探し物は何ですか?
昼御飯は机にあったハヤシライスだった。ここに来てハヤシライスも笑えるなあ…。
「橘の料理は相変わらず美味いね」
黙々と奴はハヤシライスを口に運ぶ。うん、確かに美味しい。だがっ!!
「イケメンお兄さん…修業しないなら家へ返して…」
「却下だね、八重樫。君が馬鹿な位は百も承知だ」
「もうっ!鳥頭なんかバーカッ!」
吹っ切れた!この家から出ていってやる!ということで無造作にドアを閉めていろりちゃんの家を後にした。のはいい。私は構わない。どうせ晩御飯は探さなきゃいけないんだ!だけどなあ……
「ブラジルってポルトガル語だよね…?」
いや私は日本語オンリーだから分からないよ?だからって前に出てきたあの魔法道具は通じない…。通訳みたいな魔法も知らない…。ヤバい、何処で御飯食べよう!あんな家の飛び出し方じゃもう無理だよお…。
「あのお…」
無論、通じない。うわーっ!!どうしようー!
「あのお…」
「はい?」
なぬっ!?貴公は日本語が通じるのか!?あ、考えたら1番日系人が多いのはブラジルだって言ってた…。じゃあ通じるよねっ!
「O que para alguma coisa?」
…………え、何て?ねえ、何て言ったの!?やっぱり通じないの!?
「あっ、すみません。日本の方ですか?」
つっ……通じたああああ!!日系人キターーー!!!!!
「すみませんー…晩御飯が無いんです…」
「あら、でもホテルの方じゃ…?」
あーん!ホテルじゃないよ!!晩御飯無いじゃ通じないよおー!
「たっ旅人です…?」
じゃないよ。私は朱の魔法使いだよ。まあ、近いけど…。
「まあ、だったらうちに泊まってらっしゃい。私は1人暮らしだから」
「ありがとうございます!私、何でもします!!」
まあ、嬉しいわ、とにこやかに女性は言う。晩御飯もうこれでいける!やったー!よおし、暫くは帰らなくて済みそうだ。
「へー!なっつんちょっといけずなのー!」
一方、いろりの家では穏やかなティータイムが。
「雷幻魔法の修業はこれが本命だということを八重樫は気付かなかった。まあ、家を出ていくのも想定内。更に、」
「なあに?」
「精霊騎士団が潜んでいるのも確か。この地域に陰険な空気が漂っているよ」
あー…といろりは少々黙りこむ。夏彦はちらと外の窓を眺めた。すると、途端に立ち上がった。
「どっどうしたの!?」
「…………不味い、嫌な魔力を感じる。八重樫が危険かもしれない」
「ふぇっ!?」
女性の家にやって来た。何かタペストリーっていうのか分からないけど凄い編み物だ。人間業じゃないと思う。魔法でしょ、これ。
「ああ、そういや貴方さっきお願い聞いてくれるって言ってたわね」
「ええ、まあ…」
「毎日やって来る訪問者がいるの」
訪問者、ね……。確かに、何か嫌な雰囲気漂っている感はする。これはあまり良くないな…。
「毎日来ては帰ってってするのだけど……追い払ってほしいの」
って、ちょいちょいちょい!!確かに願いは聞くよ!?だけど貴方より小さい普通な女子にそれはちょっと……。
「まあ、出来ることはやりましょう」
「ありがとう!嬉しいわあ」
満面の笑みを見せる女性。あ、名前を訊かねば。
「ところで、貴方の名前は?」
「あら、ごめんね。改めて私の名前はコロンよ。よろしくね」
「あっ、私は八重樫 千里って言います」
そして私達は握手する。焦茶の肌に長い黒髪。優しい日系人みたいな雰囲気だ。意味分からないって?ごめんね、私の表現が下手で。
「それで、訪問者の特徴は?」
「うーんと、恐らく男性かしら?でも、包帯を巻いているのよ。何から何まで」
「包帯?何も見えないの?」
「1度だけ肌色が小麦色だったのを見たわ。でも顔も身体もはっきりとは…」
うーん、これは該当が1つですね。包帯ぐるぐるとかミイラじゃあるまいし、時代も時代だけど、私は1度だけそいつを見た気がする。あの連行されたとき。7人に混ざった1人だった。奴は、まさに。
「ウォーリア……か」
「あ、でもウォーリアは良いのじゃ…」
すると、玄関からノック音が響いた。ゆっくり、ゆっくりと。嫌な予感を感じさせる音だ。
「出て、」
とコロンは小声で私に合図する。精霊騎士団に当たる気がして少し嫌な予感がある。私は静かにドアを開けた。
「朱の魔法使い、だな」
その低音の声は私を一気に震い上げさせた。やっぱり訪問者は精霊騎士団だったんだ。また連行されるのは御免だよ。
「………家の方がお困りのようです。引き下がってはくれませんか」
自然と体に電気が走る。駄目だ、落ち着いて。攻撃の隙は見せないように。
「悪いが、引き下がることは出来ない。特に貴様を見てはな」
包帯の男は軽く私の額を付く。何が…………っ!!石畳の床に結構な量の血が零れる。何をしたっ…!?
「忘れては無いだろう?マスターには時間が無い。今一度…」
「さっきからよく喋るね、精霊騎士団の方。八重樫を連れていく?」
冷たい声が玄関に響く。崩れるのをやっと振り向くと蜂鳥が壁にもたれ掛かっていた。何で……?
「八重樫は暇じゃないんだ。それにお互い……ね?」
男は黙る。蜂鳥の目もかなり本気の視線だ。私が敵ならきっと怖がるだろうな……。結局、男は何も言わず玄関から立ち去った。駄目だ、力が出ない…。
「立ち込めし兆しに永久の定めに近きことが、餞の面影を今一度、取り戻せ」
極大魔法…じゃない?私の倒れこむ床から浮かぶ茶色の魔方陣。みるみるうちに容態は良くなっていった。
「今のは?」
「この間、古都橋にも見せた開発中の魔法。極大魔法と小魔法の間、名付けるなら抽象魔法かな」
また新たな魔法が出てきた…。何だよう、抽象魔法って!
「ほら、小魔法は瞬発力には長けているけど、力が弱いのが弱点だ。反対に極大魔法は遅いけど、力はその分応えてくれる。どっちもの長所を出来るだけ組み合わせた魔法、それが抽象魔法」
魔法オタクか、こいつは。とりあえず、感謝の気持ちはあるから。
「………ありがとう」
「え、何て?」
「………死ねっ!」
再びの平和がまた舞い戻った。だが、それはただのいたづらに過ぎなかったのだった。これからの惨事をまだ考えなかったから。