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赤の聖騎士  作者: ミロ
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暗い室内に、控えめな魔法光が5人の男女を浮かび上がらせる。

1人は黄色の軍衣。1人は黒色の軍衣。緑の軍衣に身を包んだ優男が1人。

1人は妙齢の女性。桜色の軍衣に身を包んでいる。

1人はまだあどけなさの残る少女。青い僧服に身を包んでいる。

その少女が口を開く。

「コンラート」

「……は」

コンラートと呼ばれた、黒い軍衣に身を包む巨漢の男が立ち上がる。

「バスティーラ南部のオーガは、本軍が別にあると」

「はい。40から60体からなる本軍が確認できています。ロードがいることも確認しています」

うっそりと状況を報告するコンラート。

彼はフィアーセ軍を統括する将軍である。その巨漢に似合わず、繊細な兵の運用はパズルを組み立てるように味方を勝利に導いていく。

「私たちが出張っていくには、いささか規模が小さいな……ふむ」

少女が顎に手を当て、考え込む。

「……バスティーラね……ふむ」

「む、フィアーセ軍はこの規模では出せませんぞ。この規模で出ていたら、教圏国にいらぬ警戒心を抱かせましょう」

確かに、フィアーセ軍は強力な軍隊だ。それだけに、いちいち教圏内をうろうろしていては、疑念を抱かせるであろう。

「……私が出ましょう」

ガタリと椅子を鳴らして立ち上がったのは、黄色の軍衣に身を包んだ男。

「エスティヴァン。か。まあ、貴方だけでオーガはどうにかなりそうだけど……バスティーラからも兵を出してもらって片付けるか……うん。エスティヴァン、頼んでいいですか? 『赤』のことですけど」

目を見開いて、少女を見直すエスティヴァン。

「やはりあの男が赤の……ですか。ディアーナ様」





「……ああ、彼が40代聖者、最後の聖騎士。『赤』です」

続いて、輝くような笑顔で命令の言葉を口にするディアーナ。

「エスティヴァン・ボイーア。黄の聖騎士に命じます。バスティーラ王に協力を要請し兵を揃え、オーガ本軍を殲滅してください。ついては」

喜色満面の笑みを浮かべて言葉を繋げる。

「バスティーラ王国、ハル村のラルス・ブランデルを従騎士として麾下に加えること」

エスティヴァンは喜色を浮かべるディアーナの顔を見て、相好を崩す。

「やっと……ですな。お嬢」

「ああ。ああ! やっとだよ! やっとだ。やっと準備ができるよ!」

(俺が帰るための準備が……)

ディアーナは嬉しそうに、騎士たちを見渡した。



ラルスは、いつもの日課をこなす日々に戻っている。

ディアがまた姿を消して数十日後。

訓練後の汗を井戸の水を被って流しているラルスに近づく気配がした。

ラルスはソレに背中を向けたまま問う。

「誰だ?」

一拍おいて、背後から……意外と近いところから声が掛けられた。

「……お見事です。ラルス殿」

ラルスのすぐ後ろ。剣を持っていれば、間合いの中であることにぎょっとしつつ、しかし、表面上は冷静に振り向いた。


「ああ……で、誰だ? あんた」


近づいていた男は、間をおいてラルスを見つめ、深々と頭を下げた。

「わたくし、フィアーセ聖騎士直属の従士です。ラルス・ブランデル様に従騎士としてこの辺りをご案内いただきたいと思いまして、こうしてお願いに参った次第です」

と顔をかげてニコリと微笑んだ。

「ラルス・ブランデル。フィアーセは、従騎士として貴方の力を望んでいる。貴方の回答をお聞きしたい」




「え!?」

ラルスは聞き間違いかと、聞き直してしまった。

「ふむ……もう一度言う。ラルス・ブランデル。フィアーセ聖騎士、エステヴァン・ボイーアの従騎士待遇として、バスティーラ遠征軍に加わること。オーガの本軍殲滅戦にあたり、地理に詳しい者として推薦があった」

呆然と使者の顔を眺めるラルス。

「ボイーア……様の……従騎士?」

思わず頬を抓り、返される確かな痛みにこれが夢ではないことを知る。エステヴァン・ボイーア。190cmを超える巨漢、獲物のハンマーで敵を薙ぎ払う。ハンマーの射程に入ると痛みを感じる間もなくトマトのように体をつぶされる、戦場にあっては死の象徴。一方、戦場を離れると植物を育てる術式の達人。庭師であり農の実践者。生の象徴でもある。その豪放な性格は戦士であれば、誰でも夢見る境地のひとつだ。

「……推薦? 誰の……」

疑問が思わず口をついて出た。

「……機密だ。で、返答は如何に」

従騎士の軍衣を取り出しながら、使者が問いただす。ラルスは軍衣に目を奪われつつも、返答する。

「はい……はい! 謹んでお受けします」






……夢を見ていた。

この世界ではない、どこか遠い世界。

そこでは、自分は今と同じ浅黒い肌。黒い髪と黒い瞳。

ただ、性別が違っているような……


「――ア!」

誰かが自分を呼ぶ声が聞こえる。

「マリア!」

「……あ。おはよう」

と目の前の男に笑いかける。

「はぁ……気を失って気が付いたらオハヨウとはな。相変わらず天然だなぁ。マリアは」

ぐしぐしと頭を乱暴に撫でる手。大きくて暖かい手。

「……今日は、もうニッポンに帰っちゃうんだよね……」

寂しくて勝手に涙が出てしまう。俺はこんなに涙脆かったのだろうか。いや、俺は……

「ああ、また今度。だ」

この男を。

「うん……あたし、シャワー浴びてくるよ」

好きだったのか……?

「ああ、俺も着替えてくるよ。外で待ってる」

「うん、ちゃんと待っててよ。コージはすぐふらふらどっかいっちゃうんだから」


笑って、道場を出ていく男。コージ。



意識が浮上し、まだ暗いベッドの上で目が覚めた。

そういえば、従騎士のお祝いとかで、家族みんなでお祝いしていたんだった。ちょっと照れくさいが……母さんは泣いて喜んでくれたし、少しは親孝行できたか?


ベッドの上で、うんと伸びをする。


その頃には、夢の記憶はもうほとんど残っていなかったけれど……

暫く俺の目から流れ出る涙は止まらなかった。





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