蒼の魔法使い
再び目を開けた。また別の世界が広がっていた。ペアの男女と………ん!?
「いろりちゃん!?」
てへ、ばれたぞっ☆と舌を出すいろりちゃん。何で!?その思いを裂くように1人の男が近づいてくる。でも何故かこの雰囲気を何処かで感じたけど……。
「八重樫……だったか。今はウォーリアが居ない。少し話を聞いてくれないか?」
「貴方達に話すことなんて何もない…」
あ、聞く方だった。チッ、ウォーリアに謝らなければならないのか。
「まあ、最後に聞いてくれ」
男は微笑した。哀れむように、同情するように。
「織幡 柚葉。僕の実姉は君をずっと愛していたようだった」
実姉!?何なの、ウォーリアでしょ!?ふざけんな!!
「指輪が証拠だろうか」
男は左の中指に填まっている輝く指輪を見せた。その指輪は、
「織幡家を示す指輪…!?」
「何でも柚葉姉は君に最後の意志を託した。それだけの魔法使いだと僕も思っている。ウォーリアに埋もれた世界を何とかしようと最後まで戦った。病死じゃないって叫んでいたよね?此所まで聞こえた」
「………うん」
「確かに柚葉姉は病死じゃない。最も誰が柚葉姉を迷宮に陥れたのかは未だ行方知らずだが…」
何が言いたいのだろう……?だけど、
「それはただのハッタリじゃないの?敵がああ、僕はウォーリアじゃないですよみたいなことを言って結局は嘘でしたごめんねで済ませるんだよね?世の中はそればっかだよ…」
「違う…僕は…」
「もうっ暗い話はそこまでにしようよ!」
いろりちゃんが駄々をこねる。だけど、この状態では何も仕様がない。
「もう、ちっちゃんー早くしてよおー…」
「何を!?というかこれ外してよ!」
やだー、と笑ういろりちゃん。裏切った……の?
「ちっちゃん聞いて?織幡 柚葉…だっけ?その人とワタシに関係は無いの。魔法を編み出したのは確かにそうだけど、やっぱりちっちゃんほど愛してやまないことは無い。だからワタシはアテンダントなんかも特に何も思ってないよ」
いろりちゃんはずっと笑っている。確かにアテンダントが世界をどうとしたって私達の生活が特別変わるわけじゃない。ウォーリアに刃向かう理由も別に無い。じゃあ皆は何のためにアテンダントを叩こうとしてるのだろう…?そういう疑問が1つ思い浮かんだ。
「その言い方は酷いよ…」
「構わないよ、橙の魔法使い。早急にあれをしてくれ」
男は話を遮る。いろりちゃんは手を挙げて床に魔方陣を描き出した。何処かで見たような魔方陣だこれ…………っ!!この魔方陣確か!!予想は当たり、線が黒く輝きだす。
「汝は八重樫 千里。動かし者は都熊 茅緒。我、視るもの視ないもの統べての因縁を断ち切りし刃となり、汝を新たなる者へと変化させる綱ともなれ。して今宵に汝を動かし者の従者と変貌させよ!ちっちゃん、バイバイ!また今度会おうね!!」
頭には数々の思い出が失われていく。柚葉姉の思い出も笑顔も消えていく。代わりに使命が過っていく。ああ、そっか。私は…………………
誰の為に今ここにいるのだろうか。
「頼むわよ…助けてあげてよ…」
星の間。魔法使いが本来住む世界の1つだ。辺り一面星が輝き、水面が地面の役割を果たしている。そこにも星が映るので星の間という名前になったのだ。傷を抱えながらも頼みに頼む琴音。腹部の傷はまだ癒えていない。その為に立つことも儘ならないのに、それでも頼んでいるのだ。
「儂からも頼むぞ…!お主が冷酷な男だとは承知の上だ。じゃが……」
銃弾の後を抑え倒れこんでいても同時に頼む彩奈。目の前には平然として2人の前を立つ男がいた。迷彩の上着に先端のみ黒く染められた髪。蒼の魔法使い、蜂鳥 夏彦。ただ2人を見下す様な目つきをしていた。
「…………その傷は?」
2人の傷を夏彦は指差す。2人共に苦い顔で視線を反らす。その姿に溜め息を漏らした。
「ずっと思ってたんだけどさ、何のためにアテンダントを潰すの?何処まで考えてもそれだけは答えが出ない」
「世界の危機なのによくもそんな…」
彩奈は唇を噛む。世界の危機ということが理解できないんだよ。そう睨み返す夏彦を見て琴音は何も言い返せなかった。
「10年前…か、あの出来事は。簡単に言えばあれだって世界の危機じゃなかったのか?確かに7人の魔法使いは古来から世界の秩序を正す為に存在したというよ。けど、ある奴がそうこじつけただけであってもともとはそういう意味が無い。だが、魔法使いは世界を救わなかったじゃないか。代わりに遠坂 昌也が救って………」
「………待ってる人がいるの…」
琴音は重い口を開いた。このことは言いたくなかったと思っていた。だが、夏彦は軽々と一蹴する。
「じゃあ、待ってない奴はどうする?」
「死にたいって言ってるのと同然にしか聞こえんな、夏彦よ」
彩奈は薄く笑う。
「お主は昔からそうやって意味の無いことに興味を持たない。いや、持とうとあえてしない。確かに、意味の無いことに魂をすり減らすような生活はしたくないかもな。だが、儂らには時間が余りすぎている。違うか?」
「…………………」
「純血種だから遠回りも必要なことになるんよ。儂は少なくともお主より180年近くは生きている。いずれ分かる、お主も。逆に普通に生きては何処かで倒れるぞ」
夏彦は何も言わなかった。そして、静かに部屋から消え去った。
「海ちゃん、琥珀ちゃんの容態は?」
海が水面から現れる。琥珀は強制的に千里とシャットアウトされたので寝たままなのだ。
「不味いわね…非常に。もって3日よ。全く動かないわ…」
悩みに悩んだ答えを返そうと考える琴音。だが、そういった解決法も全て夏彦でないと分からないのだ。無力だと改めて重い知らされた琴音はそうよね…と軽く呟いただけだった。
「決して琥珀ちゃんを別の魔法使いへ渡す訳にもいかないわ……だから残った方法は1つ…。千里ちゃんを取り戻すこと」
琴音はじっと願いを掛けるように両手を組んだ。