人ではない、ヒト
両親が出張でいないため、僕と妹の紗織は三人で夕食をとっていた。
自分で作ったオムライスだが、中々によくできていた。……量が減っているが。
そう、僕と紗織しかいないはずのこの家に、なぜか三人目がいるのだ。
「ふむ。この”おむらいす”とやら、美味であるな。気に入ったぞ」
「「…………」」
場を包むのは歓迎しているとはとても思えない気まずい沈黙のみ。誰か、誰かツっこんで…
「何で一緒に食べてるのよっ!」
先に動いたのは妹の方だった。
エリーゼは妹を怪訝な眼で見ている。
「なんで、とな? 我の同居を認めてくれたのではないのか?」
「認めてないわよ、あたしは。せっかくゆう兄と二人きりのチャンスだったのに……」
最後の方はぼそぼそと何を言っているのか聞き取りづらかった。
「とにかく、うちに泊まるならまず親御さんに連絡しなきゃ」
僕がそう提案すると、エリーゼは少し苦い顔をした。
「……連絡はしない、できない」
「どうしてよ、なんか不都合でもあるの?」
エリーゼは顔を背けている。何か踏み込まれたくない事情があるのだろうか。
僕としても、あまり心の奥底まで踏み込むべきではないと思ったため、それ以上尋ねるのはやめた。
「え? どうなのよ? なんとか言ってみなさいよ」
なんか妹が怖い。執拗に迫っている。気に食わないことがあると、紗織はよくこうなるのだ。
あまりのしつこさにさすがに頭にきたのか、エリーゼの小さなこぶしがテーブルをドンと叩いた。
「えぇいっ、やかましいわ! 大人しくしておれば付け上がりおって、我を誰と心得るっ!」
「不法侵入者でしょ?」
「ぬぐっ……可愛い顔して言いおるな。こうなっては仕方ない、強硬手段だ」
そう言った途端に、エリーゼの綺麗な碧眼が、突如に紅く変貌した。
「そなたは人形だ。我が命じぬ限り、逃げることもできない」
その真紅の瞳に見つめられた紗織は、金縛りにあったかのように身動きが取れなくなってしまう。
「な、どうなってんのこれっ!?」
焦る紗織にゆっくりと近づいていくエリーゼ。
そしてそのまま、紗織の首筋を甘噛みした。
「あっ………」
紗織の口から艶かしい吐息が漏れる。
しばらくそうしてから、エリーゼは妹から離れた。
妹は気を失ってしまったようだ。
「さ、紗織に何をしたんだ。エリーゼさん……」
こちらに振り向いた彼女の唇から、一筋の赤い雫が垂れ落ちた。
「なに、血の味を確かめただけだぞ。中々に良い味だ」
「……あなたは、一体……?」
金髪少女の眼は、いつの間にか碧い色に戻っていた。
「だから言ったであろう。我は吸血姫だと」