どうしてこうなった
「くくく…とうとう決着をつけるときが来たようだな」
男子A(本名:田中)が男子B(本名:中田)に対して宣戦布告をした。
それを真に受け構えを取る男子B(中田)。
「お前の名前紛らわしいんだよっ、くらえっ!」
超速で飛ぶ弾丸は、予め構えていた男子B(中田)にも強烈な衝撃を与える。
しかし、すんでのところでそれは受け止められた。
「ふっ……甘いな。お返しだっ!」
反逆せし弾丸は、見事に男子A(田中)の身体を撃ち抜く。
「ぐはあっ! お、おのれぇええっ!!」
「お前はもう、死んで…」
「はいはい、アウトアウト。さっさと外野に行け~」
僕たちが授業時間にも関わらず何をしているかって?
………まあ、ドッジボールなんだけど。
昼休みが終わり、五時限目が始まった。
今日は六時限目まで体育の授業が連続である日なのだ。
男子は校庭、女子は体育館にそれぞれ別れて授業を受けている。
僕たちはだだっ広い校庭でなぜかドッジボールをやることになった。
ふざけた男子が先生に提案して、それが通ってしまったのだ。
どうしてこんなことになっているのか、甚だ疑問に思う。
なんでバトルものっぽい雰囲気を醸し出しているんだろう。
「優介、下がっていろ。ここはお前には危険すぎる」
なにこのイケメンオーラ、ウザ過ぎる。
僕の目の前には、僕を庇うような格好で蛭賀くんが立っていた。
「はは、さながら姫を守る騎士って感じか? 蛭賀」
男子B(中田)、敵チームの大将が意地悪そうに笑う。
実際、他人を庇って自由に戦えるほど男子のドッジボールは甘くない。
隙を見せれば恰好の的となるわけだ。
「蛭賀くん、無駄な気がするんだけど」
「そんなことはないさ。お前が無事ならな」
「…………」
……うん、もう何も言わないさ、僕は。精々頑丈な盾になってもらおう。
「覚悟はいいか、いざっ!!」
男…もう中田でいいや。中田くんが身体をひねり、全身の力を込めてボールを繰り出した。
「食らいやがれぇっー!」
「お前は俺が守るっ!」
これ、授業なんだけどね…
蛭賀くんのガードを抜けて、ボールは彼の顔面へと突進した。
爆発音のような凄まじい音をたて、直撃する。
「のぼわぁっ!?」
勢いよく後ろに吹っ飛ばされる蛭賀くん。
後ろには僕がいるから、受け止めてくれるとでも彼は思ったのか。
あえて飛んできているような感じもした。
「おっと」
僕はそれを、横に避けた。
突然の裏切り行為に、彼の表情が変わる。
……いいんだ、お前を守れたんだから。彼の眼は、そう無言で語っていた。
そのまま地面にもの凄い速さで落ちていく。
ガンッ、と後頭部に衝撃を食らったようで。
蛭賀くんは眼を回しながら気絶してしまった。
「おーい、誰か蛭賀を保健室に連れて行ってくれ」
先生がさすがに声を上げた。
「あ、じゃあ僕が連れて行きます」
「おう、榊原、頼んだぞ」
僕にも一応責任の一端はあるわけだし、僕が適任だよね。
そうして今日の授業は流れていき、放課後へと時は経っていった。
帰る前のホームルームにも、蛭賀くんは教室に戻ってきてはいなかった。
まだ寝ているのかもしれない。後で様子を見に行くべきだろうか。
「ゆうすけ、帰ろーっ」
このはが鞄を肩にかけて、僕の席の前に立った。
エリーゼもその横にちゃっかり陣取っている。
「もうちょっと待って。そういえば二人とも、テストはどうだったの?」
気になっていたことを訊ねてみる。
特にエリーゼには協力してあげた分、結果が知りたいのだ。
「私はまあまあだったよ。可もなく不可もなくって感じ」
「全然駄目よりはいいのかな、エリーゼは?」
「我の勇姿は、是非録画しておぬしに見せたいぐらいだったぞ! 無論、大成功だっ!」
エリーゼはとても満足そうに笑っている。よほど成功が嬉しいのだろう。
「よかったね、エリーゼ」
「ちなみに、技成功と共にそりゃもう入れ食い状態であった」
「何の話だっ!」
褒めた途端に調子に乗るんだから、困ったものだ。
「そういえば、あいつはどうしたの?」
このはが訊いてくる。多分あいつというのは蛭賀くんのことだ。
「保健室。僕ちょっと行ってくるから、二人は先に帰っててもいいよ」
二人には悪いけど、僕は蛭賀くんの様子を見てから帰ることにしよう。
「なんか用事でもあるの? 私たちも行こうか?」
「我もあの馬鹿に少し興味があるぞ、何かやらかしてくれそうだ」
「ううん、僕にも責任があるから。一人で謝りに行くよ」
このはとエリーゼに授業での出来事を伝える。
もちろん、バトル描写は抜きにして。
すると、二人そろって僕を非難してきた
「ゆうすけ、それはちょっとないよ。いくらキモかったからって、守ってくれたんだから」
「……そうだのぅ。すこーし薄情だのぅ。というわけで、お仕置きタイムだ」
どういうわけですか、教えて下さい。
「なぜかここに予備の女子制服があるのだが、分かるであろう優介? 我の下僕ならばな」
「分かりたくもありません、それを僕にどうしろと?」
二人の目が怪しげに光る。ニタニタと不気味に笑う姿は、まさしく魔女だ。
「これを着て、見舞いに行くがよいっ!」「だよっ、ゆうすけっ!」
「いーやーだーーっ!」
夕焼けが教室内を儚げに彩る中、一人の切実な咆哮が辺り一帯に轟いた。