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金色の吸血姫  作者: 杞憂
姫の日常篇
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その男、危険につき

 "姫狩り"騒動の翌日、つまり今日のこと。

 僕はエリーゼが隠していた制服を返してもらい、やっとの思いで普段通り学校に行くことができた。

 今日も途中でこのはに会うことはなかった。時間が押していたからだろう。

 教室のドアを開けると、皆が一斉に僕に注目する。

 な、なんだろうこのプレッシャーは……


「あれ、普通だね。ゆうすけ」

 このはが不思議そうに聞いてくる。普通じゃいけないのだろうか。

「普通だよ。もうあんな格好はしたくないし」

「え~、なんで? すっごい似合ってたのに」

「そういう問題じゃないんだって」

 心なしか周りからもこのはに同意する声が上がっている気がする。

 お前ら面白がってるだけだろ、と言いたくなるがそこは堪えるのが僕の性分だ。


「我は好きだがな、あの姿」

「なっ!?」

 僕の後ろから教室に入ってきたエリーゼが一言そう言った。

 それによりクラスメイトたちは我が意を得たりといった感じで騒ぎ立てる。

「エリーゼちゃんのお墨付きも出たし、もうあの格好で授業に出ろよ榊原っ!」

「いいと思うよ榊原くん。可愛かったし…お持ち帰りしたいくらい」

「ほら、みんなこう言ってるよ、ゆうすけ?」

 いい笑顔で言うこのは。天然でやっているのがこのはの強いところだ。


「着ないからね、エリーゼも余計なこと言わないっ!」

 エリーゼの額に力を溜めた手を近づける。

「す、すまんのだっ! だからデコピンはやめてぇ~~っ!」

 そんなに怖いの? というほどに怯えるエリーゼ。額を両手で隠している。

「……分かったならよし」

 近づけていた手を下ろすと、エリーゼはあからさまに安堵したようだった。

 油断しているところに、僕は溜めなしの本当に軽いデコピン攻撃をした。

「んぁっ、何するのだっ」

「これは制服隠された時の分」

「むぅ~」

 不満そうだが、おかげで僕の心のもやもやは一応解消された、ということにしておいてあげよう。


「そういえば、そのほっぺたどうしたの。怪我した?」

 思い出したようにこのはが訊ねてくる。

 その言葉にピクリと身体を動かしてエリーゼが反応した。

 見ると少し苦い顔をしている。責任を感じてしまっているのかもしれない。

「昨日、階段から落ちちゃってさ。でもそんなにひどくないから」

「危ないなぁ。気を付けないと駄目だよ」

「うん、そうする」

 適当に理由をでっち上げ、本当のことは言わないことにした。

 実際、吸血鬼だ何だと言われて理解してくれる可能性は低い。

 知らないほうがいい世界もあるということだ。

「気にしないで。君は悪くないんだから」

 僕はエリーゼにそっと耳打ちした。

 彼女は何か言いたそうだったが、黙ってうなずいた。



 三時限目まで終わり、今日も蛭賀くんは欠席かと思いきや、遅刻して登校してきた。

 四時限目の途中で教室に入ってきて、先生に色々と話した後、自分の席に座った。

 ちなみに蛭賀くんの席は僕の席の右斜め前側にある。少し遠い場所だ。

 なぜか今の彼を見ていると違和感を感じる。

 前までの蛭賀くんと、雰囲気が全然違うのだ。

 どことなく、不思議なオーラのようなものを醸し出しているような気がする。


 それに今までは手入れも然程されていなかった髪が、整っていた。

 前はラフなタイプだったのに、突然二枚目に変身したかのように。

 彼は、まるで僕の知らない人間になってしまったみたいだ。

 見すぎたのか、蛭賀くんも視線に気付いたらしく、僕の方をチラと見た。

 彼と眼が合う。やはり違う。僕の知っている眼じゃない。

 蛭賀くんは何を思ったのか、爽やかな顔で僕に笑いかけた。

「………………!?」

 鳥肌が立った。



 授業が終わり昼食の時間になる。

 いつもは母が弁当を作ってくれるのだが、今は仕事でいないため、これまで購買のパンを買って済ませていた。

 うちの学校は施設が充実していて、学食もあるにはある。

 だけど規模が小さいため滅多には入れないのだ。入ってみたくはあるんだけど。

 今日からはラウラさんが母の代わりに食事を作ってくれるようになったので、僕もエリーゼも弁当持参だった。お金も節約できるし、嬉しい限りだ。


「優介、一緒に食べようぞ!」

 エリーゼは僕の前の席が空いていたのでそこに座った。

 椅子を反対にして僕の机に持ってきた弁当箱を置く。

「私も良ーい?」

 このはがエリーゼに訊いた。

「おぬしも可愛いからオッケーなのだっ」

 判断理由がそれかい。僕はもう何も言わなかった。


 隣の席のこのはも机をくっつけて弁当を取り出す。

 さあ食べようというときに、蛭賀くんがこちらを見ていることに気付いた。

 一緒に食べたいのだろうか、誘ってみよう。

「蛭賀くんもどう?」

「……いいのか? 優介」

「もちろんさ」

 やっぱり何かが違うと確信した。前の蛭賀くんだったら、こういうときは自分から積極的に参加しに来るタイプだったのに。


 僕の横の席に座った蛭賀くんは、僕の顔を見て言った。

「……怪我、してるのか」

 頬の絆創膏を気にしているんだろう。

「大丈夫、大したことないよ」

「駄目だっ!」

「えっ」

 突然声を張り上げて言われたので、驚いてしまった。

「な、なにが……?」

「大切な身体なんだから、大事にしないと駄目だぞ。優介は俺にとって、かけがえのない存在なんだからさ」

「ん?」

 良いことを言われているはずなのに、なんだろう。これじゃない感……


 なぜか、背中に悪寒が走る感じだ。

 エリーゼとこのはの二人も謎の事態に固まってしまっている。

 そんな時、ふとこの前このはに言われたことを思い出した。

『なんか、ゆうすけの可愛い姿見ちゃって、新たな世界の扉が開いちゃいそうだから、精神修行のために山篭りするらしいよ』

 あー、うん。

 分かった、違和感の正体。分かりたくもなかったけど。

 とりあえず、蛭賀くんに一言いわせてもらおう。

「蛭賀くん、あのね……」

「なんだ、優介?」

「山に帰れ」


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