訳じゃないわ。でも彼は魔法使いではなかった。普通の人間だったの。
「魔法使いの理由が掴めないわ」
そうね、彼と私は学年で成績争いが激しかった。いつもテストの見せあいとかして仲が良かったのよ。いつしか私達は友人としてよりも親友に近くなった。そんなある時、彼は言った。
『魔法使いにならないか』
魔法とは科学では証明できないもののこと。科学のあるこの世界で魔法なんてふざけたものを信用できなかった。けれど、彼は本気の目をしていた。最初は面白半分で話を聞いていた。
「海ちゃんは幽霊とか信じるタイプ?」
「しっ信じてるわ。信じたくないけど」
同じことよ。幽霊は科学で証明しようがない。魔法も科学で証明できない。だから存在しないということは決して否定はできないのよ。科学で証明がどうとかじゃないって彼は言ってたけど。話は戻るけど次第に私達は魔法の原点について発見するようになった。まだ見つかっていなかった石碑や遺跡。あちこちを探し回った。
「貴方、若いのにそんな所行くお金あったの?」
彼のお父さん、凄い資産家だったらしいわ。まさかお金持ちだと思わなかった。いつしか遊びからそれが存在意義みたいなものになり、そして、魔法についてのほぼ半分はその頃に分かってしまった。同時に……
「いなくなったのね、その男子」
その家全て消えていた。きっと知ってはいけないことだったのかもしれない。今私達がしていることは禁断の技術。人間は武器を使いたがる。同じように魔法も見ては資産家のお父さんも悪用したかったのかもしれないわね。日は経ち、私はまた普段の生活に戻っていた。彼の席はなくても。だけど同時に世界の様子も本当は一変していた。
「世界的暗黒時代みたいなやつ?」
比喩が上手いわね。丁度10年前の問題のものよ。資源の枯渇、失業者の急増、環境問題…。私は不思議な力で何とかしたいと思った。結局はどうにもならなかったけどね。アテンダントの開発があったから。止まりかけの歯車から新たな歯車を人間は生み出した。しかも1人の力で。私は何も出来なかったけど、暫くした後に玄の魔法使いが知らない内に私を本当に魔法使いの世界へ誘った。私は魔法使いになったけど、彼が今、何処で何をしているかは魔法でも分からない。それは科学でも。
「私の希望は彼が何になっていても構わない。ただ、私を覚えてくれて生きていたらそれだけで十分よ」
「貴方、知らない内に恋してるわね」
その瞬間、琴音の顔は一気に赤くなった。
「まあ、大体の素性は分かったわ。もう元気出してアテンダントと戦うのよ?」
お互いに顔を見合わせ、微笑んだ。階段を登り、再び部屋に戻ろうとした。空は薄い雲のかかった日差しの良い晴れだった。
貴方が例えどんな姿でも構わない。味方でも、敵でも。だけど、これだけは忘れないでいてくれたら私は嬉しいな。
貴方がいなければ今の私はいない
貴方がいたから今の私がいる
世界がいつ滅んでも私は貴方を忘れない
だから…………