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金色の吸血姫  作者: 杞憂
姫の居候篇
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気付いたらそこにいた

「……ただいま~……はぁっ…」

 息も絶え絶え、といった感じで帰宅した僕。

 家には今年中学三年になった妹の紗織がいるため、服は着替えておいた。

「おっかえり~。遅かったね、ゆう(にい)

 玄関に入ると待ち構えていたように妹が飛び出してきた。

「まあね、……色々あって」

 そう、色々と大変な一日だったのだ。


『おぬしを我の、吸血姫エリーゼ=アマーリア=ミュンヒハウゼンの下僕に任じてやろう!』

『………………はい?』

 あの後、何がなんだかよく分からなくなってしまった僕は、逃げた。

 逃げました。全速力、全身全霊をかけて逃亡したのです。

『お、おいっ!? 待つのだーーっ!』

 なんか追っかけてくる金髪がいたけど、お構いなし。

 気が付いたときには、うまくまいていたという次第で。

 そして、現在に至る。


 僕の家は一般的な二階建ての一軒家だ。

 二階には僕と妹の部屋があり、一階はリビングとして使って、さらに両親の寝室がある。

 階段を上って二階にある自分の部屋に戻った僕は、のんびりとくつろぎつつ今日のことを回想していた。とんでもない一日だった気がする。

 ベッドに横になると、疲れがどっと押し寄せてきた。

「はぁ……女装したり、百合を見ちゃったり、まして下僕とか……ありえないでしょ」

 某一シリーズ24時間の海外ドラマ並みに詰め込みすぎな気がする。

「明日からどんな顔して学校行けばいいんだ…?」

 このはとも蛭賀くんとも顔を合わせづらい。

 今日何度目かも分からないため息をついて、僕はそのまま眠りにつこうとした。

 すると、ノックも無しにいきなりドアが勢いよく開けられた。

「ゆう兄~。おなかすいたよー!」

「ふぇ? 母さんはどうしたの」

 眠気に負けそうだったが、紗織のせいで目が覚めてしまった。

「忘れたの? 今日からパパもママも出張じゃない」

「あれ、そうだっけ」

 我が家の両親は共働きなのだ。今回はたまたま予定が重なったらしい。

 紗織に連れられてリビングに下りると、テーブルの上に言伝があった。

「なになに、”一週間ほど出かけるけど、二人で協力して何とか暮らしてね”か…」

「そ! だから、ゆう兄は炊事・洗濯・掃除の担当ね」

「全部じゃないか、それ」

「いっひっひ~」

 癪に障る笑い方だが、実際妹は料理ができない。

 火を使わせたらてんで駄目で、そうなると何も作れなくなってしまうのだ。

 僕としても妹にやらせるくらいなら自分で、と考えるほどである。

「……分かった。オムライスでいいな? 紗織は風呂掃除を頼む」

「りょーかいっ」

 そうして僕はキッチン、妹は風呂場と、それぞれの持ち場についた。

 

 晩御飯の用意が佳境に入る頃に、風呂場から叫び声がした。

「ゆ、ゆう兄ーっ! ちょっと来てー、早くーっ!!」

 ただ事ではないその声に僕は違和感を感じてすぐに風呂場へと向かった。

 するとそこには、なぜかあの金髪少女、エリーゼがいたのだ。

「な、なんで? エリーゼさんがここに……!?」

 予想もしなかった展開に思わず面食らってしまう僕。

「ゆう兄の知り合い!? 誰この人っ!」

「が、学校のクラスメイト……でもどうやってここに!?」

「分からない、気付いたら目の前にいたのっ」

 金髪は不敵に笑みをこぼした。

「くっくっく……ようやく見つけたぞ、我が嫁となるべき少年」

 なんかわけ分からんこと言い出したぞこのちびっこ。嫁はないだろう嫁は、僕は男だぞ。

「……帰ってください」

「まあ待て。我はおぬしの女装時の姿に惚れたのだ。これは名誉なことなのだぞ」

 何がどう名誉なんだ、と質問する前に、勝手に答えてくれた。

「我が女の子以外を好きになったのは生まれて初めてなのだ。お前が最初だ」

 ちなみにエリーゼは偉そうにふんぞり返っている。誰か持ち帰ってくんないかな、この子。

「そんなこと言われても……」

 返答に困ってしまう。冗談で言っているのではなさそうだ。

「それで、結局何しに来たの? あなた」

 妹が少し怒っている様子でエリーゼに尋ねる。

 エリーゼは自信満々、さも当たり前のように堂々とそのことを告げた。

「我をここに住まわせてもらいに来たのだっ!」

 しばしの沈黙。そして硬直が解けた頃には、風呂場に反響する大音量の驚愕の声が兄妹そろって見事なハーモニーを紡ぎだしたのだった。



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