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金色の吸血姫  作者: 杞憂
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X月X日の記録

 吸血鬼の総本山とも言える城に、一人の老吸血鬼がいた。

 周りには彼の側近が五万と控えている。

 どっしりと座についている彼の前に、一人の女の側近が進み出た。

「……報告します。ゴードンとハインツからの連絡が、完全に途絶えました」

 女がそう伝えると、老吸血鬼はゆっくりと顔を上げた。


 その手に持っている杖で地面を強く叩く。

「……痴れ者どもめ。小娘一人ですら始末出来んとは、期待外れもいいとこだ」

「申し訳ございません」

「よい、お前の責任ではない」

 女はそのまま後ろへと下がった。老吸血鬼、すなわち長老はその場に立ち上がる。


 側近は長老の号令を身構えて待つ。彼が立ち上がるときは、文字通り吸血鬼全員の決起と同じだった。

「よいかお前ら、今こそ我らの……」

「おじいさま~!」

「むっ?」

 とてとてとおぼつかない足取りで長老の元へ走ってくる一人の少女。


 特徴的な美しい銀髪を揺らし、純白のドレスを身に纏っている。

 まだ七歳になったばかりで、背丈は長老の半分ほどしかない。

 そんな小さな身体で必死に走ってきて、その勢いのまま盛大にすっ転んだ。

 びたん! と激しく顔面を打つ。その状態で少女は固まってしまった。

「ソ、ソフィア様っ! 何故ここにっ……!?」


 先程の側近の女が急いで駆け寄る。

 ソフィアと呼ばれた少女を支えて自力で立ち上がらせた。

「ここに来てはいけないとあれほど言ったではないですか……ああこんなに顔を腫らして」

「う、うぇぇぇぇ……ぐすっ……」

 目をこすりながら泣くのを堪えている。


 女はハンカチを取り出してソフィアの顔を拭いた。

 何とか落ち着いたようだ。少女はここに来た用を思い出したように長老に話しかける。

「おじいさま! 私さっき小鳥さんにご飯をあげてたの、そしたらね――」

「……ソフィア、今は大事な集会の時間だ。後にしなさい」

「え……でも、さっきは遊んでくれるって……」


「そんなことを言った覚えはない! おい、ソフィアを部屋に連れて行け」

「なんでっ、おじいさまっ……!?」

 長老が声を荒げて命令すると、女がソフィアを連れて出て行った。

 周りにいた他の側近たちがざわめいている。

「ええい、静まれ! 小娘如きで騒ぎ立てるなっ、この馬鹿者共めがっ!」


「はっ……失礼しました」

 何人かが非礼を詫びた。しかし中にはまだひそひそと隠し話をしている者がいる。

 長老はそれを黙らせるために、中断されてしまっていた話を再び始めた。

「いいか貴様ら! これからしばらく吸血姫狩りは様子を見る。ゴードンとハインツが裏切ったのか、はたまた返り討ちにあったのかは定かではない。だが吸血姫共も警戒が強まっているのは確かだ! ここからは慎重に事を進めていく必要があるじゃろう!」

 陰口を叩いていた者たちも黙って長老の話を聞いている。

「……今は待つときじゃ。攻めも、守りも」

 忌々しい姫共め、長老はそう呟いて締めくくった。


「吸血鬼のルーツ……ね」

 豪勢に飾られた華麗な一室の机に向かっている一人の少女がいた。

 少女が手に持っている古臭い文献には、「研究記録―第九号―」と銘打たれている。

 彼女はそれをあらかた読み通し、静かに机の上に置いた。

 中に書かれていた内容を反芻し、そしてため息をつく。


「……もしこれが真実なら、一番の罪人は吸血鬼じゃなくて吸血姫なのかもしれない」

 彼女には文献の内容が未だに信じられなかった。

 それまで絶対悪と信じ込んでいた自分の心の基盤とも呼べる部位が揺らいでいる。

 知ってしまっては、後戻りはもう出来そうもない。

「このユリア様を惑わせるなんて……とんだ代物だわ。永久に封印決定ね」


 ユリアは机の引き出しに書物を放り入れて鍵をかけた。

 鍵は基本彼女が持ち歩くので、他人に開けられることはない。

 大豪邸のため多数のメイドが掃除に来る可能性があり、こうしないと危険なのだ。

 ユリアはそのまま天蓋付きのツインはあろうかという巨大ベッドに身体を預けた。

 ふかふかの枕に頭を下ろし、身体を投げ出す。もちろん彼女はいつも一人で寝ている。


 天を見つめ、考え事をし始める。

「(……そういえば、日本にはエリーゼがいるのよね。あいつ苦手なんだけど、吸血姫狩り流行ってるし、日本に来い来いうるさいし、どうしようかしら……)」

 ユリアはそのまま眠りについてしまった。


 このときの彼女は、まだ知らない。

 いずれ自分からエリーゼに会いに行くことを。

 しかしそれはまた、別のお話……


 ――――Next to Zwei!

続編連載始めました。この話は繋ぎ的な感じです。

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