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赤の聖騎士  作者: ミロ
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1-2

私、ディアーナは教会が運営するフィアーセの孤児院で育った。生まれてすぐにここに引き取られたのだという。親がどのような人物なのか、全然知らされずに育った。

周りの子は15歳くらいになると、成人したと見做されてここを巣立っていくのだそうだ。


私はあの(・・)当時12歳。


12歳の誕生日とされる日、私を迎えに来たのだという大きな馬車に乗せられて、教会に連れていかれた。見送りで孤児院の人全員で頭を下げているのがあの当時は不思議に思ったものだ。


儀式をするのだそうだ。よくわからないけれども。

体を清められ、儀式の間に連れていかれる。暗くてひんやりしたお部屋。何人かの司祭様?のような人たちが台座の周りに並んで、何かを詠唱している。

私は台座の半分に寝かされる。服を脱がされたのが恥ずかしかったけど、儀式のためなのだと思って我慢した。石の台座はひんやりしているのかと思ったら、意外にも暖められていた。司祭様の一人にお薬を飲まされた。苦いけど、気持ちが落ち着く薬なのだそうだ。

次に右の胸に魔法術式の紋を刻まれた。ぴりぴりしたけど、この程度の痛みで済んだのはお薬のおかげなのだそうだ。


暫くすると頭がぼんやりしてきた。これもお薬が効いているからだろうか。ぼうっとしていると、私の台座の右側、空いているところがまばゆい光で包まれた。もう頭を動かすのも億劫だったから、見てなかったけど。人の気配が感じられる。


不意にお腹に何か掛けられた感覚と同時に、全身が焼けるような痛みを感じた。お薬が効いているはずなのに。止めてとお願いしようとして口を開いても、叫び声しか出ない。我慢しようとして、目をぎゅっと瞑ってるうちに私の意識が溶けるように無くなった。


私は聖人と呼ばれる存在だ。フィアーセの運営と軍事を束ねる。祭事はもちろん、魔物討伐や教圏国家の長を任命する役割も持つ。子供なのにこんな権限を与えるのは、私が代々蓄積されてきた知識や魔力を受け継いだからだ。

通常は聖人の子孫から聖人となる者が発現する魔力で聖人であると認定される。しかし、直径の子孫が事故と暗殺により途絶えてしまったことにより、儀式による聖人降臨を行ったのだという。私は傍系であるが、聖人の血を受け付いていたのだという。要するに私は予備として孤児院で飼われていたというわけだ。

突然連れていかれて儀式で聖人にされて働けと言われても、普通の人間であれば嫌がるものだ。反発をしたり仕事をこなす気になれなくなったり。聖人にした人たちを裏切ることもあるかもしれない。

それを防ぐために私には隷属術式が刻まれている。それほど強い効果は無いが、破ることは今のところ出来ないものなのだそうだ。フィアーセにある魔術研究院で作られた術式。多くの魔術は私の知識として、儀式の際に流し込まれたが、この術の知識だけは持ち合わせていない。


……私の上で男が動いている。隷属術式が効いているので、私はこの男に手を出すことができないでいる。

最初は泣き叫んでいたのだが、そんな反応も男を悦ばせることにしかなっていないことに気が付いてからは、早く事が終わることを待つだけになってしまった。


私の魔力と知識は、儀式の際に通常の人間であれば廃人になるほどの量を流し込まれたものなのだそうだ。

それを補うために、この世界を含む幾つかの世界から適正を調べ上げて召喚した人間と私を融合させることで解決したらしい。私と相性の良い人間……


……私の上で男が動いている。気が付けば私は行為に耐え切れず、悲鳴のような声をあげていた。心の中では救いを求めているというのに。

「彼」が目覚めたのはそんな時だ。


――……苦しいのかい?

(ええ、苦しくて悔しいわ。とても。私、あなたが目覚めるのを待っていたのよ。私の心が擦り切れる前に)

――ああ、すまない。もう、大丈夫だ。

(じゃあ、私眠るわね……もう、耐えられないから……)

――うん、おやすみ。次に目覚めたときには、きっと良くなっているよ。



男は、組み敷いている少女を見て訝しげに顔を顰めた。先ほどまで自分の腕の中で喘いでいた少女が、目を閉じて表情を消している。

荒い息を整えつつ、頬に手を触れようとしたとき、少女の目が開いた。

「どうした。もう終わったのか? 短小」

いつもの従順な瞳ではない、若干きつい、強い光を持つ目。思わず怯んだ男に声がかかる。

「終わったならさっさとでかい体を退けろ。汗がたれて臭いんだよ。それとも相手の薄ら笑いと嘲笑聞きながらヤルのがお好みか?変態め」

凡そ少女が口にしないであろう言葉を吐き続ける聖女。

「ほらどけ。毛むくじゃらな体どけろ。あいた」

思わず、少女の頬を打つ男。

一瞬、きょとん、とした顔をしていた少女であったが、次第に体が震わせ笑い出す。

「く……くくく、くははは! この程度の挑発で女に手を上げるか。底の浅い餓鬼か、お前は! ははははは!!」

男は怒りに体を震わせ、もう一度少女の頬を叩いて、寝室から出ていった。背中に少女の哄笑を聞きながら。



「……ほんとに臭い……俺もこんな臭いさせていたんじゃないだろうな」

くんくんと、自分に纏わりつく自分の汗と体液の臭い。それを洗い流しに浴室へ向かうべく侍女を呼ぶ。

(まさか女とはねぇ……美衣より若くないかこれ……ううむ、戻れるのか元の体、元の世界に)

侍女に体を洗われながら考える。

(記憶が残っているのは幸運だな。もう一人分の記憶も残っているが……さっきの子か。あの一緒に殺された子だろうな。知識は……一通りは知っているらしい。思えば言語も自然に使えているようだ。魔術とやらも使えるらしいし、権限もこの辺りじゃ一番あるらしいし、意外と悪い状況じゃないか。しかし……)

ちらりと、侍女を見やる。

(でかいなぁ……)

惚れ惚れと侍女のメロン大の美乳を眺める少女=幸次であった。



執務室に座るディアーナ。40代目“聖女”である。40の意味を現わす言葉を間に挟み、「ディアーナ・ローゼ・ファウリス・フィアーナ」が正式な名前である。単に、ディアーナ、またはファウリスと呼ばれることもある。最も、ファーストネームに当たるディアーナという呼び名は、僅かな人数であるごく近しい者のみが呼ぶことを許されている。公式の場以外のみではあるが。

執務机で書類作業をこなすディアーナ。前の体で経験していた知識と合わせて、効率的にこなすようになった聖女を不思議そうに見る、数少ないファーストネームを呼ぶ緑の軍衣を纏う“聖騎士”が口を開く。

「ディアーナ様、書類をこなすのがお上手になりましたね……」

「ああ、おかげでもう午前の作業は終わりだな……ですね。サロ」

サロと呼ばれた聖騎士は、片まで伸びた癖のある茶色がかった黒髪だ。そして青い目。ヴヤラーナの第3王子でもある男は、無言でジト目を聖女に向ける。

「……」

「……口調が乱れがちなのは直すから、そんなに睨まないでほしいのだけれど……」

「……失礼しました」

「ああ、ララ」

「はい」

返事をした、薄いピンクの軍衣を着用しているララ・ウェラーは、聖女が最初に選んだ聖騎士である。肩口までのショートカット、茶色の髪、茶色の瞳。女性としては長身でスラリとした体型である。

「代行筆記をお願いします。聖騎士3人の連名です」

「……よろしいので?」

「ええ、エステヴァン。私には全員……つまり4人必要なの。もう1人、最後の聖騎士が」

黄色の軍衣を纏った偉丈夫、エスティヴァン・ボイーアはうっそりと頭を下げる。190cmを超える坊主頭の男は、これでもバルラトアで第3位大臣家の生まれだ。


聖騎士は聖人と生涯を共にする伴侶である。代々の聖人は聖騎士たちと子を成し時代へ繋ぐ。通常の騎士と全く別の存在、教会への発言権や軍事への介入権が制限されるなどの制約はあるものの、聖人の代行者であり聖人の一部として扱われることになる。そのため、教圏の各国からこの地位を目指す貴族階級が推薦してくる者を聖人自ら選ぶことになる。現在ここにいる聖騎士達は、熾烈な競争を勝ち上がってきたエリートではある。

故に、最初の一人はディアーナ(幸次)の強い希望で女性になり、最後の一人は聖女本人の希望により保留となっている。


(最後の一人……か)


最後の一人の席を設ける手続き書類に目を通す。その出来に満足すると、「お茶にしましょうか」ディアーナは聖騎士達に笑いかけ、侍女を呼ぶためにベルを鳴らした。


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