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赤の聖騎士  作者: ミロ
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1-3

ラルスがオーガ退治から帰還してから7日後、ハル村はちょっとした騒ぎになっていた。オーガに全滅させられていたと思われた討伐隊の内、1名のみ生還したというのだ。

あの後、すぐに30人規模の第二次討伐隊が編成され、無事オーガを討伐。その際、救出された者が第1次討伐隊メンバーであるとのことだ。

救出された者の名はカリ。ラルスと同期の仲間だ。右足を切断され、食糧にされていたらしい。生きていたのは、食料として生かされていたようで、止血の他は何も処置していない状態であり、意識も混濁しているので、教会で治癒を受けている。他のメンバーは持ち物のみ見つかったとのことだ。



村の皆が広場で明るい話題に浮かれている一方、ブランデル家の裏庭には、1人の少女と1人の青年が対峙している。小ぢんまりとした裏庭には、趣味のいいよく手入れされた花壇の他には、土が露出したスペースがある。ラルスが毎日剣の稽古をしている場所だ。

「ま、1人でも生きていてよかったじゃない。君は最善を尽くしたと思うよ」

数日前からよく見かけるようになった少女、ディアがラルスを宥めるように話しかける。

「ああ、わかっているんだがな……」

まだ何かできたのではないかと、どうしても思考が向いてしまう。あの数のオーガに対するには僅かばかり強いだけでは、歯が立たない。まして、あの状態のラルスが1人で向かってもできることなど何もない。精々オーガのエサになるだけだろう。わかってはいるのだ。

それでも、助けるための腕をのばすためには強くなるしかないのだ。少なくとも騎士になるまでは。

「じゃあ、ほら。稽古稽古」

手甲と脛当を装着したディアが構える。チッと舌打ちして木刀を構えるラルス。

ディアは淡い紫色のワンピースだ。膝丈のスカートは大人になると、はしたないと言われる代物だが、見て目がまだ少女のディアにはギリギリ許されるようだ。腰を落として構えると、丸く白い膝がラルスの目に眩しく映る。


初めて試合したときのことを思い出し、ラルスは頭を振って気合を入れなおす。相手は加減していい相手ではない。見た目通りのか弱い少女ではないのだ。それでもどうしても瑞々しいディアの足に目がいってしまうのだが。


「ふふっ。ラルスも男の子だねぇ」

「ちっ。言ってろ。行くぞ」


ラルスが構えた瞬間、ニヤニヤ笑っていたディアの体がぶれる。あっという間に懐に潜り込まれ、鳩尾に拳をもらう。

「ゲっ! がはぁ!」

体をくの字に折り曲げ、地面に転がるラルスを見下ろし、ディアは笑う。

「動揺していたら集中もできない。木偶の棒だね。ラルス」

「……言ってくれるじゃないか」

ラルスは腕を組んで見下ろすディアを睨む。ディアはそれを見て笑みを深める。もはや、ディアを見上げているアルスにはディアの足など見ている余裕はない。

「さあ、立って。そして戦おう」

「ああ!」

ラルスは言葉通りに立ち上がらず、ディアの足首を掴む。驚いたディアが掴まれたほうの足を軸にラルスの頭部に蹴りを叩きこむ。蹴りがくることを予想していたラルスは、木刀を捨てて蹴り足を掴む。ディアの足を上げ、馬乗りになる。

「キャッ」

ディアは可愛らしい声をあげ、倒れながらも足でラルスの上半身を抑えにかかる。無手ならば、ガードポジションであるが。

「いただきだ! ディア!」

木刀を拾い、振り下ろすラルス。

対するディアーナは、拳を振り下ろされる木刀の腹に挟み込むように叩きつける。

パアン。と音がして木刀が砕け散り、一瞬だけ唖然とした顔のラルスにニヤリと笑いかけると、ラルスの腕をとる。

足を首に絡め、三角締めにする。

「ふふっ。私の勝ちだね。休憩にしよう、ラルス」

言い終わった瞬間に、ラルスの体から力が抜けた。


足を掴んで転ばしたときの体重の崩し方を思い出す。

「……柔術かな? ポルトガル語圏ってことは、前世はブラジルなのかなぁ」

ディアはラルスの頭を自身の膝に載せながら囁く。

「……一緒に来てくれるかな……?」


目を覚まし、自分を膝枕しながら頭を撫でていたディアに気が付いたとき、顔を真っ赤にして逃げ帰ったラルスであった。


「ディアちゃーん! お昼御飯よー!」

「はーい! 今行きます!」


いつの間にか仲良くなってしまったラルスの母、アンナに呼ばれたディアは元気よく返事をして昼食の良い匂いのする家に入っていった。


2014.5.9 大幅に加筆しました。

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