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金色の吸血姫  作者: 杞憂
姫の決戦篇
24/34

母、帰る

 朝、再び母さんから電話があって、昼頃には帰れると言っていた。

 父さんも夕方には帰ってくるという。僕たちはひとまずそれまでの間休むことにした。

 リビングに集まりのんびりとテレビなどを見ている。

 いつもと変わらない休日の光景だった。

 朝食はラウラさんが作ってくれた和食を食べたので、昼まではもつだろう。


 エリーゼはというと、なぜか沈んだ表情で僕の横に座っている。

 ソファの大きさ的に結構近距離なので、彼女の様子が一層気になるのだ。

「……エリーゼ、どうかした? 何だか暗いよ?」

「……」

 反応なし。普段の彼女ならこんなに鈍くない。

 しばらく反応を待つことにする。……ちょっと遊んでみようか。


 つん。頬を指でつついてみる。

「……」

 つんつん。

「……」

 ぷにっ。

「よし、決めたぞっ」

 突然エリーゼが立ち上がった。ちょっとびっくりした僕。


「な、なにを?」

「我に膝枕をせよ、優介!」

「はい?」

 ずっと悩んでいると思っていたら、突拍子もないことを言われたものだ。


 それにこれは個人的願いだけど、膝枕は女の子にやってもらいたい。

「憧れておったのだ。愛しいものに優しく膝枕をしてもらう、まさしく至高であろう?」

「……恥ずかしいんだけど」

 この場にはラウラさんも紗織もいるのだ。

 ソファはテーブルより後ろにあるから、席に座ってテレビを見ている二人には見えないかもしれない。

 でもやっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。


「そこを何とか頼む、一生のお願いだ」

「そんなことで一生分使うの?」

「むぅ、ではどうすればよいのだ」

「そうだなぁ…」

 僕は少し照れながらも、思ったことを提案してみる。

「膝枕、してあげるから。僕にも……エリーゼがしてくれない?」

 言った、言ったぞ僕は! 男なら、自分から進んでいかないと。


 僕がそう言うとエリーゼは顔をほんのりと赤くした。

 してもらうのはよくても、するのはやっぱり恥ずかしいのか。

「ゆ、優介も言いおるようになったのぅ。それでよいのなら、引き受けるぞ」

「分かった。じゃあ、来ていいよエリーゼ」

「う、うむ…」

 ソファに横になり、エリーゼがちょこんと僕の膝に小さな頭を乗せる。


 重くはなく、何だか自分が彼女の親になったかのような温かい感情が胸にこみ上げてくる。

 エリーゼのことがとても愛しく感じられた。

 僕は自然に彼女の頭をゆっくりと撫でていた。

「……むぅ。自分で言っておいてなんだが、結構くるのぅ…」

 くすぐったそうに身をよじる。


 今はとりあえず彼女の体温を感じていよう。

 それが僕たちの繋がりを教えてくれるから。

「……優介、交代しよう」

 しばらくそうしてから、彼女が身を起こした。

 今度は僕がしてもらう番だ。


「さあ、いつでもよいぞ」

 ポンポンと膝の上をはたき、エリーゼは手を広げて僕を誘う。

 変に緊張してきて、思わずつばを飲み込んだ。

「そ、それじゃあ……」

 僕はエリーゼの透き通るように綺麗な足に頭を乗せようとして、


 固まった。

「…………ゆーうーにーいー……!」

「…少年よ、少しは場所を考えろ」

 紗織もラウラさんも、こちらをガン見してました。穴があったら入りたいっ!

 とっさに体勢を立て直しエリーゼから離れる。

 横顔を見ると、エリーゼも赤面していた。


 ちょっと惜しかったかな、なんて心の中で思う僕であった。

「……優介よ、次にもし再び会えたら、その時にな?」

「…? う、うん」

 エリーゼの言葉に疑問を感じた。

 なぜ仮定形なのだろう。彼女はうちに居候してるのだから、次も何もないはずだ。

 それが引っかかったまま、しかし解答を出すことは僕には出来なかった。



 正午間近になり、家のチャイムが訪問者の合図を告げた。

 僕と紗織が玄関に行ってドアを開けてみると、やはりそこにいたのは母さんだった。

 今日突破するべき第一の関門だ。母さんにエリーゼたちの居候を認めてもらえれば、父さんを説き伏せるのも容易くなるだろう。


「ただいま優介、紗織。元気にしてた?」

「元気元気、もっと出張しててもよかったんだよ~? ママたちがいなくてもあたしたち二人で生活できたんだし」

「こら紗織。母さん、お帰りなさい」

「うん、仲よさそうだから良し! …あら、知らない靴があるわね。お客さん?」

「……う、うん。まあそんなとこ」

「ん~、そうね。時間もあれだしお昼ごはんでもご馳走しましょうかしら」

 母さんは何だか上機嫌だ。仕事帰りで疲れてるはずなのに、まだまだ心は若いようだ。


 リビングに三人で戻ると、エリーゼとラウラさんが正座して待っていた。

 そのまま二人は母さんに向かって上品に黙礼する。

 母さんは少し驚いているようだ。もちろん、僕も紗織も同様に。

 僕の中の二人のイメージでは、彼女たちは決してこんな振る舞いはしない。


「お初にお目にかかります。優介くんのクラスメイトの、エリーゼと申します。どうぞよろしくお願いします」

「…そのメイドのラウラです。以後お見知りおきを」

「は、はあ…これはまた丁寧に……ちょっと優介、なんか母さん色んな意味で負けそうだわ」

「僕もびっくりしてるんだけど…」

 標準語話せたんだ…って、そうじゃなくって!


「と、とりあえず二人とも、よければお昼一緒に食べていって? 色々お話聞きたいわ」

「ありがとうございます、ご一緒させていただきます」

「じゃあ、母さん料理するから。優介、ちゃんとおもてなししなさいよ~」

 そう言って慌しく母さんはキッチンに向かった。

 後に残された僕たちに微妙な空気が流れる。


 最初に口を開いたのは、紗織だった。

「……吸血鬼、あんたなに猫かぶってんの?」

 いきなり核心を突いた。エリーゼは僕に聞かれたくない事でもあるのか、紗織と端に寄ってごにょごにょと何かを話している。

「(……猫をかぶらずにはいられんだろう。相手は想い人の親であるぞ…?)」

「(あんたが普通に話してると違和感しかないのよ。てかぶっちゃけ気持ち悪い)」

「(なんだと! おぬし我が義姉になったら覚悟せよ!)」

「(ふふっ、あんたやっぱりそっちの方が合ってるわ。ゆう兄は渡さないけどね)」


 二人の目線はバチバチと火花を立てるようだ。

 僕には一切内容が分からないのでひどく気になる。

 ラウラさんが僕の横に立って言う。

「少年、乙女の秘密は薔薇と同じ。触れぬ方が身のためだ」

 うーん、難しいものなんだな…


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