素の魔法使い
「しかし、ヘリの中は無人ポッドだとは思わなかったな。流石機械のプロフェッショナル、俺もお手上げだね」
何を言ってんだ、この鳥頭。こんな風に思った人にご説明します。意味分かってても聞いてね。さっき、馬鹿みたいな魔法で鳥頭はヘリコプターを墜落させた。けれど、中の様子は無人で、あったのはただの四角い機械のみ。その機械が、電波とかでヘリコプターを操縦し、ウイルスもといデータチップを撒いた訳だ、ということです。
「しかし、この倒れた人々はどうしよう…」
「その心配は無用です」
背後には、白音さんがいつの間にか仁王立ちをしていた。隣には、白音さんの使い魔も居る。インド人みたいな格好で、肌も小麦色をしている。名前は………忘れました。
「白音さん!」
「此処にいる皆さんは全て、蒼の魔法使いが戦闘中、私の魔法で回復させました。暫くすれば、目覚めるでしょう」
ああ、良かった…。不意に頬が弛む。
「ちーちゃん!」
琥珀が駆け寄ってくる。だが、見たことの無い2人に、少し怯えた表情をした。
「あーっと、貴方達は……」
「申し遅れました。私、素の魔法使いこと、暁 白音と申します」
「お初にお目にかかる、琥珀殿。我は、暁殿の使い魔、鷲爪と申す。以後、お見知りおきを」
あっ、いろりちゃんがわしわしって言ってたな。真摯に対応する2人に、琥珀は顔を赤く染めた。あたかも犬みたく大人しくなってしまう。
「さて、朱の魔法使い。雷幻魔法は完成したのですか?」
「いや、何なのかさっぱり分からなくて…」
「案ずることはなさそうですね。どうやら、完成した試しがありそうに見えます」
白音さんは、じっと私を見つめる。はっ、恥ずかしい…。何せ、白音さんは女子勢で一番綺麗な女性。これで、もうすぐ三十路か…。あっ、今少し睨まれた気がする。背筋が寒いよ。
「物理魔法の修業をしたいのでしょう?」
「はっ、はい。蜂鳥に見てもらうつもりなんですが」
白音さんはちらと鷲爪を見た。鷲爪は穏やかそうにしていた。よく暑いと思わんな。そして再び、視線は私のほうに向いた。
「では、短時間で1つ、強力な魔法を教えましょう」
「よろしくお願いします!」
「前置きですが、今から教えるのは雷属性ではありません。ましてや光属性でもありません。強いて述べるならば、水でしょうか」
みっ水?私も白音さんも専門分野ではない水?どういった風の吹き回し?
「正確には、嵐を起こす、とでもいうべきでしょうか」
「どっ、どうしてそんな水属性なんかを…?」
「この間、蒼の魔法使いが話した無情ウォーリアを覚えていますか?」
私は思い切り頷く。白音さんは、私を何故か指差した。
「都熊 茅緒が案の定、無情ウォーリアになりました」
「何で彼奴…!?」
「遠坂 昌也に、より努めたい、より守りたい、という願い、そして7人の魔法使いと接したことが都熊の背中を後押ししたのだろう」
鷲爪は穏やかに目を細める。白音さんが言うべき台詞を何故、今鷲爪が言ったんだろう?まあ、今は特に気にすることないけども。
「都熊 茅緒は大切な味方になる可能性を秘めた星の欠片です。私達が掬わなくて、何になるのですか?」
まっ、まさか白音さんと連携を取れるの!?夢にまで見た白音さんとの連携。それは何としても決行だ!
「やっ、やります!私、難しくても出来そう!」
白音さんは今、薄く笑った気がした。
「あーあ、やっぱり無茶だったかな」
星の間では、凄惨な悲劇が起こっていた。彩奈は瀕死状態に、琴音もやっとの思いで立っていた。無論、幾ら無情ウォーリアと言えど、都熊も疲れきり、息を切らす。しかし、隣でただ傍観するライドは笑顔のままだ。
「こうやって、魔法使いも人間も儚く散りゆく。貴方だってそう思うでしょう?翠の魔法使い、御坂 琴音さん?」
肩で息をし、返す言葉をなくす琴音。ゆっくりと、ライドは琴音に歩み寄り、耳元に顔を近付けた。
「君の唯一無二の友人の居場所、教えてあげようか?」
天使の囁きに琴音は、目を大きく見開いた。そして、ライドの方を振り向いた。変わらず、ライドは笑顔のままだ。
「何を貴方は……!」
「おっと、やはり信用してないようですね。実際に俺はウォーリアですし。だけど、これでも俺は貴方の友人とは仲良くさせてもらってるんですよ」
少しは敵ながらも信用してくださいよ、と溢し、小さくライドは苦笑する。しかし、琴音はずっと睨み続けたままだった。それでも、琴音に弱さが垣間見えている。その弱さに奴は目を光らせるのだった。
「じゃあ、こういうのはどうですか?貴方はそこにいる仲間を捨ててください。そうすれば、俺は彼奴にも指示しますし、貴方を連れていける。別にマスターのもとへ出すわけでもありませんし、味方になる必要もありません。ただ、親友を見てどう思うかは貴方次第ですが」
彩奈を見過ごすだけで、敵の本拠地に堂々と立ち入れる。そんな機会を敵はこれ見よがしに言うのだ。心が無い癖に、機械がよくほざくわ。そう強く思う琴音だが、実際には動揺している。魔法でも、科学でも探せなかった親友に会える。
「………っ笠間君……」
「ああ、昔から名前は偽名にしない主義でしたもんね、彼。例え、親が名前を捨てたとしても」
すると、相手は茅緒の首を叩き、そのまま気絶させた。重いからか、片手で引き摺ろうとしている。茅緒から溢れる血は、星の間では何も映らなかった。
「期限は3日までです。それ以降は何もしませんよ。もし心に決めたのならば、アテンダントの正面ゲートにて待っててくださいね」
そうして、砂嵐の音と共にプツンと消えた。




