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金色の吸血姫  作者: 杞憂
姫の決戦篇
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見えない助力

 外に出たが、既にエリーゼたちの姿は見当たらなかった。

 でも目的地だけは分かる。あの日行った屋敷だ。

 エリーゼは吸血鬼など一捻りだ、と言っていた。

 それは彼女が戦う決断をしたことに他ならない。

 危険な目に遭う前に、彼女を止めなければいけない。


「紗織、屋敷の場所覚えてる?」

 僕はラウラさんに誘拐されてたので、家からの行き方が分からないのだ。

「もち! ついてきて、ゆう兄っ」

「頼んだよっ」

 紗織が先導し僕たちは急いで屋敷へと向かう。


 この前のように命を狙われたら、今度こそ助けられないかもしれない。

 だからこそ。もっと早く、もっと速く、エリーゼの元へ!

「おいおい、焦るとすっころんじまうぞ。お嬢さん方よぉ」

「!!」

 突如行く手を阻むように立ちはだかったのは、あの夜に出逢った吸血鬼だった。


 僕たちは戦慄する。あの夜の恐怖が一瞬で頭に甦る。

 辺りに漂うのは濃厚な死のにおいだ。非日常の死臭だ。

 でも、立ち止まるわけには行かない。

「あ、あんたなんか怖くないんだから! 邪魔しないでよっ!」

「……どいてもらえませんか、僕たちは急いでいるんです」


 毅然とした態度で臨む。恐怖など感じている暇はない。

「…ふん、そいつは無理だな。屋敷に行くんだろう?」

 それでも吸血鬼はどかなかった。行かせる気はない、ということだろうか。

「どいてくれないなら…力ずくでも」

「まぁ待て。お前が俺に勝てるわけねえだろ。少しは話を聞け」

「……?」


 吸血鬼に敵意はなさそうだった。それが逆に油断を誘っているのではないかと不安になる。

 彼は懐から注射器を取り出した。何が目的なんだ…?

「こいつはお前らのような人間が吸血鬼になることを防ぐ薬だ。屋敷に行くならこいつを投与しておけ」

「……そんな話信じられません。毒かもしれない」

「そうよ、それであたしたちを殺そうってわけっ?」

 僕たちは安易に彼を信用できない。彼はエリーゼの敵、吸血鬼なのだから。


「仮に毒だとしても、俺ならこんなもん使わんで直接手を下すね。その方が手っ取り早い」

 確かに銃を持ってるのだし、こんなことする必要はない。

「………本当、なんですか?」

「まあ俺が信用できんのも無理はない。使うも使わないもお前たちの自由だ。ただ俺のお仲間になる可能性があるから、屋敷に行くなら注意しろって話だ」

「……ゆう兄、どうする?」


 吸血鬼の話を信じるべきなのか、それとも罠なのか。

 僕には正解は分からない。だから、直感に頼ることにした。

「紗織、この人の言うこと信じてみよう」

「…うん。ゆう兄がそう言うなら」

 僕は彼が差し出した注射器を受け取った。


 よく分からないが、腕にでも注射すればよいのだろうか。

 ちくりと針が刺さる感触と、異物が身体の中に進入してくる感覚の両方が僕を襲う。

 紗織も別の注射器で薬を注射したようだった。

 これで本当に、僕たちが吸血鬼になることはないのだろうか。

「終わりましたよ、注射」


「…ワクチンの効果がどれほどもつかは俺も知らないが、今日明日でどうこうはならんだろう」

「それで、なんであんたはこんな手助けみたいなまねしてくれるの?」

 吸血鬼は少し悩む素振りを見せて言う。

「強いて言うなら、気に入ったんだよ。お前らのこと。それに、止めても聞かねえと思ったしな」

「…気に入った?」

「少なくとも、あのデブより守る価値があると思ったまでさ」

「デブ?」


 吸血鬼の言ってることはよく分からなかったが、とりあえず本当に毒ではなかったらしい。

 時間が経った今でも身体に異常は感じられない。

 そうだ、それよりも早くエリーゼを追わないと!

「…あれ? よく考えると、いま目の前にいるのが敵なんだよね。だったらエリーゼたちは無事なんじゃ…」

「忠告しといただろう、命を狙っているのは俺だけではないと。屋敷には既に別の吸血鬼がいる」

「それじゃあやっぱり急がないとっ!」

 エリーゼの身に危険が迫っているのに、のんびりしてはいられない。


「待て、最後に一つだけ言わせろ。命令だ」

「……なんです?」

 彼は走り出そうとする僕たちを引き止めた。

「もしお前らが生き残れたら、俺は吸血姫殺しの任を降りる。今後一切お前らに危害は加えない」


「……他の吸血鬼が代わりに来るだけでしょう?」

「そうかもしれん。だからそこから先のことは、お前自身で決めろ。坊主」

「…何が来ようと、僕はエリーゼを守ります」

「…いい返事だ」

 吸血鬼はそれ以上何も言わなかった。ただ黙って煙草に火をつけていた。

 行け、と言われている気がして、僕たちは前に進むことにした。

 エリーゼが待っている、あの屋敷に。



 エリーゼとラウラは既に屋敷に着いていた。

 辺りに吸血鬼が潜んでいないか様子を窺っている。

 あの時のように銃撃されたら何も出来ない。

 警戒を解くことはすなわち死に繋がる。


「ラウラ、進むぞ」

「はい、姫」

 二人は慎重に歩を進める。

 無事に正面玄関に辿り着くかに思えた、その時。

 その男は、不快な声を撒き散らしながら現れた。


「ふひひ、来たぜ来たぜ来たぜぇぇぇっ! 俺様の獲物がよぉ~~~っ!!」

 玄関の前に立ちはだかる大男、吸血鬼ゴードンは汚らしく涎を垂らしている。

 まるで狗だ。制御の利かない駄犬だ。

「…ふっ。新たな吸血鬼とは予想外だったが…どうやら躾がなっていないようだな、犬め」

「あぁ!? 俺様が犬だと! 躾けられるべきはお前だっ、くそちびぃっ!!」

「姫に向かってそのような暴言……君は苦痛を所望のようだな」


 エリーゼは不敵に笑い、ラウラは構えを取る。

 決死の覚悟で、ゴードンと対峙する。

「我が直々におぬしを調教してやろう……支払いは高くつくぞ」

 戦いの火蓋が、いま切られた。


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