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金色の吸血姫  作者: 杞憂
姫の日常篇
19/34

どうしてこうなった

「くくく…とうとう決着をつけるときが来たようだな」

 男子A(本名:田中)が男子B(本名:中田)に対して宣戦布告をした。

 それを真に受け構えを取る男子B(中田)。

「お前の名前紛らわしいんだよっ、くらえっ!」

 超速で飛ぶ弾丸は、予め構えていた男子B(中田)にも強烈な衝撃を与える。

 しかし、すんでのところでそれは受け止められた。

「ふっ……甘いな。お返しだっ!」

 反逆せし弾丸は、見事に男子A(田中)の身体を撃ち抜く。

「ぐはあっ! お、おのれぇええっ!!」

「お前はもう、死んで…」

「はいはい、アウトアウト。さっさと外野に行け~」

 僕たちが授業時間にも関わらず何をしているかって?

 ………まあ、ドッジボールなんだけど。



 昼休みが終わり、五時限目が始まった。

 今日は六時限目まで体育の授業が連続である日なのだ。

 男子は校庭、女子は体育館にそれぞれ別れて授業を受けている。

 僕たちはだだっ広い校庭でなぜかドッジボールをやることになった。

 ふざけた男子が先生に提案して、それが通ってしまったのだ。


 どうしてこんなことになっているのか、甚だ疑問に思う。

 なんでバトルものっぽい雰囲気を醸し出しているんだろう。

「優介、下がっていろ。ここはお前には危険すぎる」

 なにこのイケメンオーラ、ウザ過ぎる。

 僕の目の前には、僕を庇うような格好で蛭賀くんが立っていた。


「はは、さながら姫を守る騎士って感じか? 蛭賀」

 男子B(中田)、敵チームの大将が意地悪そうに笑う。

 実際、他人を庇って自由に戦えるほど男子のドッジボールは甘くない。

 隙を見せれば恰好の的となるわけだ。


「蛭賀くん、無駄な気がするんだけど」

「そんなことはないさ。お前が無事ならな」

「…………」

 ……うん、もう何も言わないさ、僕は。精々頑丈な盾になってもらおう。

「覚悟はいいか、いざっ!!」

 男…もう中田でいいや。中田くんが身体をひねり、全身の力を込めてボールを繰り出した。

「食らいやがれぇっー!」

「お前は俺が守るっ!」

 これ、授業なんだけどね…


 蛭賀くんのガードを抜けて、ボールは彼の顔面へと突進した。

 爆発音のような凄まじい音をたて、直撃する。

「のぼわぁっ!?」

 勢いよく後ろに吹っ飛ばされる蛭賀くん。

 後ろには僕がいるから、受け止めてくれるとでも彼は思ったのか。

 あえて飛んできているような感じもした。


「おっと」

 僕はそれを、横に避けた。

 突然の裏切り行為に、彼の表情が変わる。

 ……いいんだ、お前を守れたんだから。彼の眼は、そう無言で語っていた。

 そのまま地面にもの凄い速さで落ちていく。

 ガンッ、と後頭部に衝撃を食らったようで。

 蛭賀くんは眼を回しながら気絶してしまった。


「おーい、誰か蛭賀を保健室に連れて行ってくれ」

 先生がさすがに声を上げた。

「あ、じゃあ僕が連れて行きます」

「おう、榊原、頼んだぞ」

 僕にも一応責任の一端はあるわけだし、僕が適任だよね。

 そうして今日の授業は流れていき、放課後へと時は経っていった。



 帰る前のホームルームにも、蛭賀くんは教室に戻ってきてはいなかった。

 まだ寝ているのかもしれない。後で様子を見に行くべきだろうか。

「ゆうすけ、帰ろーっ」

 このはが鞄を肩にかけて、僕の席の前に立った。

 エリーゼもその横にちゃっかり陣取っている。

「もうちょっと待って。そういえば二人とも、テストはどうだったの?」

 気になっていたことを訊ねてみる。


 特にエリーゼには協力してあげた分、結果が知りたいのだ。

「私はまあまあだったよ。可もなく不可もなくって感じ」

「全然駄目よりはいいのかな、エリーゼは?」

「我の勇姿は、是非録画しておぬしに見せたいぐらいだったぞ! 無論、大成功だっ!」

 エリーゼはとても満足そうに笑っている。よほど成功が嬉しいのだろう。

「よかったね、エリーゼ」

「ちなみに、技成功と共にそりゃもう入れ食い状態であった」

「何の話だっ!」

 褒めた途端に調子に乗るんだから、困ったものだ。


「そういえば、あいつはどうしたの?」

 このはが訊いてくる。多分あいつというのは蛭賀くんのことだ。

「保健室。僕ちょっと行ってくるから、二人は先に帰っててもいいよ」

 二人には悪いけど、僕は蛭賀くんの様子を見てから帰ることにしよう。

「なんか用事でもあるの? 私たちも行こうか?」

「我もあの馬鹿に少し興味があるぞ、何かやらかしてくれそうだ」

「ううん、僕にも責任があるから。一人で謝りに行くよ」

 このはとエリーゼに授業での出来事を伝える。


 もちろん、バトル描写は抜きにして。

 すると、二人そろって僕を非難してきた

「ゆうすけ、それはちょっとないよ。いくらキモかったからって、守ってくれたんだから」

「……そうだのぅ。すこーし薄情だのぅ。というわけで、お仕置きタイムだ」

 どういうわけですか、教えて下さい。

「なぜかここに予備の女子制服があるのだが、分かるであろう優介? 我の下僕ならばな」

「分かりたくもありません、それを僕にどうしろと?」

 二人の目が怪しげに光る。ニタニタと不気味に笑う姿は、まさしく魔女だ。

「これを着て、見舞いに行くがよいっ!」「だよっ、ゆうすけっ!」

「いーやーだーーっ!」

 夕焼けが教室内を儚げに彩る中、一人の切実な咆哮が辺り一帯に轟いた。


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