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Clock Game  作者: やくも
5/11

stage5:ゲーム開始


 そして僕達は、参加することになった。

 得体の知れないこの、クロックゲームという不気味なゲームに……。


 ゲーム開始二十分前、十二番の部屋に僕達は集合していた。

「……結局、これから二十四時間の間軟禁されるようなもんか……」

「ワケわかんねーよな、本当に」

「呑気なこと言ってる場合じゃないでしょ? それまでにどうにかしないと、私達この館ごと焼き殺されちゃうのよ?」

「そ、そうだよ。早く、何とかしないと……」

「……でも、どうすればいいんだろ」

「あの仮面男が言ってただろ。俺達に勝利条件ってのをよ」

「でもあれ、絶対矛盾してるよ。どう考えたってさ」

「……確かになぁ……」

 僕達は配られた紙を開き、そこに記されたこのゲームのルールを確認する。

 その中の勝利条件の一つに、こうある。


 ――ゲーム終了の時点で、無事に生存していること。


 その中の敗北条件の一つに、こうある。


 ――二十四時間経過の時点で、館から脱出できていないこと。


 この二つの相反する条件が、このゲームの仕組みをメチャクチャにしているんだ。

 このままだと、僕達はいずれ勝利条件と敗北条件を同時に満たしてしまうことになる。

 そうなってしまえば、館から出る権利を得ると同時に、館そのものが炎上してしまうことになる。

 ギリギリでも逃げ延びるチャンスはあるのかもしれないけど、ぶっつけ本番でそれを試すにはあまりにも分の悪い賭けだ。

 となると、残る手段は自動的にたった一つしかなくなってしまう。

 僕達に与えられた、もう一つの勝利条件、それが……。

「……トリックを、見破ること」

 ふと僕が呟くと、皆の視線が集中する。

「もう片方の勝利条件があてにならないんだから、こっちを優先したほうがいいんじゃないかな。多分、そのためにもこのゲームには沢山の時間が用意されてるんだと思う」

「ようするに、考えろってことか。与えられた二十四時間で、そのトリックってやつを」

「でも、トリックって言ったって……」

「……そうだな。今はまだ、ゲームすら始まってないからな。もしもゲームの内容や動きの中に、何かしらに仕掛けがあるとすれば、それは今の段階じゃ何も分からない」

「ゲーム中も気を抜かずに考えろってことなんだと思うよ。ルールの通りだと、移動は一人一時間つきたったの一度。一時間のうちの五十五分は、一人で過ごすことになるんだからね」

「……とにかく、まずやってみないと何も分かりそうにないな」

「そんな楽観的な……」

「けど、焦っても仕方ないだろ。二十四時間しかないんじゃない。まだ二十四時間あるんだ。前向きに考えようぜ」

「……そうね。ジタバタしたって、もう始まっちゃうわけだし」

「……分かったわよ。腹くくればいいんでしょ、もう……」

 そんな会話を聞きながらも、僕はジッとルールの書かれた紙に目を落としていた。

 確かに、ゲームそのものが始まっていない今、空論をいくつ述べてもキリがないのは当然だ。

 しかし……。

 何か、違和感を感じるような気がする。

 もっとこう、根本的な部分で何かがおかしいような……。

「信吾、どうかしたか?」

「……あ、ううん、何でもないよ」

 でも今はまだ、それを言うべきじゃない。

 余計な混乱を与えるのは避けたほうがいいだろう。


 ガチャリと、ふいに扉が開いた。

 するとそこには、あの仮面の男性が立っていた。

「あと五分でゲーム開始となります。皆さん、まずはこのクジを引いてください。それぞれの部屋の番号を決めるものです」

 仮面の男性は手に持った小さな箱を差し出し、そこから一枚ずつクジを引くように促した。

 ここでしぶっても始まらないので、僕達はそれぞれにクジを引いていく。

「全員行き渡ったようですね。それぞれの紙に書かれた番号が、開始時の部屋割りになります」

「……おい、誰かペン持ってないか?」

「私、持ってるけど。でも、どうするの?」

「……根拠があるわけじゃないけど、念のためにな」

 ペンを受け取ると、浩二は自分の引いたクジの紙に自分の名前を書き出した。

「トリックってやつが、何に仕掛けれるか分からないんだ。こういう些細なことでも、気を回しておかないとな」

「……そうね。私も自分の名前を書いておくわ。このクジに仕掛けがされてる可能性だって、ゼロじゃないんだもの」

 そして僕達は全員、それぞれのクジに名前を書き連ねていった。

「別に構わないよな?」

「ええ。ルール上は問題ありません」

 そして全員がクジに名前を書き終える。

 初期の部屋割りは、以下のようになった。


 一番……橘康祐たちばな こうすけ

 二番……久保雅くぼ みやび

 三番……高居信吾たかい しんご

 四番……栢山縁かやま ゆかり

 五番……松山浩二まつやま こうじ

 六番……要こだま(かなめ こだま)

 七番……奥村大輝おくむら たいき

 八番……瀬川志保せがわ しほ

 九番……佐藤秦さとう しん

 十番……三上慶子みかみ けいこ

 十一番……進藤豊しんどう ゆたか

 十二番……木村夏樹きむら なつき


「では移動する前に、もう一つ。皆さんが身に着けている携帯電話や時計など、時間が分かる計器類はゲーム終了までこちらで預からせて頂きます。これはあくまでも時間を気にせずゲームに集中していただくための配慮なので、他意はありません。ゲーム終了時には必ずお返しいたします」

 言われたとおり、僕達は所持品のそれらを仮面の男性へと渡す。

「でも、それじゃ五分ごとに移動するときとか、分からないんじゃ……」

「その点はご安心ください。ゲーム開始から五分ごとに、鐘の音が鳴るようになっています。音は全部の部屋のスピーカーを通してしっかりと聞こえるようになっていますので、それを合図にしてください。なお、一時間経過ごとにはなる鐘の数が三回になりますので、それも目安にしていただければよろしいかと」

「用意がいいわね、全く……」

「では、確かにお預かりしました。それでは皆さん部屋の移動をお願いします」

 夏樹以外の僕達十一人は、それぞれに割り当てられた部屋へと移動する。

「そうそう、申し遅れましたが」

 その間際に、仮面の男性が振り返って今更に言った。

「私、このゲームの案内役を勤めさせていただきます、時任と申します。そう呼んで下されば結構ですので、何かあればどうぞ」

 そんな言葉を半分ほど聞き流しながら、僕達はそれぞれの部屋につき、扉を閉めた。

 もう間もなく、ゲームが始まる。

「……あれ?」

 一番の部屋に割り当てられた康祐が部屋の扉を閉めようとしたら、そこには時任が立っていた。

「最初の合図だけは、私の口頭でさえていただきます。合図と同時に、すぐに二番の部屋へと向かってください」

「…………」

 康祐は答えず、小さく頷くだけしておいた。

「…………それでは」

 時任が自分の腕時計に目を落とす。

 秒針が時を刻み、やがて夕方の六時を示した。


 「――ゲーム、開始です」




 まず、康祐は室内同士を繋ぐ扉を開け、隣の二番の部屋へ入った。

 その様子を見送り、扉の前の時任もその場から立ち去る。

 二番の部屋へくる。

「ふぅ……」

「どうかしたの?」

 溜め息を吐き出す康祐に、雅が聞いた。

「あの時任って人、掴み所のないなて思ってさ」

「っていうか、不気味だよあの仮面。外せばいいのにさ」

「まぁ、声の感じはまだ若いみたいだけどな」

 康祐は部屋の真ん中に座り、ゴロンと仰向けになった。

「……橘はさ」

「ん?」

「どう思う? このゲーム」

「どうって、そりゃ……迷惑な話だとは思うよ。いきなり迷い込んで、逃げたら殺すみたいに脅されてさ」

「うん……」

「……けどまぁ」

「けど、何?」

「……すっげー不謹慎なんだけどさ。正直ちょっとだけ、ワクワクしてる」

「…………」

「負けたら死ぬかもしれない。そんなヤバイ内容なのにな。自分でも不思議だけど」

「……やっぱ、そうなのかな」

「何がだ?」

「……正直言うとね、私もふざけるなって思ったよ。でも、ゲームのルールとかそういうの色々聞いてるうちに……ちょっとだけ、面白そうかもって思っちゃってさ」

「……案外、俺達だけじゃないかもしれないぜ?」

「え?」

「皆が案外素直にこのゲームに参加したなって思ってたけど、もしかしたら皆、俺達と似たり寄ったりなところがあったのかもしれないなってことだよ。このゲームに対する、好奇心みたいなのがな」

「……そうかも、ね」

「……でもまぁ、トリック云々に関してはさっぱりだけどな。全然見当もつかない」

「だって、まだ始まったばかりだもの。そんな簡単に見破られたら、出題側もお手上げでしょ?」

「ま、そりゃそうだな」

 アハハと、二人は小さく笑い合う。

 極限に追い込まれているというのに、どういうわけか興奮しているみたいだった。

 そして、しばらくすると。


 ――ゴーン…………。


 まるで除夜の鐘を思わせるような、そんな鐘の音が鳴り響いた。

 まず、五分経過である。

「それじゃ、私もいってくるね」

「ああ。しっかりな」

 雅は立ち、部屋同士を繋ぐ扉を抜けて三番の部屋へと向かう。

 三番の部屋で待っていた僕は、扉が開く音に気づいた。

「や」

 軽く手を上げてそう言う雅に、僕も目線で答える。

「とりあえず、五分だね」

「うん、まずはね。ところでさ、高居はどう思う? このゲームについて」

「……どうって?」

「実はちょっと、橘と話してたんだけどね」

 雅は康祐と話したことを僕に話す。

「というわけだったんだけど、高居はどうなのかなって思ってさ」

「……うん、まぁ……似たり寄ったりだと思うよ、僕も。確かに面倒なことに巻き込まれたって思ってる。ゲームの最後に死んじゃうかもしれないって思うと、怖くもなるよ。でも確かに、どこかでそういうワクワクしたような気分があったのも本当だから」

「そっか。やっぱ、皆そうなのかなぁ」

「案外、そうかもしれないね。でも……」

「でも?」

「……志保は、こういうの苦手そうかな。昔から、お化け屋敷とかも大の苦手だったし」

「まぁ、あの子の怖がりは極端だからね……」

「うん……」

「心配?」

「え? そりゃまぁ、ね。僕達幼馴染で、ずっと一緒だったから」

「ふぅん……」

「どうかした?」

「いやいや、こっちの話」

 なるほどなるほどと、雅は何か納得したような様子で雅はニヤついていた。

 僕にはその笑みの理由が、よく分からなかった。


 ――ゴーン…………。


 そして、二度目の鐘が鳴る。

「それじゃ、僕も行くね」

「うん。またあとでね」

 扉を開け、隣の四番の部屋に向かう。

 開始十分、今はまだなにもおかしなことはない。

 ただ、僕の頭には嫌なイメージが漂い始めていた。

 それは、あの処理条件の中のこの一文。


 ――ゲーム終了時、無事に生存していること。


 ……無事に、生存。

 なぜ、こんなことが条件に加わっている?

 それは、つまり……。

 ゲームの最中で、命を落とす危険性があるかもしれないからじゃないのか?

 そんな、根拠もない不安が消し去れないでいた。

 考えすぎであればそれでいい。

 けど、もしも、万が一でも……。

「…………」

 今はまだ、答えは出せそうになかった。

 扉を開ける。

 四番の部屋へ、僕は足を踏み入れた。



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