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金色の吸血姫  作者: 杞憂
二人のエピローグ
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そうして物語は続いていく

 日曜日の朝は誰もがのんびりと過ごすものだと僕は思う。

 ひどいときには昼間に目覚めるなんて不健康なこともよくやるものだ。

 でも、今日もそうしようと思っていた僕は、思わぬ妨害を受けていた。

「……うぅ~ん…ゆう兄のばかぁ…」

「……むにゃ…もう吸えないよ~……」

「……マヨ……むふふ…」


 この寝言、だーれだ? …ってクイズ番組じゃあるまいし、僕に何やらせるんですか皆さん。

 と言うか、なんで僕の部屋に全員大集合してらっしゃるのですか?

 僕の部屋は溜まり場ですか、たこ部屋ですか。

 こんな感じで、僕の安眠は現在進行形で妨害され続けているのであった。

 元々一人用のベッドにどうやってこんな人数がおしくら饅頭してるのか甚だ疑問に思う。


 時計を確認してみると、時刻は七時を指していた。

 両親もまだ眠っている時間である。

「……布団に移ろうかな」

 床に敷かれたままになっている布団に退避することにした。

 起き上がろうとすると、パジャマのすそを掴まれていて抵抗を感じる。


 見るとエリーゼがちょいと掴んでいた。

 安心しきったような表情で眠っている。

 起こすのも悪いと思い、諦めた。

「…優介」

「え?」


 今起きてしまったようだ。エリーゼがシーツの中からこちらを見つめている。

 僕はその無垢な様子に内心どきりとした。言葉で表しようのない魅力を感じる。

「ふふ、我に見惚れておったのか?」

「……まあね」

 嘘ではない。本音だったのだけど、隠すのも恥ずかしいので誤魔化さないことにした。


「おぬしは……はぁ、もっと女子を喜ばせる言葉をかけられぬのか?」

「可愛かったよ、エリーゼの寝顔」

「なっ……! 自分で言っておいてなんだがこれは爆弾であったか……!」

 素直に褒めると照れて何も言えなくなってしまうのだ。

 何だかんだで、エリーゼも普通の女の子と変わらないと思う。


「もう起きちゃったし、朝ごはんでも作ろうかと思うんだけど」

「おお、我も手伝うぞっ! ご両親も喜ばれるであろう!」

 エリーゼと僕は他の皆が起きないよう静かにベッドから抜け出した。

 そのまま物音を立てないように階段を下りていく。

 リビングにはやはり誰もいない。時折父さんと母さんのいびきが響くだけだった。


「エリーゼ、料理は出来る?」

「まあ、その…ぼちぼちだ」

「じゃあ、野菜を切るのをお願いするね。僕は味噌汁を作って、あと魚でも焼こうかな」

「うむ、任された…ぞ」

 エリーゼが包丁を握る。彼女の前に並ぶのは、トマトにレタス、きゅうりなど。


 なんだかぎこちない動きを見て、多分初心者なのだと悟る。

「エリーゼ、無理しなくていいよ。怪我したら大変だし」

「いいや! これくらい我にだって…」

 意地を張るのは危ないんだけどな…

 案の定包丁を持っていた手が滑ったようで、彼女は指を軽く切ってしまった。


「いたっ」

 指の先から少し血が出ている。大事ではなさそうだが、地味に痛そうだ。

「大丈夫? 包丁は慣れてないと気をつけなきゃ」

 僕は彼女が怪我した指をなめて綺麗にした。

 エリーゼはとても恥ずかしそうにしていた。


「…我も妹君のように料理を振舞いたかったのだ。おぬしに」

「僕に?」

「味の感想とか、その…色々と気になるではないか!」

 勢いで流そうとしているけど、僕はそこに隠されているだろう思いに行き着いた。

「ありがと、エリーゼ。いつか料理が安全に出来るようになったら、そのときにお願いするよ」


「むぅ~! 見ておれっ、今に三ツ星レストランにも劣らぬ料理を完成させてやるっ!」

 変な方向に燃え上がっている。でも料理の腕が上達するのは大いに結構だ。

「じゃあ、今度は味噌汁を……うっ……!?」

「む? どうした優介よ」

 突然胸に激痛が走る。心臓の鼓動が急激に速まり、全身から発汗が始まった。


 痛い。イタイイタイイタイイタイ…

 あまりの苦痛に僕は座り込んでしまう。

 身体が焼けるように熱い。妙な焦燥感と、違和感に包まれる。

「ぅわぁぁぁぁぁぁっ」

「優介っ!? その姿はっ…!」


 痛みが徐々に引いていく。どこかで体験したようなデジャヴ。

 心なしか身体が軽くなったような気がする。

 荒く息をしながら手を見ると、まるで自分のものではないような細くしなやかな指がある。

 頭が重い、と思ったら髪の毛が伸びていた。しかも座ってる状態で床についてしまうほどに。

 胸には二つのなだらかな丘陵が…あれ?


 どういうことでしょうかこれ?

「あー……もしかして、我の血を飲んだから?」

「ごめん、僕ちょっと風呂場に行って確認してくる」

「う、うむ。気を強く持つのだぞ~…」

 風呂場に行って早速服を脱ぎ身体を確認した。


 ……僕の男の象徴は、消滅していた。と言うよりも、僕の身体は女の子のそれと同じになっていた。

 ありえない。でもエリーゼたちと関わったときから、ありえない事自体がなくなってしまった。

 今はありえるのだ。こんな世界の常識を容易くぶち壊すような出来事が。

 理不尽。僕はそう断言する。

「なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 僕の叫び声で皆が目を覚ました。でも仕方ないじゃないか。

 どうやったら元に戻るんですか、これ?


 紗織も、ラウラさんも。

 もちろん父さんと母さんも。

 皆一様に唖然とし、僕の女性化した姿を凝視する。

「…ありに一票」

 エリーゼがぼそりと呟いた。


「同じく」

 ラウラさんが同意して頷く。

「……ゆう兄なら性別の壁なんて…」

 紗織は時々訳の分からないことを口にする。

「息子が娘になっても受け止めるわ~」


 母さんの頼もしい一言。適応能力高すぎるでしょう、さすがに。

「僕の夢が叶うときが来たんだなぁ…! 秘蔵のコスチュームを出すときが来たっ!」

 父さんはもう少し悩んで欲しい。能天気すぎる。

「総じて、結果は……」

 エリーゼがまとめだす。



 ――――退屈な日々、平和な日常。誰もがそんなものを望んでいる。

 それはこの僕も望んでいるものだった。エリーゼが来るまでは―――



 次の瞬間、全員そろってその結論を言った。

「ありです」

「Noーーーーーー!!」

 僕の辞書に、平穏と言う文字はない。


~Fin~

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