罰ゲームはほどほどに
エリーゼの衝撃発言から一週間がたった。
みんながみんなあの言葉の意味を考えた結果、女の子が女の子と仲良くなりたいってのは普通じゃないか、という曲解を果たし、彼女は自然にクラスに馴染んだ。
みんな、考えたくなかっただけなのかもしれない。超がつくほどの美少女が、実は百合っ子だなんて。
そんなこんなで、今日の放課後に至る。
「うーん、どっちだろ……?」
今、僕とこのはと蛭賀くんは三人でトランプをやっていた。
ゲームはババ抜き。僕は複雑なルールのものは知らなかったからだ。
但しそれだとつまらないから罰ゲーム有りにしよう、と蛭賀くんが提案した。
このはの手札は残り三枚。蛭賀くんは一番に抜けて、既に場外だ。
こちらにジョーカーはないから、このはが持っているんだろう。
「さあ、早く引きなよ。ゆうすけ」
緊張が走る。ここでジョーカーを引けば、多分僕は負ける。
こういう時のこのはの勝負強さは桁違いなのだ。
運命の一枚を選ぶ。罰ゲームと称して何をされるか分かったものではない。
僕は、負けられないんだっ(身の安全のために)。
「これに決めた!」
選んだカードを引く。
見ると、そこにはふざけた格好をしたピエロが僕をあざ笑っていた。
「当ったり~。ありがと」
「へ?」
そう言って放心状態の僕の手札からカードを引き、二枚ペアを場に落とすこのは。
最後の一枚を僕が引いて、負け。
「じゃ、罰ゲームだな」
場を眺めていた蛭賀くんがゆっくりと立ち上がり、何かが入っている紙袋を渡してきた。
がさがさと音がする。服だろうか。
「これ、どうするの」
「トイレで着替えて来い。逃げたらもっと罰が増えるぜ」
嫌な予感がするが、罰ゲームだから仕方ない。
僕は素直に従ってトイレに行った。
「なにこれ……」
個室に入って中身を確認し、驚いた。
中に入っていたのは、この学校の女子の制服だった。
そこそこ可愛いデザインで地元の学生にも人気の一品だ。
ご丁寧にスカートまで。どこでこんなもの手に入れたんだ……
「うぅ、何でこんな目に」
なんでスカートなぞ履かなきゃいけないのだろう。
よく見たらウィッグまで入ってるし。
涙目になりながら着替えを済ませ、ウィッグを被る。
鏡を見たくなかったので、素早くトイレから出た。
放課後で残っている学生がほとんどいないのが幸いだった。
「はやく、教室に戻ろ」
小走りで教室まで帰って来た。勢いよく戸を開け中に入り、すぐに閉めた。
「おう、おかえ……り!?」
蛭賀くんが固まる。このはもこちらを見て停止していた。
「ゆうすけ、なの?」
「うん、ちゃんと着たよ。これで文句無いでしょ?」
二人がそろってかなり近くまで寄ってきて、思わず後ずさった。
「な、なに?」
「…可愛い」
「はい?」
「似合ってるぜ、優介っ!」
「ええええっ」
褒め言葉を頂いても、どう返したらいいかが分からない。
そもそも、褒められても嬉しくない。
「ウイッグつけただけでこんなに印象変わるとはなぁ。元々女顔だったのもあるか」
「背もそんなに高くないしね、ゆうすけは」
べたべたと遠慮なしに身体を触りまくってくる変態二名。
なんか、さらに嫌な予感が……
「よし、写真に撮ろうぜ」と蛭賀くん。
「ブログにも載せたいかもっ」とこのは。
それは、完全にアウトです。僕の人権的にアウトです。ということで―――
「脱出っ!」
一目散に逃げ出す僕。
僕を逃がすまいと二匹の狼が追っかけてくるが、彼らは追い詰められた草食動物の火事場の馬鹿力を知らないのだ。どこにそんな脚力が? というような速度で、僕は魔の校舎から逃亡した。
「ここまで来れば大丈夫だろ、ふぅ……」
校舎の裏側まで逃げ延びて一息つく。今日は無駄に大変な日だった。
教室にかばんを忘れてしまったが、緊急事態のため仕方ない。
このまま静かに帰ろうと思い立ち、僕は裏から回っていこうとした。
すると路地の奥のほうから何やら話し声が聞こえることに気付いた。
女の子の声だった。しかも、一つは知っている声だ。
「……エリーゼ?」
僕は物音を立てないようにそーっと近づいた。
壁に隠れ、様子を窺う。
予想通り、そこにはエリーゼと知らない女の子がいた。
違うクラスの子だろうか、随分と親しげに話している。
「何を話してるんだ…?」
あまり覗き見はよくないと思ったが、なにせ相手はあの金髪少女なのだ。
気にするなというほうが難しい。
よく見ると、二人ともほのかに顔が赤かった。夕方で空が赤いからそう見えるのだろうか。
「(え、うそ、えぇぇ~~~…!?)」声にならない声。
エリーゼと女の子がキ、キスを……!