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金色の吸血姫  作者: 杞憂
二人のエピローグ
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平穏ないまへ

 三人は優介を抱えて家の玄関をくぐった。

「おかえりなさい~…あら?」

 出迎えた母はぼろぼろになった皆の姿を見て驚いていたが、何も聞いてはこなかった。

 それは母なりの気遣いなのかもしれないが、三人はもちろんそんなことには気付かない。

「ママ、これは…その…」


 紗織は何と説明したらよいか悩んだが、母が先に口を開いた。

「お疲れさま、紗織。ご飯多めに作っちゃったから、二人もよかったら食べていかない?」

 それはエリーゼとラウラに対する質問だった。

 二人は一瞬顔を見合わせて考えたが、すぐに頷いた。

「それでは、お言葉に甘えて…」


「ええ! 良かったわ~、力を入れすぎて余すところだったから」

 そしてそのまま二人はリビングへと案内される。

 紗織はラウラから優介を預かると、優介を背負い二階への階段を上り始める。

 すやすやと眠っていた優介だったが、振動で目が覚めた。

「……あれ、紗織……?」


「あ、起きたんだね。ゆう兄」

「ここ、どこ?」

「家だよ。今ゆう兄の部屋に運ぶから」

 そう言って優介の部屋に入り、優介をベッドの上に降ろした。

 優介はまだ戸惑っているようだ。


「…僕、どうなったんだっけ」

「ゆう兄?」

 優介は自分の手を見つめる。

 記憶が少し混乱しているが、彼は確かに覚えていた。

 自分がどうなり、何をしたのか。


「僕、空飛んでたよね…?」

 傍からみると変な質問である。

 紗織は気絶していて見ていなかったので答えられない。

 ただ一つ彼女が覚えていたことは、

「ゆう兄、美人になってたよ。うん」

「……は?」

 ますます混乱する優介だった。



「そろそろ下行かないと」

 優介が思い出したように言う。

「まだ安静にしてないとだめだって。ゆう兄色々と大変だったんだから」

「大丈夫だって…あぅ」

 紗織は優介を押さえて無理やりシーツをかけた。


 優介は仕方なく言うことを聞くことにした。

「…じゃあ、ちょっと休んだら行くよ」

「うん、それでよしっ」

 紗織が下に降りていく。

 後に一人残された優介は、電気もつけないまま薄暗い部屋で物思いにふけっていた。


 いろんなことがあった気がするのに、実際はそんなに時間が経ったわけでもない。

 この数日は本当に嵐のような毎日だった。

 それもこれも、全部エリーゼと出逢ったからだろう。

 彼女といると楽しいことがたくさん起こる。

 新しい世界に僕をいざなってくれる。


 怖いことや危険なこともあったけど、それ以上に今が楽しい。

 昔は感じなかった高揚感を感じるんだ。

「…やっぱり降りようっ」

 早くエリーゼに会いたいと思う。

 僕を変えてくれた彼女に、今すぐ。



 僕がリビングに降りていくと、大きな笑い声が聞こえてきた。

 父さんの声だ。もう仕事が終わり帰ってきたのだろう。

 紗織とエリーゼはソファに座り、ラウラさんもエリーゼの横に正座して座っている。

 父さんはテーブルの椅子に座って皆と談笑していた。

 母さんは慌しく出来た料理を運んでいる。


「お! 優介~、ただいま! 今日も可愛いな~お前は」

「…ウザい(おかえり)

「ん? なんか今二重に聞こえなかったか?」

「そんなことないんじゃないかな」

「うーん、そうか! わっはっは!」


 父さんは事あるごとに僕を娘扱いしようとする。

 なんでも、僕に着せようと企んでいる女物の衣服を秘蔵しているらしいが、未だに見つからない。

 見つけたら紗織にでもあげよう。僕は死んでも着ないぞ。

「は~い、ごはんできたわよ。さあ食べましょうか」

 皆がテーブルの席につく。大きなテーブルでよかった。


「すみません、マヨネーズを頂けますか」

「今日なくなっちゃったのよ~ごめんね?」

「………はい」

 ラウラさんが明らかにしょんぼりした。

 にぎやかな食事が始まり、話題は自然とエリーゼたちのことになる。


 家はどこなの? とか、家族は何人? とか。

 エリーゼはもう猫をかぶるのをやめたようで、いつも通りの口調で答えていた。

 時折ラウラさんが補足説明をする。

「両親はもう死んでしまった。我にとって家族と言えるのはラウラだけなのだ」

「私も同じです。でも私が忙しかったせいで姫に寂しい思いをさせてしまいましたが」


「ふ~ん、苦労してきたのねぇ」

 母さんが相槌を打っている。

 父さんはと言うと、すごい勢いで涙を流していた。鼻水もセットで。

「うわっ……汚ぁ」

 紗織が嫌そうな顔をするも、父さんは気にしない。


「はい父さん、ティッシュ」

 僕が箱ごと渡すと、父さんは一枚掴み取って豪快に鼻をかんだ。

「話はよーく分かった。そこで二人に提案なんだが…」

「あらあら、まあまあ~」

 母さんは言う前から分かったようで、嬉しそうに微笑んでいる。


「うちで一緒に暮らさないか。そうすれば、そのお屋敷とやらで一人になることもないし、何より僕達が君たちを支えることができる」

「えぇっ!? ちょっとパパっ!!」

 紗織が予想外の展開に焦っている。

 僕も同様だ。まさか親のほうから仕掛けてくるなんて予想してなかった。


「…いや、しかし悪いのだ。我らは他人であるわけだし…」

「こうやって一緒にご飯を食べたんだから、もう私たちは家族よ」

「いやでも…」

「エリーゼちゃんの、本音を聞かせて?」

 母さんが優しく訊ねる。


 エリーゼは頬を赤く染め、俯きがちに答えた。

「……よいのか? 優介」

 そこで僕に振ってくるのか。仕方ない、フォローしてあげよう。

「もちろんさ。エリーゼもラウラさんも、ここにいていいんだ」

「………うん。我らを、ここに住ませてください」


 エリーゼとラウラさんは頭を下げて言った。

「頭を上げて、僕達はもう家族だからね」

 父さんを初めて尊敬した瞬間だった。

「下心あるんじゃないでしょうね~?」

 紗織がとんでもない疑惑を口にする。


 本人たちの前でそんなこと言われたもんだから父さんの動揺が半端ではない。

「そんなわけないだろうっ! 僕は生まれてから死ぬまでずうっと母さん一筋さっ!!」

「あらいやね~照れるわ」

 バカップルここに現る。

「手、出すなよ?」


 紗織が一応念を押した。

 どれだけ疑い深いんだ妹よ。まあ、それだけ二人のことを考えてるってことだろうけど。

 ごほんと咳払いをして、父さんは締めに一言付け加えた。

「君たちがいたい時まで、うちにいてくれていい。僕達は仕事でいないときも多いけど、そんなときは優介と紗織が一緒にいてあげてくれ」


「うん、分かった。紗織もね」

「ちぇっ、しょうがないわね」

 紗織、嫌そうにしつつ顔が笑ってます、はい。

「…ありがとう、なのだ。みんな、大好きだっ!」

「感謝で言葉もありません」

 その日の夕食はいつもより少し豪華で。

 いつもより少しにぎやかな、忘れられない思い出となった。


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