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赤の聖騎士  作者: ミロ
1/9

プロローグ

少なくとも週一更新はしたいです。

50話位のボリュームを見込んでいますが、長くなるかもしれません。すみません。

大陸。

 ここに住む人々は、この住んでいる陸地を単にそう呼ぶ。世界にはまだ大陸や島々があることはわかっているが、探査の手は未だ及ばない。

この世界にも人々の争いは存在し、それを食い扶持に繋げる職業も存在する。そのうちの1つである傭兵。大陸の国々の1つであるバスティーラの外れ、国境にほど近い村に住んでいる青年もそのような職に就いている1人だ。

 ラルス・ブランデル。ついこないだ19になったばかりで、僅かに少年であった頃の名残を漂わせている青年。彼はこのたびの軍遠征に際して公募された傭兵枠に収まり、魔族討伐に同行する。遠征の中で、それなりの成果を上げ帰還の途についている。

 バスティーラは王国は、北を魔族の領域と接しており、再三に当たる襲撃に悩まされている国である。立憲君主制を採る王国は、議会での討伐遠征を決定したが、魔族軍の戦力と比較すると戦力不足を否めない状況に、2つの決定を行う。1つは傭兵の募集であり、もう1つは「教会」への支援要請であった。


「教会」大陸東部一帯の国々を教圏とする。多くの国が建国するよりも古い時代から存在し、教圏の国々に絶大な影響力を持ち、保持している軍は教圏の国々に刃が向けられることは無いが、教圏内外の国々に畏怖されるほどの強さを誇る。


 魔族に対するに当たり、この教会――フィアーセとも呼ばれる――に対しその力を振るうよう要請したのである。今回の要請は、他の理由もある。100年から200年に1人だけ「降臨」するという「聖者」を見極めるという思惑だ。

生きている人間の大部分は、聖者など見たことが無いのである。聖者は、教会の権力と力の象徴だ。教圏の首長の任命権まで持つほどの。また、殆どの人間が持たない魔力を持ち、魔術の力を振るい、魔を払う。そのような存在にして、教会の頂点に君臨する人物。事実上の大陸最高権力者が数年前に現れたというのである。今代の聖者は未だその姿を見せてはおらず、教会での教育を受けているとのことであるが、教会の権限を掌握した暁には、どのような統治をおこなうのか。教圏内外から注目されていたのだ。

そこへ魔族の討伐要請。誰もが聖者の姿を待ち望んでいた。見極めようとしていた。「聖者は我々の意を汲むのか? 」


「ラルス! そろそろ通るってよ! 整列しねぇと、賃金減らされるぜ! 」

同僚の言葉に、振り向く青年。黒い髪の蓬髪を束ねながら、列に入る。

「フィアーセの連中まで見送らなくてもいいのにな。傭兵なのに」

「あー、お前も目指せばいいのに。フィアーセ軍の兵士って、給料良いらしいぞ? 」

「給料良いったって、戒律厳しいしな。俺には合わないだろうよ」

「お前みたいな奔放な奴は無理かね。その玉、なんとかならんのか。仕舞うとか」

といって、同僚が笑う。

「これか、これは空気がなかなか抜けなくてな。持ったままでもいいだろ。どうせこっち見るわけじゃないだろうしな」

ラルスは少年の頃から、ボールで遊ぶのが好きであった。従軍する際もボールを蹴って遊んで叱られることもしばしばだ。少なくともこの大陸では、ボールを作って遊ぶ文化は無いのであるが。


「来年にはバスティーラの従騎士試験受けたいしな」

「ああ、コネもなけりゃ、堅実だよな。それ」


 周りには秘密にしているが、ラルスは14の時、フィアーセの兵士になるべく試験を受けている。その際は、とある体の異変が原因で、力量を示せず試験に落ちてしまっていた。

体の異変とは、14のある日、自身の記憶に自分の前世と思われる記憶が、断片的に流れ込んできたこと。それは、断片的な思想、限定的な知識。妙に平和的でこの世界では甘いとしかいえない考え方。そのおかげで戦うことにためらいを覚えてしまった。前世の記憶は、それ以上広がることもなかったのであるが、思春期にそのような体験をしてしまい、ラルスの考え方に大きな影響を及ぼしてしまったのだ。

結局「リハビリ」できたのは、17になってから。フィアーセに入るには、年を取りすぎてしまった。今から入っても、従騎士になれるかどうか。騎士に上ることはほとんど無理であろう。

それを考えるとため息が出てしまう。


「お、来た来た。今回は700人も出たらしいな。フィアーセ軍」

「うちの軍は5000もいたけどな。やっぱり、騎士も多かったらしいし、聖者が出ると気合が入るのかね」

「ああ、しかも今代は聖女らしいしな。いいところ見せたい騎士サマも多いんだろうよ」

「ケッ……」


 小声で話しているうちにも、フィアーセ軍の行進が続く。列も半ばを過ぎたころだろうか。列後方で息をのむ音が聞こえ、若干のどよめきが広がる。

豪奢な輿が見える。輿に乗っているのは少女であった。青い紋様が描かれた僧服、ヴェールを上げているその顔はまだ13,4といったところではないだろうか。背中に伸びる淡い金の髪と白い肌。美しさに、誰もが見とれていた。ラルスもまた口を開けて見とれていた。

そして、持っていたボールを思わず取り落とした。

「おっと」

落としたボールを脚で拾い上げて、手に持ち直し呟いた。

「こんなときに落とすなんて、サッカーごっこもほどほどにしねーとな」


 顔を上げ、鑑賞しようと聖者が乗っている輿を見直す……目が合った? 輿の上の少女は無表情を崩していないが、今確かにラルスを見ている。途端にラルスの背中に冷たい汗が流れるのを感じた。プレッシャー、だろうか。

時間にして数秒ではあったが、聖女が元通り前を向いたときには、ラルスは解放感から足元がふらつく……雲の上を歩くような感覚を味わった。


プレッシャーだろうか。殺気、ではなかった。執着? 何に?


呆然と佇むラルス達の前を通り過ぎた輿の上では、聖女、ディアーナ・ローゼ・フィアーナが傍らの緑の軍衣を纏う男に何か耳打ちしていた。


……お父さん!? お父さんなの!?

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